日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 宇宙における物質の形成と進化

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系、共同)、大坪 貴文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、座長:野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

15:45 〜 16:00

[PPS09-08] 進化末期巨星でのダスト形成:誘導熱プラズマ装置を用いたAl-Si-O系での凝縮実験

*瀧川 晶1,2キム テヒ1梅本 樹1伊神 洋平1松本 恵1土`山 明1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.京都大学白眉センター)

キーワード:ダスト、凝縮実験

進化末期の巨星である漸近巨星分枝(AGB)星から観測された中間赤外スペクトルの解析により,非晶質ケイ酸塩とともに11-12 µmにブロードなピークを示すダストが存在する天体が普遍的に存在することが指摘されている[1].このようなダスト放射は非晶質アルミナによるものであると考えられてきた[e.g., 2].しかし,従来観測との比較に使われている非晶質アルミナはゾルゲル法という水を介した反応で合成されたもので[3],高いガラス転移温度をもつアルミナが,星周環境で非晶質として形成しうるかは自明でない.また,11-12 µmピークを示すダストはAl-O結合を構造に含むと考えられるが,Al-O以外の元素を含む非晶質物質の赤外スペクトルは明らかにされていない.ケイ素はアルミニウムの約10倍多く存在しており,非晶質アルミナに含まれている可能性がある.本研究では,様々なAl/Si比での凝縮実験をおこない,生成物を分析,観測された赤外スペクトルとの比較を行った.

 実験は誘導熱プラズマ(ITP)装置を使用した (Kim et al. 2017).出発物質として様々な量比のAlとSiの粉末を用いた.ArとO2でプラズマを生成し,出発物質をプラズマ中でで蒸発,冷却させて生成物を回収した.XRD,TEMで生成物粒子の組成と構造を分析し,FT-IRを用いて赤外スペクトルを測定した.

 Alのみの出発試料を用いた実験生成物はδアルミナ粒子であり,先行研究と調和的であった[5].Al/Si = 9および3の出発試料を用いた実験生成物にはg-アルミナと類似した構造が確認された.Al/Si=3とAl/Si=1の生成物には,非晶質粒子と,一部にムライトと思われる粒子が観察された.Al/Si=8/100, Siのみの出発試料を用いた実験生成物は結晶質の粒子が見られず,全て非晶質であった.

 δ-アルミナの赤外スペクトルは12 µmにピークを示すブロードなフィーチャーの上に細かい複数のピークが重なったスペクトル形状をしており,これらの特徴は観測にはみられない.非晶質アルミナが凝縮するためにはより急速な冷却条件が必要と考えられるが,AGB星近傍でのダスト形成環境としては考えにくい. Al/Si=9および3の出発試料を用いた実験生成物のFT-IRスペクトルには,細かなピークはみられず,非晶質アルミナに近いスペクトル形状になった.しかし,ピークの位置は非晶質アルミナより0.5 µm程度長波長にあった.また,Al/Si<3の出発試料を用いた実験生成物のFT-IRスペクトルは,Si-O結合の振動によるピーク強度とAl-O振動によるピーク強度が逆転した.

 Siを添加することによるγアルミナ構造の形成は,Al2O3に含まれるSiがAlと空孔の配置の無秩序化をおこしたためであり,結果としてδアルミナの赤外スペクトルにみられた細かなピークがなくなり,ブロードフィーチャーのみになったと考えられる.観測でみられるダスト放射の10µmと11-12µmの強度とピーク波長を説明するためには,ダストはAlに富む酸化物で,Siに加えてMg, Fe, Caなどの他の元素が含まれている可能性がある.

[1] Sloan, G. et al. 2003, ApJ, 594, 483-495.
[2] Speck, A. et al. 2000, ApJS, 146, 437-464.
[3] Begemann, B. et al. 1997, ApJ, 199-208.
[4] Kim, T. H., et al. 2017, ISPC, 23, 780.
[5] Ishizuka, S. et al. 2016, Chem. Mater. 2016, 28, 8732−8741.