日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 沈み込み帯へのインプットを探る:海溝海側で生じる過程の影響

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 302 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:山野 誠(東京大学地震研究所)、森下 知晃(金沢大学理工研究域自然システム学系)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、座長:山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、藤江 剛(海洋研究開発機構)

11:00 〜 11:15

[SCG58-08] アウターライズ領域での蛇紋岩化の定量的な評価に向けた蛇紋岩の弾性波速度の測定

★招待講演

*畠山 航平1片山 郁夫1 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

キーワード:蛇紋岩、弾性波速度、間隙水、アウターライズ領域

近年のアウターライズ領域における海底地震波探査から、プレートの屈曲によって生じるアウターライズ断層から海水がマントルに供給することで蛇紋岩を形成していることが示唆されている (e.g. Ranero 2003;Fujie et al. 2013)。アウターライズ領域の蛇紋岩化及び含水量は、地震波探査から報告される低下したマントルのP波速度と室内実験から測定される蛇紋岩の弾性波速度 (Christensen 2004)を比較することで見積もられている。しかしながら、先行研究の実験では空隙率と間隙水の効果が考慮されておらず、これまでの蛇紋岩化の見積もりは過大に評価されている可能性がある。本研究は空隙率と間隙水の効果を含めた定量的な蛇紋岩化の見積もりを目指し、室内実験から様々な空隙率の蛇紋岩の弾性波速度を含水条件で測定した。
実験試料には嶺岡帯と海底(トンガ海溝、南マリアナ海溝)から採取された蛇紋岩を使用した。これらの試料はリザーダイトとクリソタイルを主要鉱物とする低温型蛇紋岩であり、カンラン石はほぼ蛇紋石に置換されている(蛇紋岩化率~100%)。空隙率は気相置換法によって測定し、0.6-26.7%の様々な空隙率の蛇紋岩の弾性波速度を測定した。実験には広島大学設置の容器内変形透水試験機を使用し、弾性波速度はパルス透過法(入力波:振幅5V、周波数2 MHz)により測定した。実験は、無水条件の速度を測定した後、連続して間隙水圧を一定(10 MPa)に制御した含水条件の測定を行なった。どちらの条件においても封圧200 MPaまでの測定を行なった。
弾性波速度は封圧の増加に伴い増加していき、無水条件の封圧200MPaにおいてP波・S波速度はそれぞれ3.6-5.4 km/s、2.1-3.0 km/sを示し、空隙率が高い試料ほど速度が低下する傾向が見られた。含水条件において、P波速度は無水条件よりも増加し、S波速度は若干低下した。実験から得られた速度を基に体積弾性率と剛性率を計算すると無水条件の封圧200MPaにおいてそれぞれ17-48 GPa、10-25 GPaとなり、含水条件での体積弾性率は無水条件の値よりも50%程度増加するものもあるのに対して、剛性率はほとんど変化しなかった。この体積弾性率と剛性率に対する間隙水の効果が弾性波速度の変化の要因となっている。また、含水条件での弾性波速度は空隙率の増加に伴い反比例に低下していく傾向を示し、Domenico (1984)で報告される速度と空隙率の関係と調和的である。
本実験結果に基づく空隙率及び間隙水を考慮した蛇紋岩化とP波速度の関係によると、蛇紋岩中の水で満たされた空隙の増加に伴い、推定される蛇紋岩化率は低下していく傾向を示す。もしアウターライズ領域で形成される蛇紋岩中に水で満たされた空隙が10%存在する場合、従来の蛇紋岩化の推定は5%程度過剰に見積もられている可能性がある。