14:15 〜 14:30
[SCG63-13] 吸水反応による反応誘起応力の温度依存性とその支配プロセス:MgO-H2O系からの制約
キーワード:反応誘起応力、破壊、吸水反応、反応速度、変形速度
地殻やマントルにおける吸水反応は数%~数十%にも及ぶ固相の体積増加を伴うため,応力や歪みを発生し,破壊と流路形成を引き起こしうる.この応力発生の駆動力は,反応で解放される自由エネルギーであり,熱力学的に予測される最大誘起応力は,蛇紋岩化反応やはんれい岩の吸水反応では最大数GPaにもなる(e.g., Kelemen and Hirth, 2012).こうした応力は岩石を破壊するのに十分であり,亀裂破壊や流路形成に重要と考えられる(e.g., Kuleci et al., 2017).しかしながら,実際に吸水反応による誘起応力の測定は殆どなく,実際の応力発生値とその支配要因は明らかになっていないのが現状である.本研究では,吸水反応により発生する応力の直接測定を行い,その温度依存性を明らかにした.
本研究では,特に反応による体積膨張の大きいMgO–H2O系を用いた.この系における吸水反応は,MgO + H2O → Mg(OH)2 であり,+116%にも及ぶ固相の体積膨張をともなう.出発物質はペリクレース(MgO)粉末のペレットであり,初期ポロシティーは約55%である.サンプルを体積一定の反応容器下で流体圧0.2MPaのH2Oと反応させ,発生する応力を測定した.反応温度は80–120℃である.
80–120℃の実験において,30–40 MPa以上の応力発生が確認され,岩石の引張強度と同程度の高応力が発生することが明らかになった.また,応力の発生過程は温度により異なり,低温では時間とともに単調増加するのに対し,高温ではピーク応力に達した後,応力が緩和した.また,ピーク応力値は,100–110℃付近で最大となり,それより低温や高温側ではより低いピーク応力となった.
各温度における反応速度,変形速度をそれぞれ測定した結果,反応速度の温度依存性はΔT = 50℃で10倍程度なのに対して,変形速度はΔT = 50℃で40倍もの温度依存性があることが明らかになった.反応による膨張歪み速度と変形による収縮ひずみ速度の釣り合いを検討した結果,110℃付近で両者の大小が入れ替わる.従って,応力発生のピーク値の温度依存性は,反応速度による膨張速度と変形による収縮歪み速度の兼ね合いに寄って説明されることが明らかになった.
以上の結果より,反応誘起応力の発生は,反応速度と変形速度の釣り合いによって支配されることが示唆される.本発表では,天然で観察される吸水反応の力学応答の多様性と,応力発生プロセスの関係について議論する.
[引用文献]
Kelemen and Hirth (2012) Earth and Planetary Science Letters, 345–348, 81–89.
Kuleci, Ulven, Rybacki, Wunder and Abart (2017) Journal of Structural Geology, 94, 116–135.
本研究では,特に反応による体積膨張の大きいMgO–H2O系を用いた.この系における吸水反応は,MgO + H2O → Mg(OH)2 であり,+116%にも及ぶ固相の体積膨張をともなう.出発物質はペリクレース(MgO)粉末のペレットであり,初期ポロシティーは約55%である.サンプルを体積一定の反応容器下で流体圧0.2MPaのH2Oと反応させ,発生する応力を測定した.反応温度は80–120℃である.
80–120℃の実験において,30–40 MPa以上の応力発生が確認され,岩石の引張強度と同程度の高応力が発生することが明らかになった.また,応力の発生過程は温度により異なり,低温では時間とともに単調増加するのに対し,高温ではピーク応力に達した後,応力が緩和した.また,ピーク応力値は,100–110℃付近で最大となり,それより低温や高温側ではより低いピーク応力となった.
各温度における反応速度,変形速度をそれぞれ測定した結果,反応速度の温度依存性はΔT = 50℃で10倍程度なのに対して,変形速度はΔT = 50℃で40倍もの温度依存性があることが明らかになった.反応による膨張歪み速度と変形による収縮ひずみ速度の釣り合いを検討した結果,110℃付近で両者の大小が入れ替わる.従って,応力発生のピーク値の温度依存性は,反応速度による膨張速度と変形による収縮歪み速度の兼ね合いに寄って説明されることが明らかになった.
以上の結果より,反応誘起応力の発生は,反応速度と変形速度の釣り合いによって支配されることが示唆される.本発表では,天然で観察される吸水反応の力学応答の多様性と,応力発生プロセスの関係について議論する.
[引用文献]
Kelemen and Hirth (2012) Earth and Planetary Science Letters, 345–348, 81–89.
Kuleci, Ulven, Rybacki, Wunder and Abart (2017) Journal of Structural Geology, 94, 116–135.