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[SCG60-04] 繊維状電気石の産状と鉱物学的特徴
電気石超族鉱物は、花崗岩をはじめとする多くの岩石中に副成分鉱物として含まれている。XY3Z6(T6O18)(BO3)3V3Wの一般式で示され、X = Na,Ca,K,Y = Fe2+,Mg,Mn2+,Al,Li,Fe3+,Cr3+,Z = Al,Fe3+,Mg,Cr3+,T = Si,Al,V = OH,O,W = OH,F,Oなどの多様な元素が入ることから形成環境を解読する指標としても用いられる(Henry et al., 2011)。電気石は多くの場合、肉眼的な大きさの柱状または粒状の結晶形態で産するが、まれに繊維状の形態をとることが知られている。特にフォイト電気石や苦土フォイト電気石といったアルカリ欠如型の電気石については多くの場合細柱状または繊維状の形態をとることが報告されている。近年、Dutrow & Henry (2016)により多様な産地の繊維状電気石の再検討が行われ、フォイト電気石や苦土フォイト電気石以外にも鉄電気石、苦土電気石、リチア電気石などの鉱物種からなることも報告されている。さらに、これらの繊維状電気石の化学組成を調べることで形成時の熱水流体の組成を推定することができると述べている。日本列島には多くの電気石産地があり、粘土鉱床、スカルン鉱床、熱水鉱脈、ペグマタイトからフォイト電気石や苦土フォイト電気石の産出も報告され、特に山梨県京の沢は苦土フォイト電気石の模式地にもなっている(e.g., 加藤ら, 1994; Hawthorne et al., 1999)。今回は、東北日本、西南日本内帯のLiペグマタイト及びLiを含有するペグマタイト中での繊維状電気石と、西南日本外帯の花崗岩の形成に由来する産状の繊維状電気石の産状と鉱物学的特徴について報告する。
西南日本内帯のLiペグマタイトとしては福岡県長垂、茨城県妙見山の電気石の産状や組成変化について詳細な検討を行ったが(e.g., Shirose & Uehara, 2013)、いずれの産地にも繊維状の電気石は産出しない。一方、岩手県崎浜のLiペグマタイトでは、ティレース電気石、リチア電気石からなる結晶の端面に厚さ10 µm以下の繊維状結晶の集合からなる膜として産する。また、滋賀県田上山のペグマタイトでは、晶洞中で細柱状の電気石の先端が繊維状になっているものや、晶洞表面を覆う細毛状の電気石としてチンワルド雲母やトパズと共に産出する。西南日本外帯の鹿児島県高隅山、宮崎県大崩山、高知県大月の花崗岩及びペグマタイトはいずれもSタイプの花崗岩であり、電気石が多く産する。高隅山、大崩山、大月からは細柱状の電気石が空隙に産出し、高隅山、大月の電気石は黒色の電気石の先端が繊維状電気石となっている産状が確認できた。大分県尾平鉱山は大崩山花崗岩体の形成に伴って形成されたスカルン鉱床であり、電気石やダンブリ石などのホウ素鉱物が多く産する。尾平鉱山では電気石石英脈中の空隙に、黒色の電気石の先端が繊維状の電気石になっているものや、繊維状の電気石が水晶によって包有された産状がある。
細柱状の結晶は直径100-200 µm、長さ2-6 mm程度(軸比20-30)であり、電気石単結晶の先端部で繊維状集合となっているものは直径10-30 µm、長さ150-1000 µm程度(軸比15-30)である。一方で、田上山産の晶洞中を覆う細毛状の電気石は、他の産地の繊維状電気石とは大きく異なる特徴を持ち、細いものでは直径100 nm、長さ50 µm程度(軸比500)となる湾曲した細毛状の結晶の集合からなる。SEM及びTEM観察からこのナノ繊維状電気石は角柱状であり、ランダムな方向に伸長している。
