日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG66] 3次元地質モデリングとシミュレーションの新展開

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:高野 修(石油資源開発株式会社技術研究所)、木村 克己(独立行政法人防災科学技術研究所)、座長:高野 修(石油資源開発)

14:45 〜 15:00

[SCG66-09] ボーリングデータ解析に基づく三次元地質モデリングと伏在活断層の推定:東京低地と武蔵野台地の浅部地盤の例

*木村 克己1西山 昭一2花島 裕樹3大井 昌弘1 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.応用地質株式会社、3.Smart Solutions 株式会社)

キーワード:三次元モデル、伏在活断層、東京低地

平野域の浅部地盤の三次元地質モデリングの需要は,土木建築事業はもちろんとして,都市計画,地震動予測などの防災・減災,地下水・環境汚染評価,など多様でかつ増加しており,より高精度なものが求められている.人口が密集し高度な土地利用が進む都市平野域では,現地調査が十分にできない反面,有用な地下地質情報として国や自治体を中心に実施された地盤調査のボーリングデータ(建築・土木事業で実施される標準貫入試験調査由来.以下同様)が蓄積されている.各ボーリングデータはその調査地点の地盤の工学特性や土質に関する情報を有しており,従来より,ボーリングデータの地質学的な解読により,堆積環境や地層の層位が判断され,地質断面図としてボーリング柱状図を投影して表現することにより,二次元の空間情報として理解し表現されてきた.こうした地質解読の精度向上において,地層境界設定の基準となる地質標準の確立やその地点の増加,地質解読技術の養成が基本であることはいうまでもない.さらに,三次元の地質モデル構築のためには,データの三次元数値処理とその品質確保のための技術,その目的に応じた可視化の技術が新たに必要となる.都市平野域の三次元浅部地盤モデリングの主要な課題は,限られたボーリングデータから側方に著しく岩相と物性が変化する不整形な地盤特性を正確に表現し,その品質を担保する手法の開発にあると考えられる.本研究は,首都圏が位置する東京低地および隣接する武蔵野台地東縁部を対象地域として,第四系の地層境界面モデルとそれを変位基準面として平野地下に伏在する第四紀断層ないし活断層を推定する手法とその結果を発表する.なお,本対象地域におけるこれらの断層の存在については,豊蔵ほか(2007),木村ほか(2017)で発表されている.
 東京低地および隣接台地域のモデル構築に利用したボーリングデータは約7000本であり,主に東京都・国交省から提供を受けている.東京低地の層序は,上位から下位へ,沖積層(MIS2-1),立川期段丘堆積物(MIS3-2),武蔵野礫層(MIS5d-4),東京層(MIS7-5e;東京港地下地質研究会,2000),江戸川層ないしそれより下位の上総層群で構成され,武蔵野台地では,同層序のうち武蔵野礫層より上位に,ローム層とローム質粘性土が重なる.地層境界面モデルとして,東京層基底,武蔵野礫層の基底,沖積層基底の3面について求めた.東京層,武蔵野礫層の両基底面を系統的に変位させ,一部は沖積層基底礫層とその上位の砂・泥互層を変位させることから,武蔵野台地東部から東京低地にかけて,13条の伏在第四紀断層の存在が推定されている(木村ほか,2017).三次元地質モデリングを目的としたボーリングデータの解析の一般的な手順は,次のとおりである(木村ほか,2013, 2014).(1)ボーリングデータのデータベース構築と品質確認を実施する.(2)各ボーリング柱状図を投影した地質断面図表示を利用して,既往研究の標準層序(東京都土木研編,1996;東京都地下地質,2000)を基準に,主要な地層境界層準を各ボーリング柱状図に設定する.(3)(2)で設定した各地層境界と地質図などそれ以外の地層境界に関するデータを合わせて,空間補間計算処理(BS-Horizon;野々垣ほか,2008)によって地層境界面モデルを求める.(4)地層境界面モデル間の上下関係,地形形状や他の地下地質情報との妥当性を検証し修正する.(5)地層境界面モデルとボーリングデータの土質・N値・地層区分情報の計算処理から三次元グリッドモデルを構築する.(5)目的に応じて三次元グリッドモデルを可視化する.
 断層の推定にあたっては,上記の手順において,以下の処理を付け加える.上記の手順(2)で,東京層,武蔵野礫層,沖積層の基底面(基底礫層上面)の層準高度が5m以上急変する地点を断層候補地点(以下,F候補点)としてマークする.手順(4)において,各断面図で設定したF候補点をGIS上で,地層境界面モデル,ボーリングデータ地点とともに表示し,F候補点が平面的に2km以上連続すること,地層境界面モデル高度の急変帯との整合性を考慮して,断層線を推定する.そして,あらためて,手順(3)にもどり,断層を考慮した地層境界面モデルを求める.本研究で利用している面計算プログラムのBS-Horizonでは断層による地層の変位を表現することができないため,断層近傍のエリアを切り抜き,そのエリアについて,”Sufer”(HULINKS社製)を用いて断層を考慮した面モデル計算を実施して求めて出力したグリッドデータを切り抜いたエリアに補填するという計算処理を行った.”Sufer”では断層で変位を受けた地層境界面モデルを求める場合に,断層近傍のポイントを断層の上盤と下盤に区画し,空間補間計算する場合に,断層を越えたエリアのデータを参照しないで計算するという処理がなされる.
 本研究では,大量のボーリングデータの解析から地層境界面モデルとそれらに累積的に変位を与える断層群の表現手法を示し,それらの幾何学的な特徴を明らかにした.今後,断層の詳細な位置や形状,その活動性を明らかにするために,継続的にボーリング調査を含む地下構造探査が必要であると考えている.

文献
木村ほか(2013)地質学雑誌,119,537-553. 木村克己ほか(2014)特殊地質図no.40, 56-113,地質調査総合センター.木村ほか(2017)活断層学会2017年度秋季学術大会講演予稿集,62-63. 野々垣ほか(2008)情報地質,19,61-77. 東京都地下地質研究会(2000)地団研専報no.47,10-22.東京都土木技術研究所編(1996)東京都(区部)大深度地下地盤図.技報堂出版.豊蔵ほか(2007)地学雑誌,116,410-430.