日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 岩石・鉱物・資源

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科、共同)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:門馬 綱一土谷 信高

09:15 〜 09:30

[SCG60-02] 福岡県田川市磁石山スカルン産Scheelite-Powellite固溶体の産状及び固溶体単結晶合成・構造解析

*山下 紅弓1吉朝 朗2徳田 誠2鳥羽瀬 翼2宮崎 晴菜西山 忠男2杉山 和正3宮脇 律郎4上原 誠一郎1 (1.九州大学、2.熊本大学、3.東北大学、4.国立科学博物館)

キーワード:Scheelite-Powellite固溶体、精密構造解析、仮像結晶

CaWO4 scheeliteとCaMoO4 powelliteは同構造であるが、固溶体の報告例は極めて少ない。周期律表で同族のWとMoは似た化学的挙動をとると推測されるが、scheeliteの産出にたいしてpowelliteの産出は極めて少なく、よく知られたようにMoS輝水鉛鉱の広い産出とWSの希少さとも関連する。Scheelite-Powellite系は、構成元素であるタングステン及びモリブデンの物理・化学的特徴から、連続固溶体の形成が容易であると考えられるにも関わらず、天然で広い範囲に及ぶ連続固溶体の形成の報告はなかった。この系は蛍光材料として多くの合成実験の報告があり,この系では室温から高温に及ぶ合成実験で,連続固溶体が形成されることが確認されている。広い組成域を持つScheelite-Powellite固溶体を福岡県田川郡福智町磁石山で発見した。花崗閃緑岩との境界が観察されず石灰岩の割れ目に貫入してきた熱水によるスカルンが脈状に形成されている。これまでにも中間組成に近い固溶体がないことが知られていたものの、各地で産出している大きな結晶において固溶可能であるはずの他方の成分がタングステン側では全く、モリブデン側ではほとんど含まれていないことを確認した。磁石山では灰重石端成分結晶,パウエル石端成分結晶,中間組成の固溶体結晶が近接して集合体として産出している。独特の産状を示すScheelite+Powelliteについて成因及び鉱化過程について議論するとともに、これまで行われていなかった固溶体の構造精密化を行うため、これらの固溶体及び端成分を合成し、単結晶構造解析法を用いて構造を精密化した。最終的なR因子は1-3%であった。鉱物化学組成の分析には熊本大学のSEM・EDS(JOEL製FE-SEM-7001F+Oxford社製INCA2system+Oxford社製Aztecsystem)を用いた。固溶体については,格子定数や陽イオン周りの原子間距離等が連続的に変化しており、連続固溶体と確認できた。格子定数の特徴的な変化は解析結果から解釈できる。連続固溶体合成と構造解析結果、他地域では両相に固溶可能な成分が全く含まれていなかった点と磁石山での上述のような産状及びSEM及び薄片観察結果などから、硫黄と酸化還元条件の変化によって、上記の特殊な産状が説明できると考えた。始めに端成分scheeliteと MoSとして沈殿する。その後の酸化によりMoSは輝水鉛鉱の形状を残したまま仮像としてpowelliteに変化し、酸化が進むとCa(W,Mo)O4固溶体が広い組成域をもって、細粒集合体で産出している。炭酸塩岩中に花崗岩などのマグマが貫入した際,接触部付近にこれらの鉱物が形成され際の変化が読み解ける。鉱化過程の解明に制限条件を与えることはスカルン自体の反応変遷の解明に繋がると期待できる。