日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 宇宙における物質の形成と進化

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系、共同)、大坪 貴文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、座長:野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

16:30 〜 16:45

[PPS09-11] 原始惑星系円盤での非晶質エンスタタイトダストの結晶化

*小林 航大1山本 大貴1橘 省吾1,2 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野、2.東京大学宇宙惑星科学機構)

キーワード:原始惑星系円盤、 ケイ酸塩ダスト、 結晶化、速度論

赤外天文観測によると, ケイ酸塩ダストは星間空間ではほとんど非晶質の状態で存在するのに対し, 原始惑星系円盤では結晶質と非晶質,両者が存在することが示されている (Waters et al., 1996; Kemper et al., 2004). これは非晶質ケイ酸塩が原始惑星系円盤に存在するダストの材料物質であり, 円盤の熱プロセスによって結晶質ケイ酸塩に変化したことを示す. さらに,円盤内側ではエンスタタイトが, 外側ではフォルステライトが豊富に観測された例もあり(Bouwman et al., 2008), これらのダスト分布は円盤の物理条件,ならびにダスト進化プロセスを反映していると考えられる. これまで非晶質ケイ酸塩の熱進化を理解するために様々な実験的研究がおこなわれてきた (e.g., Fabian et al., 2000). 近年, 非晶質フォルステライトの結晶化が水蒸気によって促進されることが示された (Yamamoto and Tachibana, in prep.). しかし, 周辺雰囲気の効果 (e.g., 水素ガス, 水蒸気とそれらの圧力) はまだ十分に理解されていない. 本研究では, Mg/Si比がおよそ太陽系存在度に近い非晶質エンスタタイトの結晶化について, 雰囲気ガスの結晶化速度への影響に着目し, 結晶化実験をおこなった.

誘導熱プラズマ法で合成された非晶質エンスタタイト粉末を780–850℃で様々な雰囲気ガス条件で加熱した; 空気中 (PH2O ~10-3 bar), 真空中 (PH2O ~10-9 bar), 低圧水蒸気圧 (PH2O ~10-5 bar), 低圧水素中 (PH2 ~10-4 bar), 低圧水素−水蒸気混合気体中 (全圧10-4 bar, H2O/H2 ~10-3). 加熱試料はフーリエ変換赤外分光光度計 (FT-IR), 粉末X線回折装置 (XRD), 電界放射型走査型電子顕微鏡 (FE-SEM), 透過型電子顕微鏡 (TEM) によって, 形状, サイズ, 結晶化度などの分析をおこなった.

粉末試料の焼結はすべての試料でおこったが, 焼結した粉末の大きさや形には加熱時の周辺雰囲気によって違いが見られた. 低圧条件下で加熱した試料の集合体は角張った不規則な形状をしていたのに対して, 空気中で加熱された試料は出発物質がフランボイダルな球形に集合した粒子となった. これらは低圧でのアニーリングでより焼結が進行したことを示し, 集合体表面の粒子の蒸気輸送による焼結がおきた可能性が考えられる. 加熱試料の支配的な結晶相はXRDやTEM観察からオルソエンスタタイトであると確かめられた.

非晶質エンスタタイトの結晶化速度を求めるために, 加熱試料の赤外スペクトルを非晶質エンスタタイトと結晶質エンスタタイトの線形結合で表し, 結晶化度の時間変化をJohnson-Mehl-Avramiの式を用いて求めた. 結晶化の活性化エネルギーは722 (空気中) から952 kJ/mol (真空中) までの範囲を取り, 水蒸気の存在が結晶化の活性化エネルギーを小さくすることが示された. しかし, 空気中での結晶化は低圧での結晶化より遅く, PH2O ~10-5 bar 条件下での結晶化が一番速いことが示された. また, 水素ガス存在下の結晶化速度から, 水素ガスは結晶化を促進しないことがわかった.

空気中の結晶化に対するアブラミパラメータがおよそ2.5の値を得たことから, 結晶化メカニズムが均質核形成を伴う三次元拡散律速成長であることがわかった. 一方で, 真空中では, 粒子表面からMgとOの選択的な蒸発が起こり (Rietmeijer et al., 1986), SiO4四面体の再配列を促進する可能性が考えられる. これにより粒子表面で不均質核形成がおこり, エンスタタイトの結晶化が促進されることが考えられる. TEM観察でも表面付近にのみ結晶質格子が存在する粒子が観察された. この結晶化メカニズムは, 低圧で焼結がより促進されることや, 加熱雰囲気の全圧の増加に従って結晶化が遅くなることを説明するかもしれない.

原始惑星系円盤での非晶質エンスタタイトの結晶化を得られた速度パラメータに基づいて議論した. 原始惑星系円盤において, 非晶質エンスタタイトの結晶化は~ 900 K以上の温度領域で起こり, 結晶質エンスタタイトは円盤内側の高温領域でのみ存在することがわかった (Imai, 2012).