日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2018年5月20日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻、共同)、田阪 美樹(島根大学)

[SCG63-P12] Rhyolite-MELTSプログラムを用いたメルト粘性スケールの再現性の検討

*石橋 秀巳1鈴木 琉斗2 (1.静岡大学理学部地球科学専攻、2.静岡県立浜松北高校)

キーワード:粘性率、ケイ酸塩メルト、相平衡、MELTS、メルト粘性スケール、熱力学

【はじめに】

 ケイ酸塩メルトの粘性率は,マグマのダイナミクスについて考えるうえで最も重要な物性である.ケイ酸塩メルトの粘性率は,その化学組成・温度・含水量等の多くのパラメータに依存して変化するが,その依存性についてはこれまで多くの実験的検討がなされており,既にこれらのパラメータからメルトの粘性率を精度よく計算する手法も提案されている(e.g., Giordano et al., 2008).一方で近年,天然のケイ酸塩メルトについて,プレ噴火状態での化学組成・含水量・温度の条件から見積もられた粘性率が, SiO2含有量のみと非常に良い相関を示すことがTakeuchi (2015)によって示され,この関係を“メルト粘性スケール”と名付けた.メルト粘性スケール(以後,MVSとよぶ)は,log η= 0.146 SiO2 (wt.%) - 6.3 (±0.5 log unit) の式で与えられ,メルト含水量>2wt.%のメルトに適用できる.このMVSの関係が成立する原因として,Takeuchi (2015)は,ケイ酸塩メルトが相平衡のコントロール下にあるとき,一定のSiO2含有量の条件下では温度と含水量が負の相関を示すため,温度・含水量がそれぞれ粘性率に及ぼす影響が相殺されるためと考えた.ところで,マグマの熱力学の進歩に伴い,近年では天然の組成と同等のマグマの熱力学的相平衡計算が可能となった.特に,Rhyolite-MELTSプログラム(Gualda et al., 2012)は,比較的信頼性の高い相平衡シミュレーションができることが知られている.そこで本研究では,Rhyolite-MELTSプログラムを用いたマグマの熱力学的相平衡計算を行い,相平衡コントロール下でのMVSの再現性について検討した.

【研究方法】

本研究では,3種類のメルト組成を初期条件とし,圧力が100, 300, 500MPa,初期メルト含水量が0.5, 1, 2, 3wt.%,fO2~NNOバッファの条件で,等圧分別結晶作用シミュレーションを行った.初期メルトの化学組成には,富士山の比較的未分化な無斑晶質玄武岩(印野丸尾溶岩:高橋ほか, 2003)の化学組成を用いた.更に,シミュレーションによって得られたメルトの温度・化学組成・含水量条件にGiordano et al. (2008)の式を適用し,メルトの粘性率を計算した.

【結果と議論】

メルトの粘性率とSiO2含有量の関係は,初期メルト含水量が0.5wt.%の場合を除くと,Takeuchi (2015)のMVSと概ね整合的であった.初期メルト含水量が0.5wt.%の場合,メルト含水量が>2wt.%となっても,MVSに比べて0.6-1.2 log unit程度高いメルト粘性率を示した.また,メルトがH2Oに飽和すると,MVSから高粘性側へと逸脱する傾向がみられた.ここで,Giordano et al. (2008)の式によって計算されたメルト粘性率の対数とMVSの差をΔMVSと定義し,ΔMVSとメルトの主成分組成との関係を検討した.その結果,全ての初期メルト含水量条件において,ΔMVSの値は分化の初期であるSiO2~50-51wt.%の間で急増し,その後,SiO2の増加に伴ってやや減少するか,ほぼ一定値を維持する傾向が見られた.初期メルト含水量が0.5wt.%の場合,分化初期での粘性率の増加量が大きいためにΔMVS>0.5となり,その後はこの値を維持する.ΔMVSの急増が見られる分化初期では,メルトのTiO2とFeO*が増加するのに対し,ΔMVSがほぼ一定~減少を示す条件ではTiO2とFeO*が減少を示す.これは,後者の条件ではFe-Ti酸化物鉱物が晶出していることを示唆する.Fe-Ti酸化物鉱物の晶出は,効率的に残液メルトのSiO2を増加させる.このため,Fe-Ti酸化物に飽和条件下では,メルト含水量・温度条件の変化に伴ってメルトSiO2含有量も変化する.このために,メルトの粘性率とSiO2含有量の変化が強い相関を示したと考えられる.一方で,玄武岩質メルトの結晶分化初期には,晶出する鉱物とメルトの間でSiO2含有量の差が小さいため,結晶作用によってメルトSiO2量が大きく変化しない.このため,メルトのSiO2含有量がほぼ一定を保ったまま,粘性率が大きく変化することができ,MVSから逸脱する傾向を示したと考えられる.本研究の結果は,MVSの適用条件として,結晶作用によるメルトSiO2含有量が大きいことが加えられることを示した.