11:15 〜 11:30
[SCG64-09] 島弧地殻内のスラブ流体のマスバランス:地殻−メルト反応帯と古カルデラ分化過程からのプロセス解析
キーワード:水収支、スラブ流体、地殻ーメルト反応、古カルデラ
島弧地殻内の水収支は,島弧の火成活動,レオロジーやエネルギー収支を考える上で重要である.火山岩・マントル捕獲岩や温泉水の化学分析,および地震波トモグラフィーや電磁気探査から,島弧下マントルには大量のスラブ流体が付加しており,含水量約4wt%の玄武岩質マグマが島弧下へ輸送されていることが明らかになってきた(e.g., Plank et al., 2013).一方で,島弧地殻内での水収支は,島弧エネルギーに直に関わってくるものの,その収支や分布については明らかになっていない.
島弧火山岩の地球化学モデルによると,島弧下には島弧幅1 mにつき13 t/yr/mのH2Oが含水メルトの形で付加されている(Kimura and Nakajima, 2015).本研究では,含水メルトとして供給されたH2Oの,地殻内での分配を探るため,地殻–メルト反応およびマグマ溜まり内のH2Oの分化を,それぞれ東南極地殻-メルト反応帯と東北日本弧の古カルデラにおけるメルト包有物の解析から制約した.
東南極セールロンダーネ山地の地殻−メルト反応帯は,0.5GPa, 700℃でのかんらん岩−花崗岩質マグマの反応を記録している(Uno et al., 2017).直線的な亀裂沿いに貫入した幅0.1–2mの花崗岩質岩脈と壁岩の金雲母–パーガス閃石–かんらん岩との間に,角閃石・金雲母からなる幅10–20cmの反応帯が形成している.これらの反応帯の熱力学的解析から,花崗岩質岩脈側ではH2Oの活動度(aH2O)は1で流体に飽和しているのに対して,かんらん岩側ではaH2Oは0.7ほどであり,岩脈から約20cmの距離で流体に不飽和である.これらの結果は,マグマから放出されたH2O流体の壁岩への輸送と反応は限定的であり,放出されたH2Oの大部分(>65%)は過剰流体として,岩脈の亀裂を通じてより上部へと輸送されていることを示唆する.
上部地殻へと輸送された含水マグマの含水量変化は,東北日本弧に分布する古カルデラの分化過程から推測できる.白沢カルデラは10–7 Maに活動した古カルデラであり,2011年以降の群発地震などから現在でも活発な流体活動が示唆されている(Okada et al., 2015).白沢カルデラにおける石英中の流体包有物からは,デイサイト~流紋岩質のマグマ溜まりが地下1–11 kmに存在していたこと,メルトの含水量は3–6wt%であり,少なくとも深度6 km以浅ではマグマは流体に飽和していることが明らかになった(鈴木ほか2017).カルデラ直径20 km, 深さ10 km, 平均H2O濃度4 wt%, 活動期間3 Myrとすると,白沢カルデラに供給されたH2Oは1.3 × 105 kg/yrと見積もられ,島弧幅1mに換算すると6.6 t/yr/mとなる.これはKimura and Nakajima (2014)で示された,島弧下への含水マグマの上昇による流体フラックス(13 t/yr/m)とオーダーで一致する.
以上より,第0次近似としては,島弧下のマグマから放出されたH2O流体は,中部地殻深度では地殻と反応せずにマグマ溜まり内に留まり,上部地殻深度のマグマ溜まりへと輸送され,約6 km以浅では飽和していると示唆される.より詳細な島弧地殻内の水収支を議論するためには,島弧下のマグマ生成速度と地殻への付加量,地殻内のマグマ上昇プロセスとその空間スケール,玄武岩質マグマから安山岩・流紋岩質マグマへの分化過程におけるH2O収支,地殻構成岩相とその含水率,地殻内の亀裂密度分布と透水係数などの情報が必要である.
[引用文献]
Kimura, J.I., and Nakajima, J. (2014) Geochimica et Cosmochimica Acta, 143, 165–188.
Okada, T., Matsuzawa, T., Umino, N., Yoshida, K. et al. (2015) Geofluids, 15, 293–309.
