日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] 地殻流体と地殻変動

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、松本 則夫(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ、共同)、田中 秀実(東京大学大学院理学系研究科)、座長:梅田 浩司小泉 尚嗣

15:45 〜 16:00

[SCG62-02] 降雨による岩盤の歪とその地域特性との関連性

*樋口 衡平1德永 朋祥2加藤 照之3愛知 正温2島田 誠一2 (1.公益社団法人日本地すべり学会、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科、3.東京大学地震研究所)

キーワード:歪、石英管伸縮計、鋸山地殻変動観測所、地下水、地質

降雨により引き起こされる岩盤の変形は地震予知のための地殻変動観測において重大なノイズであり,その降雨影響の評価は観測に基づき地殻変動を正しく理解するために重要な課題である.そのためには,観測坑設置場所の岩盤特性を理解し,降雨による岩盤の変形のメカニズムを理解することが重要となる.また,降雨による地盤の変形の分析は,降雨により引き起こされる深層崩壊の予兆を理解することにも役立てられる可能性がある.近年,豪雨による深層崩壊の発生が報告されているが,その事例の大半では,降雨と山体内部の岩盤の歪との関係,及び,地質,地下水等の影響について観測記録に基づき議論されたものは皆無といってよい.崩壊の発生場所及び時期等の予測精度の向上のためには,降雨イベント,地下水位,及び,地質の不均質性等が山体内部の岩盤の変形へ及ぼす影響を明らかにする必要がある.本研究では,降雨が岩盤の変形へ及ぼす影響を調べるため,千葉県富津市の鋸山地殻変動観測所の観測坑内に設置された石英管伸縮計 (3方向,各40 m)の連続観測記録を解析した.鋸山は房総半島の南西端に位置し,岩盤は中新−鮮新世の三浦層群からなり,本研究で並行してデータ解析を行っている三浦半島南西部の油壷地殻変動観測坑と同様の地質となっている.歪の観測記録は,2013年と2015年の期間について,BAYTAP-G (Tamura et al. 1991)を用いてひと月毎に潮汐,大気圧応答,ノイズ成分等が分離された.そして,残りのトレンド成分が歪の時系列解析に用いられた.その結果,以下の通り,鋸山では主な降雨イベントに対して類似した特徴を持つ再現性の高い歪の変化を抽出できた.解析期間の2013年と2015年ではそれぞれ,年降水量は1662 mmと1846 mm,最大雨量強度は46 mm/hと30 mm/hであった (観測地点: 鋸南,気象庁).計算された面積歪の最大値は,2013年には60−70 nano-strain/dayであり,一方,2015年にはその2倍の150−180 nano-strain/dayであった.降雨期間の面積歪の変化の主傾向は,高強度の降雨イベントの期間には-50−-90 nano-strain/dayに減少した.そして,その集中した降雨の後,面積歪は100−200 nano-strain/dayに増加し,その後,降雨前の元の歪量まで緩やかに減少した.一方,油壷観測坑では,双方の期間を通しての降雨期間の面積歪の最大値は数十nano-strain/dayであり,また,降雨期間内の歪の変化傾向の再現性は不明瞭であった.今後,これらの歪の変化の物理機構及びその地域性の原因を明らかにするためには,観測地点周辺の岩盤の物理特性の地域性の解明,及び,数値解析での歪の物理過程の確認が望まれる.観測地点周辺の現地調査結果は以下の通りである.油壷地殻変動観測坑での地下水位は,坑道よりも数メートル下にある.このことから,歪が観測されている岩盤は,地下水位よりも上位にあり,不飽和であることが想定された.一方,鋸山の標高200−220 mの頂上付近では,岩盤の亀裂から自噴している湧水が複数地点で見られた.これは,地下水が山体内部の頂上付近まで存在している可能性を示唆する.以上より,それぞれの観測坑周辺では,水門地質調査の結果から,岩盤内部の地下水の移動経路,分布状態等の地域特性が異なる可能性が示唆された.今後,地下水の観測,及び,地下水位の変化に伴う間隙水圧の変化の影響を考慮した解析モデルでの確認等を実施し,今回の調査で得られた結果の検証が望まれる.