日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] 海洋底地球科学

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG61-P08] 薩摩硫黄島,長浜湾における水酸化鉄の沈殿環境

*酒本 直弥1清川 昌一2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

キーワード:薩摩硫黄島、水酸化鉄の沈殿と堆積

薩摩硫黄島は,薩摩半島南端部より南へ約38kmに位置する東西6km,南北約3kmの鬼界カルデラの北西端に位置する火山島である.長浜湾は,Fe2+イオンに富む弱酸性の温泉水が湧出しており,Fe2+イオンの酸化により湾内の海水が赤褐色に変色している(四ヶ浦,田崎2001).長浜湾における水酸化鉄沈殿は,風向き・風速・潮汐が影響しており,長浜湾内が半閉鎖的な環境であるため,沈殿速度や堆積速度は非常に速く,水酸化鉄の沈殿や堆積が起きやすい環境である (Ninomiya and Kiyokawa 2009, Ueshiba and Kiyokawa 2012, Kiyokawa et al,.2015). 本研究では,2009年ころから長浜湾で引きあげた沈殿物トラップから,沈殿速度の季節における違いを推定する.さらに,水質調査から季節による水酸化鉄沈殿環境の違いを調査した.そのために,以下の観察や測定を行った.
(1)沈殿物トラップ解析:2009年7月12日以降,長浜湾W-site海底に長さ1mのアクリルパイプを設置し簡易セディメントトラップとした.2017年4月10日までに長浜湾から引き上げたトラップが36本(半割コア13本,未半割23本)ある.未半割コアのCTスキャン,層序記載,粒度分析,電子顕微鏡観察を行った.
(2)海面撮影(リクビュー),海底撮影(潜りビュー):薩摩硫黄島長浜湾内における海水面の色の変化を観察するため岬橋,恋人岬,平家城の3カ所で撮影を行った.薩摩硫黄島長浜湾の海水中の色の変化及び鉄沈殿物の様子を観察するため,海底定点観測カメラを湾内に設置し,熱水活動の様子や水酸化鉄の沈殿作用や海底表層状態を観測した.これらの撮影は5分間隔で写真を撮影した.
(3)水質調査:水質調査は1日1~3回E-siteの2か所で2017年12月9日~14日に行われ,潮汐の変化による海水環境変化について調査した.そのデータと長浜湾の気象データを比較した.
結果
 トラップの観察では色や沈殿物の様子から4つにわけることができた.(1)赤褐色部分(2)黒色部分(3)黄土色部分(4)黒色と黄土色の混合部分.さらに,CT映像では縞状の数mm~数cmの層が観察でき,トラップ観察における色の違いによりCT映像の色の濃さが変わっていた.また,黒色と黄土色の混合部分のCT映像では,穴があいている構造が観察された.また,トラップの対比を行うことにより,沈殿物の層は色の濃さによって3つのユニットに分けられた.(1)厚さ10~35cmの薄いユニット.(2)厚さ1~3cmの濃いユニット.(3)厚さ10~45cmの上位にかけて粗粒化する薄い層と濃い層の互層ユニット.(1)(2)は春から夏(4月~9月)頃にかけ沈殿し,(3)は秋から冬(9月~3月)頃にかけて沈殿する.沈殿速度は変動が大きく,2013年9月から3月と2015年4月から9月の間は30cm程の沈殿があった.
考察
 トラップ写真とCT映像の見え方の違いについて,赤褐色部分,黒色部分はCT映像の色が濃くなっており,鉄沈殿物であると考えられ,また,黄土色部分ではCT映像の色が薄く砂であると考えられる.黄土色部分黒と黄土色の混合している層には空洞になっている部分がみられる部分は,バクテリアなどの生物もしくは脱水によるものであると考えられる.トラップの対比では,2011年6月~2017年4月までにおよそ193cmの沈殿があることが分かり,そのうち(1)の層100cm程(2)の層23cm(3)の層70cmであった.このことより,平均沈殿速度はおよそ29cm/年であり.鉄沈殿物の平均沈殿速度は,13.9cm/年であること推定した.
まとめ
 薩摩硫黄島長浜湾では,非常に速い沈殿速度で沈殿が起きていることが分かった.この沈殿形態は3つあり,季節や気象条件により変わることが分かった.沈殿速度の変化は年により大きく変化し,台風が通過した時には,海底の砂が巻き上げられたため沈殿速度が速くなる.