日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] 海洋底地球科学

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:羽入 朋子藤井 昌和(国立極地研究所)

09:30 〜 09:45

[SCG61-15] 背弧海盆の非対称拡大を説明する仮説: 南マリアナトラフでの観測事実と数値シミュレーション

*島 伸和1中久喜 伴益2松野 哲男3沖野 郷子4 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻、3.神戸大学海洋底探査センター、4.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:非対称海底拡大、背弧海盆、南マリアナトラフ、上部マントル比抵抗構造、深海音響調査、数値シミュレーション

背弧海盆での非対称な海洋底拡大は、地磁気異常の研究から多くの背弧海盆で確認されている。Seama and Okino (2015) は、地磁気異常と海底地形のデータを解析し、南マリアナトラフ背弧海盆の南側のセグメントでは、海溝側が遅く古島弧側が速い非対称拡大が連続的に起こっていることを示した。さらに、地震学的手法による沈み込むスラブの上面の深さと拡大軸の位置に着目し、スラブからの脱水が非対称拡大に影響を与えているという仮説を提案した。すなわち、スラブから出てきた水が脱水域の上のマントルの粘性とソリダス温度を低下させるため、拡大軸が脱水域の位置に固定されやすい状況になっており、本来受動的で動くはずの拡大軸が海溝軸から一定の距離に制限されることで、非対称拡大が起こるとした。本研究では、この仮説を支持する南マリアナトラフ背弧海盆での新たな観測事実を示し、数値シミュレーションの結果も踏まえて、この仮説が非対称な海洋底拡大を実際に起しうるメカニズムであることを示す。南マリアナトラフ背弧海盆の拡大軸は、2つの拡大軸セグメントならなり、遅い拡大速度であるにも関わらず、速い拡大速度で見られる中央海嶺のような盛り上がり地形を示していて、スラブからの脱水による影響が示唆されている(e.g. Seama et al., 2015)。この拡大軸セグメントを横断した測線で、海底電位差磁力計の観測にもとづくMT解析により、上部マントル比抵抗構造が推定されている(Matsuno et al., in prep.)。この結果、拡大軸のやや海溝側に低比抵抗領域があり、その下には、スラブ直上まで比抵抗値の低い領域が非対称に広がっている。上部マントルでの低比抵抗は水やメルトの存在で説明できるため、上で提案された仮説は、上部マントル比抵抗構造としても支持されている。一方、この拡大軸セグメントのサブセグメントで得られたAUV「Urashima」による地形とサイドスキャンによる断層地形の分布、さらに潜水船「しんかい6500」の映像から推定した堆積物の分布は、この拡大軸が海溝側に数100mスケールで移動していることを示しており、微視的なスケールでの非対称拡大の様式を明らかにした(Okamoto et al., in prep.)。海溝側に溶融帯が存在すれば、それが拡大軸の移動に影響を与えているとすると、この非対称拡大様式の説明がつく。さらに、海洋地殻・マントル物質の相図にもとづくスラブからの脱水と水による強度低下を組み込んだ数値シミュレーションを背弧海盆の拡大に適用したところ、背弧海盆の拡大軸が、スラブでの脱水域に固定されることが示された(Nakakuki et al., in prep.)。我々が新たに得た観測事実と数値シミュレーションの結果は、スラブからの脱水が背弧海盆の拡大に影響を与えて非対称拡大を引き起こすという仮説を支持している。