[PPS08-P20] 火星大気高解像度ラージエディシミュレーションによる地表面ダストフラックスの見積もり
キーワード:火星、大気境界層、高解像度ラージエディーシミュレーション、乾燥対流、地表面応力、ダスト巻き上げ
1. はじめに
火星大気中にはダストが存在し, 大気の温度構造に大きな影響を与えていることが知られている. 地表から大気へのダスト巻き上げ量は, 大気境界層における地表面応力によって決まっている. ダスト巻き上げにおいて重要な点は, 必要な最低応力閾値が存在することにある. 地表面応力に寄与する境界層内の流れの時間および空間スケールは非常に小さいため, 多くの火星大気大循環モデル (MGCM) を用いた研究では, ダストデビルなど数十から数百 m 程度の構造を持つ流れ場によるダスト巻き上げ過程をパラメタライズすることで表現している. 従来, ダスト巻き上げ量は, 地表面付近の大規模場の風及び温度場を用いた, いわゆるバルク方式による平均地表面応力の評価では不十分であるとされ, ダストデビルのような特定の構造を考慮し, それらに伴う特異的な地表面応力の存在とその平均的寄与を見積もることが必要とされてきた (Kahre et al., 2006 など).
しかし, 火星大気境界層における特異的な地表面応力の発生とその統計は観測的検証がなされておらず, 理論的想像の範囲を出るものではない. 実際, これらのスキームを MGCM に導入して計算しても, グローバルダストストーム発生の年々変動の再現は, 観測による結果と比較すると時間方向にずれが生じる (Mulholland et al., 2013) など, 必ずしも成功していない. その原因として現状のパラメタリゼーションスキームが現在の火星環境ではよく検証できていないことが考えられる.
火星の場合, MGCM のサブグリッドスケールサイズにおける流れ場の正確な描像を観測によって得ることは困難であるが, 高解像度のラージエディシミュレーション (LES) を用いれば流れ場の描像が得られ, パラメタリゼーションの検討ができる可能性がある. 現在, MGCM には 11 km 程度の空間解像度で計算できるものがあり (Takahashi et al., 2011), 数 km 程度の計算領域における高解像度計算のデータを用いて流れ場の特徴を調べることで, MGCM におけるパラメタリゼーションスキームを検討できると期待される.
本研究では MGCM におけるダスト巻き上げパラメタリゼーションについて検討するために, 高解像度 LES 計算の結果における流れ場の構造とダスト巻き上げを決定づける地表面応力場の関係の調査並びに解像度の高い LES から出発し, 解像度を粗くした場合の結果の相互比較を行っている. 使用しているデータは, 世界最高解像度の LES を用いて火星大気境界層における調査を行なった Nishizawa et al. (2016) で得られたデータである. 彼らは 10 m 以下の空間スケールを持つ循環構造に注目して LES を用いた調査を行った.
2. データ
本研究では, Nishizawa et al. (2016) で計算された 解像度 5, 10, 25, 50, 100 m のデータを用いて解析を行う. このデータは, RIKEN/AICS で開発された SCALE-LES ver.3 を使用して得られたものである. 計算には, 火星を想定したパラメータ値が用いられている. 計算領域のサイズは水平方向に 19.2 km, 鉛直方向に 21 km である. 加熱・冷却率及び地表温度については, Odaka et al. (2001) による鉛直一次元モデルで 得られた結果を外部から与える. 水平境界条件として周期境界条件を用いる. 初期条件は, Odaka et al. (2001) の鉛直温度分布に 微少な温位擾乱を加えた静止大気とし, 0:00 (地方時) から計算されている. 解像度 5 m のデータは, 解像度 10 m 計算の結果を初期値とし, 14:00 から 15:00 (地方時) まで 1 時間計算して得られたものである. 地表面応力は, Nishizawa et al. (2016) と同様に, SCALE-LESに組み込まれている Louis (1979) と Uno et al. (1995) のスキームから地表面フラックスを計算し, 求めた. ダストフラックスは Kahre et al. (2006) で用いられたスキーム及びパラメータを使用して計算した.
3. 結果
これまでの発表では, もっとも高解像度な計算である 5 m 解像度の結果においてのみ, 実験的に得られたダスト巻き上げに必要な地表面応力の閾値である 0. 03 Pa を超える点が現れることがわかった. またダスト巻き上げに重要な地表面応力が強い箇所における孤立渦の分布について報告した (村橋 他, 2017, 惑星科学会). 今回は, MGCM で用いられているスキームを用いて, 地表面ダストフラックスを計算し, 解析を進めているので, その結果を報告する.
