10:45 〜 11:00
[SCG60-07] スラブメルトと反応したマントルかんらん岩の部分融解実験におけるかんらん石の安定性について
キーワード:実験岩石学、スラブメルティング、かんらん石
スラブメルティングは,大陸地殻の形成機構を解明する上で重要な意味を持つ現象である(Martin, 1986; Defant and Drummond, 1990など).本研究では,かんらん岩にスラブメルトを加えた出発物質を使用し,1.5 GPa, 1000℃および1050℃,水飽和の条件で部分融解実験を行った.実験には岡山大学惑星物質研究所のピストンシリンダー型高圧発生装置を使用し,試料は金カプセルに封入して行った.実験を行った出発物質は,1) 枯渇した組成の合成かんらん岩(H2O: 12.59%),2) 枯渇した組成の合成かんらん岩にスラブメルトを40%加えたもの(H2O: 7.84%),3) 枯渇した組成の合成かんらん岩にスラブメルトを20%加えたもの(H2O: 10.19%),4) 一の目潟産レルゾライトにスラブメルトを40%加えたもの(H2O: 約10%以上)の4点である.ただし合成かんらん岩は天然の変成斜方輝石岩にMg(OH)2試薬を加えて作成し,水の含有量を制御した.また出発物質4ではスラブメルトとして北上山地のアダカイト質花崗岩を使用し,カプセル中に直接水を加えた.
実験の結果,1000℃ではNo.1にはガラスが認められず,No.2~4からはかんらん石(Fo89--91%),斜方輝石,単斜輝石と共存するそれぞれ31%, 18%, 32%のガラスが得られた(相の量比はEPMAによる分析値から最小二乗法で求めた).ガラスの組成はいずれもデイサイト質であり,無水換算でSiO2 = 67~68%,MgO = 0.5~1.1%であった.また1050℃ではNo.1にはガラスが認められず,No.2~4からはかんらん石(Fo89--91%),斜方輝石,単斜輝石と共存するそれぞれ34%, 20%, 33%のガラスが得られた.ガラスの組成はいずれも安山岩質であり,無水換算でSiO2 = 61~64%,MgO = 2.0~3.1%であった.今回の実験で得られたガラス組成をMgO--SiO2図などにプロットすると,トレンドをなして分布することが明らかである.これは急冷結晶(主として斜方輝石)の晶出による組成変化トレンドと解釈される.また出発物質1の1.5 GPa 1000℃のものには,金カプセルと試料の間の一部に空間が見られ,そこには球状のガラスが多数認められるとともに,多くのかんらん石が結晶が認められる.これらは急冷時に水流体 (aqueous fluid)から分離したものの可能性がある.球状ガラスは著しくSiO2に富みMgOに乏しく,またかんらん石は著しくNiO (0.03wt%以下)に乏しくFo値(91~95%)が高い.これらの特徴から,急冷時に水流体から晶出したガラスやかんらん石を,メルトと平衡にあったものから区別することができると考えられる.またデイサイト質メルトとかんらん石のFe/Mg分配を検討したところ,ガラス試料のFeO/MgO値の最小値はRoeder and Emslie (1970)によるKD = 0.3の線の近くにプロットされており,そこからFeO/MgO値が上昇している.このことから,液とかんらん石は元々はほぼ平衡であり,急冷結晶の成長によって液組成がFeO/MgO比が増大する方向に組成変化したと考えられる.
