日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 惑星科学

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 国際会議室(IC) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:岡本 尚也(国立研究開発法人宇宙航空開発機構 宇宙科学研究所)、黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、座長:細野 七月(京都大学)、岡本 尚也(千葉工大惑星探査研究センター)

10:45 〜 11:00

[PPS08-13] 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

*山口 若奈1植田 千秋1久好 圭治1寺田 健太郎1 (1.大阪大学)

キーワード:磁気分離、磁化率、反磁性、外惑星探査、揮発性固体、ドライアイス

自然界に存在する固体物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。反磁性体は磁場がゼロの状態では磁化を有さないが、磁場を加えた場合、逆方向に弱い磁化が発生し、その大きさは磁場強度に比例する。先行研究では、小型のネオジム永久磁石を用いて、異なる粒子の集合体を並進運動させることで、粒子を磁化率の差異によって分離し、さらにその物質の種類を非破壊で識別できることが、微小重力環境を利用して示されている[1]。



今回、先行研究で設計された装置を基に、揮発性固体の分離・識別装置を新たに開発した。これまでの装置は、室温条件でしか行われていなかったが、上記の装置を用いて、揮発性固体(すなわちCO2)を含む異種粒子全体で初めて分離が実現した。外惑星領域や地球上の寒冷地に存在する固体粒子の大多数は、氷やドライアイスなどの揮発性物質であるが、今回開発した装置は、無人探査によって、その存在比の空間分布を得る方法として期待される。



外惑星のリングや衛星表面は、揮発性固体とシリケートを端成分にもつ固体物質で構成されていると考えられており、探査の現場では、広大な探査領域で、その質量比を効率よく知る必要がある。さらに2成分粒子の磁化率χは、質量比f = m1/(m1 + m2)を用いてχ = 1 + (1 - f)χ2…(1)と表される。ただし上式において、miは物質iの質量, χiは物質iの磁化率を表す(i=1, 2)。したがって2つの端成分の物質およびそれらの磁化率χ1, χ2が既知の場合、2成分粒子の磁化率χだけから、質量比fが決定される。上記の方法の利点は、探査の現場に存在する2成分粒子の質量比と存在頻度のヒストグラムを、探査の現場で効率的に推定できることである。これまでの分析法で同様のデータを得るには、個々の粒子を切断した上で、その断面の元素分析を行うなど、多段階の操作を必要とする。これに対し提案する方法では、磁気並進運動の観測だけで質量比が測定でき、粒子の質量や体積など、他の物理量の計測を必要としない。今回、上記の開発した装置を用いて、顕著な磁化率の変化が期待できるドライアイスと黒鉛の2成分粒子の質量比を、粒子の磁化率を測定する簡単な方法で決定し、この可能性を探るために現在の装置を適用する。上記の結果から、2成分粒子の質量比を簡単な方法で決定することが期待される。

 

実験では、まず寒剤を充填した断熱二重ガラス容器内に、小型のネオジム永久磁石を固定して磁場勾配を発生させ、これを木箱に設置する。この木箱を180cmの高さから自由落下させ微小重力空間を作る。自由落下中に混合粒子が引き起こす並進運動を、高速度カメラで観測し、得られた終端速度から磁化率を求める[1]。上記の実験で得た結果に基づき、単一成分の粒子の測定値を文献値と比較し、粒子の物質同定が原理通り実現するか確認する。一方、2成分粒子については、測定値を式(1)から予想される値と比較し、測定原理の妥当性を検証する。今回得られた結果に基づき、無人探査機に装置を搭載する場合の問題点を検討する。また100K以下の固化温度を有するエタン、メタンおよび窒素に関する実験を実現するための課題について考察する。

[1] Hisayoshi, Uyeda & Terada (2016) Sci Reps 6 38431.