09:15 〜 09:30
[SCG57-14] 東北日本弧における高空間解像度の熱年代マッピングーアパタイトフィッション・トラック解析に基づく山地の隆起形態の制約ー
キーワード:熱年代学、東北日本弧、フィッション・トラック法、山地形成過程、隆起・削剥史
東北日本弧は海溝に平行な複数列の山脈が分布している典型的な島弧であり,世界で最も活動的な変動帯の一つに数えられる.この陸域に発達している山地は,太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込みによる東西圧縮応力場(高橋 2006, 地学雑)が主因となって形成されたと考えられている.引張応力場が卓越していた日本海拡大期(25~13.5 Ma)が終わると,日本列島は島弧として成立し,東西圧縮応力場下で主に三回の隆起イベントを経験して現在の姿となった(Sato 1994, JGR).このような複雑な構造発達史の中,東北日本弧の地形的起伏の大半は最後の隆起イベントによって鮮新世から第四紀以降に形成されたとの見方が地質学的・地形学的に一般的である(米倉ほか 2001, 東大出版)ものの,その山地形成史に関する定量的研究は数が限られる.
熱年代学的手法は,放射年代測定による年代値と,年代測定手法と対象鉱物の組み合わせ(以降,熱年代計)に固有の閉鎖温度という2つの情報から,試料が辿ってきた熱史(温度履歴)を復元する手法である.山地形成のような地殻浅部の現象には,閉鎖温度が比較的低い熱年代計が有効である(例えば,アパタイトやジルコンを対象とした(U-Th)/He法(He法)やフィッション・トラック法(FT法)).
筆者らの研究グループの成果として,Sueoka et al.(2017, EPS)は東北日本南部における島弧横断方向の山地の熱史をHe法によって検討し,前弧側(阿武隈山地)―奥羽脊梁山地―背弧側(朝日山地)の間で熱史・削剥速度のコントラストが存在することを明らかにした.福田ほか (2018, FT研)では,Sueoka et al. (2017)で報告されたHe年代と同一の試料を用いて,アパタイトFT法(AFT法)による年代測定およびFT長解析,HeFTy(Ketcham 2005, RiMG)を用いた熱史逆解析を実施し,削剥速度を計算した.これまでの成果をまとめると,前弧側は,アジア大陸縁時代から比較的穏やかな削剥速度 (<0.05 mm/yr)にあり,第四紀以降は隆起・削剥速度が増大した可能性がある一方で,新生代を通じた削剥量は1~2 kmに満たないことが示唆された.奥羽脊梁山地では,基本的に数~1 Ma以降の東西圧縮応力場に伴う急激な冷却が推定され,削剥速度も0.1~数 mm/yrと比較的大きい値が得られた.しかし,従来の一般的な奥羽脊梁の隆起モデルである逆断層によるtilted pop-upモデル (e.g., Nakajima 2013, INTECH)では,本研究で得られた山体の中心部に向かって年代が若くなる傾向は説明できず,Hasegawa et al. (2005, Tectonophys.)で指摘されるようなdoming upliftの方がより整合的なモデルだと考えられる.背弧側においても,奥羽脊梁と同様に数~1 Maの急冷が検出され,削剥速度も0.1~1.0 mm/yrの速い値が推定された.この急冷イベントの年代は,先行研究で提唱されているような,背弧側が5~3.5 Maごろに著しく変形を受け,2~1 Ma以降に奥羽脊梁に変形場がmigrationするモデル(Sato 1994, JGR; Acocella et al. 2008, Tectonics)と不一致を示す.以上のように,奥羽脊梁山地や背弧側では,これまでの地質学的研究から得られたモデルとは異なる結果が得られ,更なる熱年代学的手法による検討の必要性が明らかとなった.
本講演では,奥羽脊梁山地および背弧側の詳細な隆起形態やテクトニクスモデルの解明のために,より空間的に高解像度での熱年代マッピングを実施した結果を報告する.今回新たに測定したAFT年代は,奥羽脊梁山地では 7.8~4.3 Ma,背弧側では 39.6~3.6 Maを示した.奥羽脊梁山地のAFT年代は,福田ほか(2018, FT研)で報告済みの地点も含めて山地中心部に向かって若くなる傾向を示し,doming upliftモデルをより支持する結果となった.熱史逆解析の結果は3 Maを切る最終冷却イベントの値を示し,背弧側の急冷開始時期が奥羽脊梁山地と同時期の~3 Ma以降という福田ほか(2018, FT研)の結果を補強する結果となった.
