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[PPS08-12] 小惑星版”HR”図:彗星・小惑星遷移天体フェートンから制約される小天体進化過程
キーワード:小惑星、アルベド、反射スペクトル、隕石、フェートン
小惑星は反射スペクトルの形状に基づいて小惑星の型が分類されており、いくつかの小惑星タイプと隕石のグループの類似性も指摘されている。しかし黒い普通コンドライトと炭素質コンドライトが極めて似たスペクトルを示すことからわかるように、全く異なる種類の岩石であっても見かけ上は似たスペクトルが生じることがある。このように反射スペクトルが縮退する現象は、従来の反射スペクトルの形状のみに依存した小惑星の分類方法には限界があることを示唆している。小惑星のアルベドもこれまで数多くの観測データが蓄積されているが、反射スペクトルとの関係はよく理解されていない。本研究ではアルベドを小惑星の分類体系に組み込むことによって、分類法の改善、およびアルベド―スペクトル間に潜在する物理量の抽出を試みた。
まず既存の文献から小惑星の反射スペクトルとアルベドのデータベースを構築した。反射スペクトルは主にInfrared Telescope Facility Near-IR Spectroscopy of Asteroidsで得られた0.45 – 2.45 μmのデータを3次スプライン補間し、波長分解能が0.05 μmの形式に統一した。反射スペクトルは各々の平均値で引き算した上で、S型およびC型小惑星の平均スペクトルとの相関係数をそれぞれ求め、両者の差分をスペクトル型指数Rと定義した。アルベドは主にSupplemental Infrared Astronomical Satellite Minor Planet Survey で観測された幾何アルベドを収集した。
得られたアルベドとスペクトル型指数を図示すると、V、S、およびC型小惑星がそれぞれのクラスターに分離された。さらにアルベドとスペクトル型指数の間に明瞭な関連性が見られた。このことは、アルベドがスペクトルに影響を与える重要な因子であることを示唆している。小惑星表面のアルベドに影響を及ぼす要素として例えば、(1) 鉱物量比および元素組成比、(2) レゴリスの粒径、(3) 宇宙風化、(4) 岩石中の結晶サイズ、が考えられる。しかし我々は結晶サイズがアルベドに影響する最も重要な因子であると考えており、その理由として (1) 隕石の分析によると、普通コンドライトと炭素質コンドライトはアルベドが大きく異なるが、両者の間の平均的な鉱物量比や炭素含有量には顕著な差が見られない、(2) 破砕により細粒化された粒子ほどアルベドを高くする効果はあるが、小惑星間に見られる著しいアルベドの差を説明できるほど十分ではない、および (3) 宇宙風化によってアルベドを低下させるためには還元鉄の生成が必要であるが、アルベドの低いC型小惑星がV型やS型に比べて還元鉄に富んでいるという観測的裏付けはない、ためである。
結晶サイズによってアルベド―スペクトル図を以下のように説明できる可能性がある:隕石の薄片の観察によると、一般的に細粒の結晶を多く岩石ほどアルベドは低くなる。これは粒子が小さくなるほど吸収の割合が増えていくという多重ミー散乱の性質に起因している。HED隕石の分析に基づくと、V型小惑星は集積後に分化と火成活動を経験したと考えられている。したがって母天体でのマグマ活動によりゆっくりとした冷却の結果、結晶が大きく成長し(~ mm)、アルベドが高いV型小惑星を生まれたと考えられる。一方で、S型とC型小惑星はそれぞれ普通コンドライトと炭素質コンドライトに対応していると考えられる。これらの隕石はコンドリュールを豊富に含みが、コンドリュールは原始太陽系円盤中で急速に冷却されたため、コンドリュール中の結晶サイズはHED隕石に比べ極めて小さい(~ nm)。これがC型小惑星の低いアルベドの原因であると考えられる。一方コンドリュールの間隙を埋めるマトリックス物質は、普通コンドライトでは大きい(~ μm)。このことがS型とC型の間で大きなアルベド差を生む原因であると考えられる。
