日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG67] 海底下の変動現象を捉えるための海域観測の現状と展望

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 302 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:平原 和朗(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球物理学教室)、日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、座長:平原 和朗

14:15 〜 14:30

[SCG67-03] 海域で行う高精度陸上観測の意義と問題点:銭洲岩礁GPS観測を例として

*田部井 隆雄1田所 敬一2 (1.高知大学理工学部、2.名古屋大学地震火山研究センター)

キーワード:銭洲、GPS、地殻変動

日本周辺で発生するプレート境界型巨大地震の震源域は海底下にあり,スロースリップイベントの発生頻度の高い地域の大部分も海域にある.日本では地震や地殻変動の稠密な定常観測網が展開されているが,それでもなお,分解能が十分でない地域や対象は少なからず存在する.観測場所を陸上から海域に拡張するのは自然な方向であり,すでに海底ケーブルを用いたS-netやDONETなど地震・津波観測網や,GNSS/音響測距結合方式 (GNSS/A) による海底地殻変動観測など,海底観測システムの開発と定常観測化が進んでいる.一方で,こうしたシステムはいずれも大規模で多大なコストを必要とするのに対し,観測精度は依然陸上観測の方が優位である.陸上での観測を定常観測網に頼るだけでなく,半島先端や離島,岩礁において機動観測を積極的に展開し,海域の観測空白域の解消に努める作業は今後も重要である.本講演では,筆者らが1995年以降実施している銭洲岩礁GPS観測を例に,こうした「海域の陸上観測」の現状と問題点を議論したい.

銭洲岩礁は,伊豆半島南方沖から南西へ伸びる銭洲海嶺の付け根に位置する.銭洲海嶺南縁ではプレートの新たな沈み込みを示唆する地殻構造モデルが得られ,フィリピン海プレート本体とは有意に異なる速度ベクトルを示すGPS観測結果と合わせて,伊豆半島から銭洲海嶺に至るいわゆる伊豆マイクロプレート (IMP) が提唱されている.IMPの存在は,駿河トラフにおけるプレート収束速度の推定に大きな影響を及ぼす.一方,陸上のGEONET成果に加え,南海トラフに沿って配置されたGNSS/A観測局の平均変位速度を用いて推定されたプレート境界面の固着分布 (Yokota et al., 2016) には,駿河トラフ沿いに顕著な固着域が認められる.これらの点を検証するためには,銭洲岩礁の運動が重要な役割を演じる.

銭洲岩礁へは約40 km離れた神津島より傭船によりアクセスする.岩礁の最高標高は10 m程度で,ちょっとした荒天で岩礁全体が波をかぶる.台風通過時の状況は想像できない.一般に,波高が2 mを超えると上陸しての作業は困難となる.終日晴天の日でも,神津島で足止めされることが少なくない.上陸できたとしても岩礁での滞在時間が5-6時間に限定されるため,1回の観測時間とデータ取得頻度ははなはだ不十分である.岩礁の変動を精密決定するには長期間のGNSS連続観測が理想的であるが,それには克服すべき問題が多数あって実現していない.それらを列挙すると,海水の浸水対策 (防水,防錆),物理的外力 (暴風,高波) に対する機器の保持,夏季の日射 (高温,塩分の結晶化) への対応などである.長期間の連続観測には安定した電源の確保が必須であるが,これに関しても上記の問題が障害となる.さらに,データ回収のための通信の確保も重要課題である.

科学研究費補助金新学術領域「スロー地震学」の測地観測班 (代表:廣瀬仁) では,豊後水道や南西諸島のスロースリップイベントの発生域を対象に,半島先端や離島にGNSS観測機器を設置して連続観測網を展開している.銭洲岩礁ほど観測環境が苛酷ではないが,高精度の陸上観測技術を海域観測に生かす努力を,今後も継続していくべきである.