日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 変動帯ダイナミクス

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、座長:吉田 圭佑(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)、寺川 寿子

16:00 〜 16:15

[SCG57-09] 2011年東北沖地震後の間隙水圧変化により生じたと推定される群発地震の発生機構の詳細: 破壊伝播指向性と断層面上の強度分布

*吉田 圭佑1齊藤 竜彦3江本 賢太郎2 (1.東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター、2.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座、3.防災科学技術研究所)

キーワード:破壊伝播指向性、群発地震、間隙水圧

地震の発生・震源過程は、断層面上の応力・摩擦パラメータの分布に強く影響を受ける。そのため、ある地震の発生・震源過程を理解するためには、断層面上での応力・摩擦パラメータの分布を考慮することが重要である。しかしながら、一般に地球内部の応力の大きさや強度の空間分布を求めることは非常に困難である。本研究では、2011年東北沖地震後の間隙水圧変化に伴う断層強度の変化により生じたと考えられる東北日本中央部の群発地震活動に注目して、その地震波指向性を調べることにより、断層強度に影響を与える間隙水圧分布と破壊伝播の関係について調べる。



地震波の指向性は、断層面上の破壊伝播についての情報を含むと考えられる信号の一つである。地震波の指向性を利用することにより、直接的な推定が難しい断層方向や破壊伝播に関する情報が得られる可能性がある。一般に、地震波形の情報から震源過程を詳しく調べることが可能な地震は比較的規模の大きいものに限られるため、同一な tectonic settingsにおいて比較できる数が少ないが、近年、観測網の充実化、データ品質の向上に伴い、小中地震に対して directivityの検出がなされるようになってきており(e.g., Abercrombie et al., 2017; Boatwright, 2007; Folesky et al., 2016; Yamada et al., 2005)、その多様性を調べることができるようになってきている。



これまでの研究により、2011年東北沖地震により誘発された群発地震の震源域では、深部から浅部へ向かう間隙水圧の migrationが面構造を通じて生じたことが分かっている (Yoshida & Hasegawa, 2018, under review)。図1には、山形-福島県境周辺の群発地震活動域で生じたある地震の観測波形を、近接した地震のそれを用いて Ligorrfa & Ammon (1999)のアルゴリズムにより deconvolutionした結果を地図上に示しているが、破壊伝播の明瞭な指向性を確認することができる。



地震波から震源の情報を取り出す目的で、最初に、Yoshida et al. (2016)と同様に、コーダ規格化法を用いて震源域周辺の Q構造とサイト特性の推定を行った。そして、観測スペクトルからサイト特性、地震波伝播による影響を取り除き、個々の観測点で震源スペクトルを求めた。ここで解析対象にしたのは、震源分布が sharpな面構造を示し、なおかつ先行研究によりメカニズム解が推定されている (Yoshida et al., 2016)、135個の地震 (M1.8-3.1)である。その卓越周波数の空間分布を見ると、多くの場合で明瞭な方向依存性を示す。このパターンは、上述のdeconvolutionによる結果と調和的であり、なおかつ隣接して発生した地震の場合でも全く異なる空間パターンが見られることから、Qの空間不均質に起因するものではないと考えられる。実際に、地震の破壊伝播の方向が多様性を持っていることが示唆される。



Rupture directivityについての情報を得る目的で、Ben-Menahem (1961)による unilateral rupture modelを用いて、rupture velocityとその方向の推定を行った。解析対象とした135個の地震のうち、10点以上の観測点でS/Nが十分であると判断された119個の地震について解析を行った。全体中の84個の地震に顕著な unilateralなdirectivityが推定された。その多くについて、破壊が北西方向に深部に向かう結果を示しており、震源の migrationの方向とは反対に近い。このような観測は、注水実験の場合に認められた傾向と同様であり (Folesky et al., 2016)、流体拡散に伴う間隙水圧・摩擦強度の空間変化により説明できそうである。



Unilateralな directivityを持つと推定された 84個の地震のうちのおよそ60個程度について、破壊の伝播方向を基に断層方向を推定することができた。破壊伝播の卓越方向がstrikeに沿う北向きに向かうものも多かったこともあり、残りの地震については断層面を選択することができなかった。推定された断層方向の大半は、震源分布から示唆される巨視的な断層方向とほぼ平行であった。しかし、いくつかの地震は震源分布と異なる断層方向を持つことが分かった。これらの少数の地震は、巨視的な断層構造と異なる微細な構造を用いて生じたことが示唆される。