高隅山、大崩山、大月の電気石はいずれもY席はFeに富んでいるが、Mgも多く含まれる。X席はNaと空位が多く、Caを少量(< 0.15 apfu)含むことも特徴的である。一方、田上山と崎浜の電気石はFeに富み、Naと空位が多く、Caをほとんど含まない。また、崎浜の電気石はLi、Alにも富んでいる。尾平鉱山の電気石はMgに富み、Feを多く含み、X席はNaと空位を多く含み、Caを少量(< 0.15 apfu)含む。Fの含有量はX席の電荷と対応しており、空位が多いものではほとんど含まれない。
大月及び尾平鉱山の結晶の先端が繊維状になっている電気石についてBSE像を見てみると、ピラミッド型の端面が一度溶解したのちに、c軸方向に繊維状結晶が再成長したことがうかがえる。晶洞が形成されるような低圧下で、初生的な電気石が形成後に非平衡な流体と接し、準安定領域下で繊維状電気石がホモエピタキシャル成長したと考えられる。その後、過飽和状態となり晶洞中に細柱状の電気石が晶出する。これらの溶解反応、結晶成長はc+方向の端面に限られ、X席の電荷の低さとも関連がうかがえる。また、田上山産のナノ繊維状電気石は気相成長の可能性が高い。
西南日本内帯のLiペグマタイトとしては福岡県長垂、茨城県妙見山の電気石の産状や組成変化について詳細な検討を行ったが(e.g., Shirose & Uehara, 2013)、いずれの産地にも繊維状の電気石は産出しない。一方、岩手県崎浜のLiペグマタイトでは、ティレース電気石、リチア電気石からなる結晶の端面に厚さ10 µm以下の繊維状結晶の集合からなる膜として産する。また、滋賀県田上山のペグマタイトでは、晶洞中で細柱状の電気石の先端が繊維状になっているものや、晶洞表面を覆う細毛状の電気石としてチンワルド雲母やトパズと共に産出する。西南日本外帯の鹿児島県高隅山、宮崎県大崩山、高知県大月の花崗岩及びペグマタイトはいずれもSタイプの花崗岩であり、電気石が多く産する。高隅山、大崩山、大月からは細柱状の電気石が空隙に産出し、高隅山、大月の電気石は黒色の電気石の先端が繊維状電気石となっている産状が確認できた。大分県尾平鉱山は大崩山花崗岩体の形成に伴って形成されたスカルン鉱床であり、電気石やダンブリ石などのホウ素鉱物が多く産する。尾平鉱山では電気石石英脈中の空隙に、黒色の電気石の先端が繊維状の電気石になっているものや、繊維状の電気石が水晶によって包有された産状がある。
細柱状の結晶は直径100-200 µm、長さ2-6 mm程度(軸比20-30)であり、電気石単結晶の先端部で繊維状集合となっているものは直径10-30 µm、長さ150-1000 µm程度(軸比15-30)である。一方で、田上山産の晶洞中を覆う細毛状の電気石は、他の産地の繊維状電気石とは大きく異なる特徴を持ち、細いものでは直径100 nm、長さ50 µm程度(軸比500)となる湾曲した細毛状の結晶の集合からなる。SEM及びTEM観察からこのナノ繊維状電気石は角柱状であり、ランダムな方向に伸長している。
高隅山、大崩山、大月の電気石はいずれもY席はFeに富んでいるが、Mgも多く含まれる。X席はNaと空位が多く、Caを少量(< 0.15 apfu)含むことも特徴的である。一方、田上山と崎浜の電気石はFeに富み、Naと空位が多く、Caをほとんど含まない。また、崎浜の電気石はLi、Alにも富んでいる。尾平鉱山の電気石はMgに富み、Feを多く含み、X席はNaと空位を多く含み、Caを少量(< 0.15 apfu)含む。Fの含有量はX席の電荷と対応しており、空位が多いものではほとんど含まれない。
大月及び尾平鉱山の結晶の先端が繊維状になっている電気石についてBSE像を見てみると、ピラミッド型の端面が一度溶解したのちに、c軸方向に繊維状結晶が再成長したことがうかがえる。晶洞が形成されるような低圧下で、初生的な電気石が形成後に非平衡な流体と接し、準安定領域下で繊維状電気石がホモエピタキシャル成長したと考えられる。その後、過飽和状態となり晶洞中に細柱状の電気石が晶出する。これらの溶解反応、結晶成長はc+方向の端面に限られ、X席の電荷の低さとも関連がうかがえる。また、田上山産のナノ繊維状電気石は気相成長の可能性が高い。