今後の展望としては,He法やジルコンFT法といった他の熱年代計の適用による詳細な隆起・削剥史の推定や,東北日本弧北部における同様の解析,東北日本弧の南北における変形場の移動時期や山地の隆起形態の比較を予定している.
熱年代学的手法は,放射年代測定による年代値と,年代測定手法と対象鉱物の組み合わせ(以降,熱年代計)に固有の閉鎖温度という2つの情報から,試料が辿ってきた熱史(温度履歴)を復元する手法である.山地形成のような地殻浅部の現象には,閉鎖温度が比較的低い熱年代計が有効である(例えば,アパタイトやジルコンを対象とした(U-Th)/He法(He法)やフィッション・トラック法(FT法)).
筆者らの研究グループの成果として,Sueoka et al.(2017, EPS)は東北日本南部における島弧横断方向の山地の熱史をHe法によって検討し,前弧側(阿武隈山地)―奥羽脊梁山地―背弧側(朝日山地)の間で熱史・削剥速度のコントラストが存在することを明らかにした.福田ほか (2018, FT研)では,Sueoka et al. (2017)で報告されたHe年代と同一の試料を用いて,アパタイトFT法(AFT法)による年代測定およびFT長解析,HeFTy(Ketcham 2005, RiMG)を用いた熱史逆解析を実施し,削剥速度を計算した.これまでの成果をまとめると,前弧側は,アジア大陸縁時代から比較的穏やかな削剥速度 (<0.05 mm/yr)にあり,第四紀以降は隆起・削剥速度が増大した可能性がある一方で,新生代を通じた削剥量は1~2 kmに満たないことが示唆された.奥羽脊梁山地では,基本的に数~1 Ma以降の東西圧縮応力場に伴う急激な冷却が推定され,削剥速度も0.1~数 mm/yrと比較的大きい値が得られた.しかし,従来の一般的な奥羽脊梁の隆起モデルである逆断層によるtilted pop-upモデル (e.g., Nakajima 2013, INTECH)では,本研究で得られた山体の中心部に向かって年代が若くなる傾向は説明できず,Hasegawa et al. (2005, Tectonophys.)で指摘されるようなdoming upliftの方がより整合的なモデルだと考えられる.背弧側においても,奥羽脊梁と同様に数~1 Maの急冷が検出され,削剥速度も0.1~1.0 mm/yrの速い値が推定された.この急冷イベントの年代は,先行研究で提唱されているような,背弧側が5~3.5 Maごろに著しく変形を受け,2~1 Ma以降に奥羽脊梁に変形場がmigrationするモデル(Sato 1994, JGR; Acocella et al. 2008, Tectonics)と不一致を示す.以上のように,奥羽脊梁山地や背弧側では,これまでの地質学的研究から得られたモデルとは異なる結果が得られ,更なる熱年代学的手法による検討の必要性が明らかとなった.
本講演では,奥羽脊梁山地および背弧側の詳細な隆起形態やテクトニクスモデルの解明のために,より空間的に高解像度での熱年代マッピングを実施した結果を報告する.今回新たに測定したAFT年代は,奥羽脊梁山地では 7.8~4.3 Ma,背弧側では 39.6~3.6 Maを示した.奥羽脊梁山地のAFT年代は,福田ほか(2018, FT研)で報告済みの地点も含めて山地中心部に向かって若くなる傾向を示し,doming upliftモデルをより支持する結果となった.熱史逆解析の結果は3 Maを切る最終冷却イベントの値を示し,背弧側の急冷開始時期が奥羽脊梁山地と同時期の~3 Ma以降という福田ほか(2018, FT研)の結果を補強する結果となった.
今後の展望としては,He法やジルコンFT法といった他の熱年代計の適用による詳細な隆起・削剥史の推定や,東北日本弧北部における同様の解析,東北日本弧の南北における変形場の移動時期や山地の隆起形態の比較を予定している.