火星大気中にはダストが存在し, 大気の温度構造に大きな影響を与えていることが知られている. 地表から大気へのダスト巻き上げ量は, 大気境界層における地表面応力によって決まっている. ダスト巻き上げにおいて重要な点は, 必要な最低応力閾値が存在することにある. 地表面応力に寄与する境界層内の流れの時間および空間スケールは非常に小さいため, 多くの火星大気大循環モデル (MGCM) を用いた研究では, ダストデビルなど数十から数百 m 程度の構造を持つ流れ場によるダスト巻き上げ過程をパラメタライズすることで表現している. 従来, ダスト巻き上げ量は, 地表面付近の大規模場の風及び温度場を用いた, いわゆるバルク方式による平均地表面応力の評価では不十分であるとされ, ダストデビルのような特定の構造を考慮し, それらに伴う特異的な地表面応力の存在とその平均的寄与を見積もることが必要とされてきた (Kahre et al., 2006 など).
しかし, 火星大気境界層における特異的な地表面応力の発生とその統計は観測的検証がなされておらず, 理論的想像の範囲を出るものではない. 実際, これらのスキームを MGCM に導入して計算しても, グローバルダストストーム発生の年々変動の再現は, 観測による結果と比較すると時間方向にずれが生じる (Mulholland et al., 2013) など, 必ずしも成功していない. その原因として現状のパラメタリゼーションスキームが現在の火星環境ではよく検証できていないことが考えられる.
火星の場合, MGCM のサブグリッドスケールサイズにおける流れ場の正確な描像を観測によって得ることは困難であるが, 高解像度のラージエディシミュレーション (LES) を用いれば流れ場の描像が得られ, パラメタリゼーションの検討ができる可能性がある. 現在, MGCM には 11 km 程度の空間解像度で計算できるものがあり (Takahashi et al., 2011), 数 km 程度の計算領域における高解像度計算のデータを用いて流れ場の特徴を調べることで, MGCM におけるパラメタリゼーションスキームを検討できると期待される.
本研究では MGCM におけるダスト巻き上げパラメタリゼーションについて検討するために, 高解像度 LES 計算の結果における流れ場の構造とダスト巻き上げを決定づける地表面応力場の関係の調査並びに解像度の高い LES から出発し, 解像度を粗くした場合の結果の相互比較を行っている. 使用しているデータは, 世界最高解像度の LES を用いて火星大気境界層における調査を行なった Nishizawa et al. (2016) で得られたデータである. 彼らは 10 m 以下の空間スケールを持つ循環構造に注目して LES を用いた調査を行った.
2. データ
本研究では, Nishizawa et al. (2016) で計算された 解像度 5, 10, 25, 50, 100 m のデータを用いて解析を行う. このデータは, RIKEN/AICS で開発された SCALE-LES ver.3 を使用して得られたものである. 計算には, 火星を想定したパラメータ値が用いられている. 計算領域のサイズは水平方向に 19.2 km, 鉛直方向に 21 km である. 加熱・冷却率及び地表温度については, Odaka et al. (2001) による鉛直一次元モデルで 得られた結果を外部から与える. 水平境界条件として周期境界条件を用いる. 初期条件は, Odaka et al. (2001) の鉛直温度分布に 微少な温位擾乱を加えた静止大気とし, 0:00 (地方時) から計算されている. 解像度 5 m のデータは, 解像度 10 m 計算の結果を初期値とし, 14:00 から 15:00 (地方時) まで 1 時間計算して得られたものである. 地表面応力は, Nishizawa et al. (2016) と同様に, SCALE-LESに組み込まれている Louis (1979) と Uno et al. (1995) のスキームから地表面フラックスを計算し, 求めた. ダストフラックスは Kahre et al. (2006) で用いられたスキーム及びパラメータを使用して計算した.
3. 結果
これまでの発表では, もっとも高解像度な計算である 5 m 解像度の結果においてのみ, 実験的に得られたダスト巻き上げに必要な地表面応力の閾値である 0. 03 Pa を超える点が現れることがわかった. またダスト巻き上げに重要な地表面応力が強い箇所における孤立渦の分布について報告した (村橋 他, 2017, 惑星科学会). 今回は, MGCM で用いられているスキームを用いて, 地表面ダストフラックスを計算し, 解析を進めているので, その結果を報告する.