日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 変動帯ダイナミクス

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)

[SCG57-P15] 低温領域の熱年代学的手法を用いた南部フォッサマグナ地域の隆起・削剥史解明

*小林 侑生1末岡 茂2福田 将眞1長谷部 徳子3田村 明弘3,4荒井 章司4田上 高広1 (1.京都大学 大学院理学研究科、2.日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、3.金沢大学 日本海域環境研究センター、4.金沢大学 理工学域 自然システム学類)

キーワード:南部フォッサマグナ、低温領域の熱年代学、アパタイトフィッション・トラック、隆起・削剥

南部フォッサマグナ地域は、本州弧と小笠原弧が衝突する地域、つまり島弧と島弧が衝突する世界でも特異的な地域の1つである。本研究の対象地域では、中期中新世以降、最大4つの地殻ブロック(櫛形山、御坂、丹沢、伊豆)が衝突し、地殻改変をしてきたと考えられている1,2。これらのブロックの衝突時期や影響については、各ブロックと本州弧の間に分布する堆積物が陸起源になった時期や、衝突を受けた本州弧側の地殻構造などから推定されているが、未だに統一的な見解は得られていない。

 隆起や削剥による山地形成過程は、近年GPSによる観測が発達してきているが、これは短期間の時間スケール(数十年以下)の変動を推定するもので、それをそのまま長期間の時間スケールにおける変動に置き換えることは難しい。そこで、地質学的タイムスケールでの地殻変動を定量的に理解するために、本研究では低温領域の熱年代学的手法を用いた。熱年代学は、過去の熱イベントの時期や温度などを推定する学問で、様々な地学現象の解明に適用されている3

 本研究では、南部フォッサマグナ地域において、主に地殻ブロックに衝突された側の隆起・削剥史を地質学的時間スケールで解明するために、アパタイトフィッション・トラック(AFT)法における年代測定を行った。AFT法を用いた理由はAFT年代が、U-Pb年代やジルコンのフィッション・トラック年代よりも閉鎖温度が低い(~100 ℃)年代測定手法4のためである。

 本研究の結果としては、奥秩父で14.7 ± 4.7 Ma、関東山地でそれぞれ1.0 ± 0.4 Ma、8.7 ± 2.0 Ma、6.3 ± 1.1 Ma、身延地域で3.6 ± 2.5 MaのAFT年代が得られた。奥秩父では、年代値は岩石の形成年代(i.e., 10.5 ± 1.5 Ma: 角閃石のK-Ar年代5)とほぼ同じとみなすことのできる年代が得られ、関東山地と身延地域では岩石の形成年代(i.e., 10.5 ± 0.4 Ma: 黒雲母のK-Ar年代6)よりも若いと考えられる年代が見られた。地温勾配を40 ℃/kmと仮定した際の平均削剥速度は、奥秩父では0.23 ± 0.07 mm/yr、関東山地では3.6 ± 1.4 mm/yr、0.36 ± 0.08 mm/yr、0.49 ± 0.09 yr/mm、身延地域では1.6 ± 1.1 mm/yrであった。南部フォッサマグナ地域での中期中新世以降の削剥速度は、丹沢山地において3.3 - 2.0 Maで~ 2 mm/yr、2.0 - 0 Maで0.8 mm/yrであり7、円井岩体において既報のAFT年代から算出した削剥速度は16.4 Ma以降、0.16 - 0.21 mm/yrである8から、関東山地と身延地域の削剥速度は、奥秩父や円井岩体よりも大きく、丹沢山地と同程度である。これらの結果と考察を併せると、南部フォッサマグナ地域におけるAFT年代値は、ドーム状隆起やスラスト断層を伴った、地殻ブロックの衝突による山地形成過程を反映していると考えられる。

 今度の課題としては、1) 計測トラック数を増やすことと、他の採取地点の解析も進めることで高密度な熱年代のマッピングを目指す、2) トラック長分析を用いた冷却過程の考察を行い、より高精度な熱史逆解析を行う、3) 地温勾配や火山・活断層のプロットを行い年代値と併せた考察を行う、4) アパタイトヘリウム(AHe)法を用いて、AFT法よりもさらに地殻浅部で生じた変動を明らかにする、などが挙げられる。


参考文献
1. 天野一男ほか, 構造地質 43, 11-20 (1999).
2. 狩野謙一, 地震研究所彙報 77, 231-248 (2002).
3. 末岡茂ほか, 地球科学 69, 47-70 (2015).
4. Reiners, R. W. et al. Reviews in Mineralogy & Geochemistory 58, 1-18 (2005).
5. Ueno, H. and K. Shibata, J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 81, 77-82 (1986).
6. 柴田賢ほか, 地調月報 35, 19-24 (1984).
7. Yamada, K. and T. Tagami, Journal of Geophysical Research 113, B03402, doi: 10.1029/2007JB005368 (2008).
8. Sueoka, S. et al. Journal of Geophysical Research: Solid Earth 122, 6787-6810 (2017).