以上の結果から,MgOに乏しいデイサイト~安山岩質メルトとマントルかんらん岩とが平衡に共存可能であることが示された.Tatsumi (1981)の高Mg安山岩を用いた複数相飽和実験の結果を参考にすれば,温度が1100℃では生成されるマグマは高Mg安山岩質になると考えられる.またHirose (1997)による含水かんらん岩の部分融解実験では,1GPa, 1000℃で得られた液組成はSiO2 = 60.26%の高Mg安山岩である.今回得られたガラス組成は,Hirose (1997)およびHirose and Kawamoto (1995)による液組成とは著しく異なり,MgOに乏しいデイサイト~安山岩である.今回の実験では出発物質に多量のH2O (7.8--12.6 wt%)が含まれていたが,それがこれまでの実験と著しい違いをもたらすことになった可能性がある.すなわち,出発物質中の水の量が多ければ,マントルかんらん岩の直接の部分溶融でデイサイトマグマが発生し,より低い含水量では高Mg安山岩質マグマが生成されると予想される.マントルかんらん岩の直接の部分溶融でデイサイト質メルトが生じるかどうかは,安山岩成因論にとって非常に大きな問題である.今後は,出発物質に加える水の量を変えた実験を行い,さらに検討を進める予定である.
実験の結果,1000℃ではNo.1にはガラスが認められず,No.2~4からはかんらん石(Fo89--91%),斜方輝石,単斜輝石と共存するそれぞれ31%, 18%, 32%のガラスが得られた(相の量比はEPMAによる分析値から最小二乗法で求めた).ガラスの組成はいずれもデイサイト質であり,無水換算でSiO2 = 67~68%,MgO = 0.5~1.1%であった.また1050℃ではNo.1にはガラスが認められず,No.2~4からはかんらん石(Fo89--91%),斜方輝石,単斜輝石と共存するそれぞれ34%, 20%, 33%のガラスが得られた.ガラスの組成はいずれも安山岩質であり,無水換算でSiO2 = 61~64%,MgO = 2.0~3.1%であった.今回の実験で得られたガラス組成をMgO--SiO2図などにプロットすると,トレンドをなして分布することが明らかである.これは急冷結晶(主として斜方輝石)の晶出による組成変化トレンドと解釈される.また出発物質1の1.5 GPa 1000℃のものには,金カプセルと試料の間の一部に空間が見られ,そこには球状のガラスが多数認められるとともに,多くのかんらん石が結晶が認められる.これらは急冷時に水流体 (aqueous fluid)から分離したものの可能性がある.球状ガラスは著しくSiO2に富みMgOに乏しく,またかんらん石は著しくNiO (0.03wt%以下)に乏しくFo値(91~95%)が高い.これらの特徴から,急冷時に水流体から晶出したガラスやかんらん石を,メルトと平衡にあったものから区別することができると考えられる.またデイサイト質メルトとかんらん石のFe/Mg分配を検討したところ,ガラス試料のFeO/MgO値の最小値はRoeder and Emslie (1970)によるKD = 0.3の線の近くにプロットされており,そこからFeO/MgO値が上昇している.このことから,液とかんらん石は元々はほぼ平衡であり,急冷結晶の成長によって液組成がFeO/MgO比が増大する方向に組成変化したと考えられる.
以上の結果から,MgOに乏しいデイサイト~安山岩質メルトとマントルかんらん岩とが平衡に共存可能であることが示された.Tatsumi (1981)の高Mg安山岩を用いた複数相飽和実験の結果を参考にすれば,温度が1100℃では生成されるマグマは高Mg安山岩質になると考えられる.またHirose (1997)による含水かんらん岩の部分融解実験では,1GPa, 1000℃で得られた液組成はSiO2 = 60.26%の高Mg安山岩である.今回得られたガラス組成は,Hirose (1997)およびHirose and Kawamoto (1995)による液組成とは著しく異なり,MgOに乏しいデイサイト~安山岩である.今回の実験では出発物質に多量のH2O (7.8--12.6 wt%)が含まれていたが,それがこれまでの実験と著しい違いをもたらすことになった可能性がある.すなわち,出発物質中の水の量が多ければ,マントルかんらん岩の直接の部分溶融でデイサイトマグマが発生し,より低い含水量では高Mg安山岩質マグマが生成されると予想される.マントルかんらん岩の直接の部分溶融でデイサイト質メルトが生じるかどうかは,安山岩成因論にとって非常に大きな問題である.今後は,出発物質に加える水の量を変えた実験を行い,さらに検討を進める予定である.