アルベド―スペクトル図上で、特に小惑星フェートンはC/D型グループとS型グループの間を遷移するような非常に特徴的な分布を示す。フェートンはこれまで彗星・小惑星遷移天体または枯渇彗星核であることが示唆されてきたが、フェートンのアルベド―スペクトル図上でのこのような振る舞いは、フェートンが現在まさに小天体の進化の途中の段階にあることを示唆している。フェートンをフライバイ観測するJAXAのDESTINY+ミッションによって、どのような物理量が小惑星のアルベド・スペクトルを規定しているのかさらに理解が進むと期待される。
まず既存の文献から小惑星の反射スペクトルとアルベドのデータベースを構築した。反射スペクトルは主にInfrared Telescope Facility Near-IR Spectroscopy of Asteroidsで得られた0.45 – 2.45 μmのデータを3次スプライン補間し、波長分解能が0.05 μmの形式に統一した。反射スペクトルは各々の平均値で引き算した上で、S型およびC型小惑星の平均スペクトルとの相関係数をそれぞれ求め、両者の差分をスペクトル型指数Rと定義した。アルベドは主にSupplemental Infrared Astronomical Satellite Minor Planet Survey で観測された幾何アルベドを収集した。
得られたアルベドとスペクトル型指数を図示すると、V、S、およびC型小惑星がそれぞれのクラスターに分離された。さらにアルベドとスペクトル型指数の間に明瞭な関連性が見られた。このことは、アルベドがスペクトルに影響を与える重要な因子であることを示唆している。小惑星表面のアルベドに影響を及ぼす要素として例えば、(1) 鉱物量比および元素組成比、(2) レゴリスの粒径、(3) 宇宙風化、(4) 岩石中の結晶サイズ、が考えられる。しかし我々は結晶サイズがアルベドに影響する最も重要な因子であると考えており、その理由として (1) 隕石の分析によると、普通コンドライトと炭素質コンドライトはアルベドが大きく異なるが、両者の間の平均的な鉱物量比や炭素含有量には顕著な差が見られない、(2) 破砕により細粒化された粒子ほどアルベドを高くする効果はあるが、小惑星間に見られる著しいアルベドの差を説明できるほど十分ではない、および (3) 宇宙風化によってアルベドを低下させるためには還元鉄の生成が必要であるが、アルベドの低いC型小惑星がV型やS型に比べて還元鉄に富んでいるという観測的裏付けはない、ためである。
結晶サイズによってアルベド―スペクトル図を以下のように説明できる可能性がある:隕石の薄片の観察によると、一般的に細粒の結晶を多く岩石ほどアルベドは低くなる。これは粒子が小さくなるほど吸収の割合が増えていくという多重ミー散乱の性質に起因している。HED隕石の分析に基づくと、V型小惑星は集積後に分化と火成活動を経験したと考えられている。したがって母天体でのマグマ活動によりゆっくりとした冷却の結果、結晶が大きく成長し(~ mm)、アルベドが高いV型小惑星を生まれたと考えられる。一方で、S型とC型小惑星はそれぞれ普通コンドライトと炭素質コンドライトに対応していると考えられる。これらの隕石はコンドリュールを豊富に含みが、コンドリュールは原始太陽系円盤中で急速に冷却されたため、コンドリュール中の結晶サイズはHED隕石に比べ極めて小さい(~ nm)。これがC型小惑星の低いアルベドの原因であると考えられる。一方コンドリュールの間隙を埋めるマトリックス物質は、普通コンドライトでは大きい(~ μm)。このことがS型とC型の間で大きなアルベド差を生む原因であると考えられる。
アルベド―スペクトル図上で、特に小惑星フェートンはC/D型グループとS型グループの間を遷移するような非常に特徴的な分布を示す。フェートンはこれまで彗星・小惑星遷移天体または枯渇彗星核であることが示唆されてきたが、フェートンのアルベド―スペクトル図上でのこのような振る舞いは、フェートンが現在まさに小天体の進化の途中の段階にあることを示唆している。フェートンをフライバイ観測するJAXAのDESTINY+ミッションによって、どのような物理量が小惑星のアルベド・スペクトルを規定しているのかさらに理解が進むと期待される。