Plank, T., Kelley, K., Zimmer, M., Hauri, E., Wallace, P. (2013) Earth and Planetary Science Letters, 364, 168–179.
鈴木拓,宇野正起,奥村聡,山田亮一,土屋範芳 (2017) 日本地熱学会誌, 39, 1, 25–37.
Uno, M., Okamoto, A., Tsuchiya, N. (2017) Lithos, 284–285, 625–641.
島弧火山岩の地球化学モデルによると,島弧下には島弧幅1 mにつき13 t/yr/mのH2Oが含水メルトの形で付加されている(Kimura and Nakajima, 2015).本研究では,含水メルトとして供給されたH2Oの,地殻内での分配を探るため,地殻–メルト反応およびマグマ溜まり内のH2Oの分化を,それぞれ東南極地殻-メルト反応帯と東北日本弧の古カルデラにおけるメルト包有物の解析から制約した.
東南極セールロンダーネ山地の地殻−メルト反応帯は,0.5GPa, 700℃でのかんらん岩−花崗岩質マグマの反応を記録している(Uno et al., 2017).直線的な亀裂沿いに貫入した幅0.1–2mの花崗岩質岩脈と壁岩の金雲母–パーガス閃石–かんらん岩との間に,角閃石・金雲母からなる幅10–20cmの反応帯が形成している.これらの反応帯の熱力学的解析から,花崗岩質岩脈側ではH2Oの活動度(aH2O)は1で流体に飽和しているのに対して,かんらん岩側ではaH2Oは0.7ほどであり,岩脈から約20cmの距離で流体に不飽和である.これらの結果は,マグマから放出されたH2O流体の壁岩への輸送と反応は限定的であり,放出されたH2Oの大部分(>65%)は過剰流体として,岩脈の亀裂を通じてより上部へと輸送されていることを示唆する.
上部地殻へと輸送された含水マグマの含水量変化は,東北日本弧に分布する古カルデラの分化過程から推測できる.白沢カルデラは10–7 Maに活動した古カルデラであり,2011年以降の群発地震などから現在でも活発な流体活動が示唆されている(Okada et al., 2015).白沢カルデラにおける石英中の流体包有物からは,デイサイト~流紋岩質のマグマ溜まりが地下1–11 kmに存在していたこと,メルトの含水量は3–6wt%であり,少なくとも深度6 km以浅ではマグマは流体に飽和していることが明らかになった(鈴木ほか2017).カルデラ直径20 km, 深さ10 km, 平均H2O濃度4 wt%, 活動期間3 Myrとすると,白沢カルデラに供給されたH2Oは1.3 × 105 kg/yrと見積もられ,島弧幅1mに換算すると6.6 t/yr/mとなる.これはKimura and Nakajima (2014)で示された,島弧下への含水マグマの上昇による流体フラックス(13 t/yr/m)とオーダーで一致する.
以上より,第0次近似としては,島弧下のマグマから放出されたH2O流体は,中部地殻深度では地殻と反応せずにマグマ溜まり内に留まり,上部地殻深度のマグマ溜まりへと輸送され,約6 km以浅では飽和していると示唆される.より詳細な島弧地殻内の水収支を議論するためには,島弧下のマグマ生成速度と地殻への付加量,地殻内のマグマ上昇プロセスとその空間スケール,玄武岩質マグマから安山岩・流紋岩質マグマへの分化過程におけるH2O収支,地殻構成岩相とその含水率,地殻内の亀裂密度分布と透水係数などの情報が必要である.
[引用文献]
Kimura, J.I., and Nakajima, J. (2014) Geochimica et Cosmochimica Acta, 143, 165–188.
Okada, T., Matsuzawa, T., Umino, N., Yoshida, K. et al. (2015) Geofluids, 15, 293–309.
Plank, T., Kelley, K., Zimmer, M., Hauri, E., Wallace, P. (2013) Earth and Planetary Science Letters, 364, 168–179.
鈴木拓,宇野正起,奥村聡,山田亮一,土屋範芳 (2017) 日本地熱学会誌, 39, 1, 25–37.
Uno, M., Okamoto, A., Tsuchiya, N. (2017) Lithos, 284–285, 625–641.