日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 宇宙における物質の形成と進化

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系、共同)、大坪 貴文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

[PPS09-P04] NanoSIMSを用いた普通コンドライトNWA7936(L3.15)中のコンドルールのアルミニウム26―マグネシウム26年代測定

*荷見 拓生1比屋根 肇1佐野 有司2高畑 直人2 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:普通コンドライト、年代学、熱変成、相対年代、NWA7936、NanoSIMS

[1]導入
 隕石は太陽系初期の歴史を探るうえで重要な手掛かりとなる物質である。その組成、構造、年代を調べることで太陽系初期の情報を得ることができると考えられている。その中でも隕石母天体が分化を経験していない未分化隕石と呼ばれるグループを構成している粒子は、情報としては最も古い、母天体形成以前の情報を保持している場合がある。今回注目するのは未分化隕石のなかでも普通コンドライトと呼ばれるものである。これは地球上でもっとも多く発見される隕石である。
 コンドライトは未分化隕石ではあるが熱の影響を全く受けていないわけではない。熱変成度4以上のコンドライトが保持するのは熱による変成後の情報であり、母天体形成時の情報は失われている。したがって形成年代測定に適するのは熱変成度3のグループである。しかしやはり熱の影響は皆無ではなく、熱変成度は3.0から3.9まで更に細かい分類がなされている。実際にどの程度の変成度まで形成年代測定が信頼性を保てるかは未だ議論の途中である。今回の研究ではこれまで先行研究が少ない熱変成度3.15の普通コンドライトNWA7936(L3.15)に含まれるコンドルールを年代測定し、この信頼性の問題についてさらなるデータを収集する。

[2]方法
 年代測定の方法として26Al(半減期約70万年)-26Mgの壊変系を用いる。試料とCAIについてAlの初期同位体比を比較することで相対年代を調べる。太陽系で最古に形成された固体物質であるCAIとの年代差を測定することで試料コンドライトの絶対年代が分かる。アイソクロンのX軸上に27Al/24Mg、Y軸に26Mgの過剰(δ26Mg)をプロットすることでその傾きからAlの初期同位体比を求め、CAIについての先行研究が示す値5.0×10⁻5と比較する。
 東京大学理学部三号館のSEMを用いてコンドルールの事前観察を行いAl/Mg比が30程度以上と高く分析に適した領域を見つけた。コンドルールはいずれも100μm程度の巨大なオリビンの結晶にアノーサイトが含まれた構造をしていた。Metalは僅かであった。東京大学大気海洋研究所においてNanoSIMSを用いて26Al-26Mgによる相対年代を求めた。3つのコンドルールについて4点ずつ測定点を取った。ビームに用いた一次イオンは16O⁻、ビーム径2μm、200pAと設定した。測定は25
s/cycle、各点について100cycle行った。ただし測定中にAl/Mgイオン強度比が急激に変化した場合は(おそらくスパッタリングにより表面下にあった別鉱物が現れた場合)は以降のデータを使用しない。

[3]結果
 3つのコンドルールについて誤差の範囲内でアイソクロンを作成することができた。求められたAl初期同位体比(×10⁻5)は1.33±0.41、1.67+0.94、1.10±0.71となった。誤差は2σである。この値をCAIとの相対年代Δt(My)に直すとそれぞれ1.34(+0.38、-0.27)、1.11(+0.83、-0.45)、1.52(+1.04、-0.50)となり三つのコンドルールの年代は誤差の範囲で一致した。仮に相対年代がすべて等しいと仮定して3つの重み付き平均を取ると1.34(+0.30、-0.23)。

[4]考察
 今回の実験結果を普通コンドライトAl初期同位体比についての先行研究の結果と比較したところ、熱変成度3.0~3.3の隕石中のコンドルールについては値に系統的な差が見られず今回の結果を含めてすべて(0.5~2.0)の範囲に収まっている。 したがって今回の結果はコンドルールの形成年代と考えられる。熱変成度3.4からはAl初期同位体比が顕著に低い値を示しており、ここから得られる年代は熱変成年代を反映していると考えられる。
 一方熱変成度3.00のSemarkona隕石についての先行研究の結果を見ると同一コンドライト中のコンドルールの間に1~2My程度の形成年代差がある可能性が示唆される。今回の実験ではNWA7936(L3.15)中のコンドルールの形成年代は誤差の範囲で一致しているが測定点を増やすことで年代差を発見できる可能性がある。仮にこうした年代差があるとすればコンドルール形成を駆動する現象が数Myにわたって起き続けていたことを意味する。これはコンドルールの形成メカニズムについて大きな制約を与えるものである。

[5]参考文献
(1)Blair. Schoene(2014),Treatise on Geochemistry 2nd Edition:341-347
(2)AM.Davis,KD.McKeegan(2014),Treatise Geochemistry 2nd Edition:361-375
(3)G.J.MacPherson et.al(2012),Earth and Planetary Science Letters 331-332
(4)Noriko T.Kita et.al(2013),Meteoritics and Planetaly Science 48,Nr8,1383-1400.