日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM16] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A11 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山崎 健一(京都大学防災研究所)、相澤 広記(九州大学大学院理学研究院附属・地震火山観測研究センター)、座長:相澤 広記山谷 祐介

14:30 〜 14:45

[SEM16-04] 地熱地域岩石コアの電気インピーダンス測定:水飽和度・塩濃度・亀裂空隙率の影響

*澤山 和貴1北村 圭吾2藤光 康宏3 (1.九州大学大学院工学府地球資源システム工学専攻、2.九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、3.九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)

キーワード:電気インピーダンス、弾性波速度、水飽和度、透水試験、EGS

地熱資源の持続的な利用を可能にするためには,枯渇した地熱貯留層への人工涵養法の開発が不可欠である。このような能動的地熱開発(Enhanced Geothermal System; EGS)を行う上では,地下深部の貯留層における熱水飽和度の推定が極めて重要であり,近年, MT法を用いた比抵抗構造探査の適用が注目されている。MT法では,低周波数帯域のインピーダンス特性を調べることで地下深部の情報を得ることができるが,電気インピーダンスと水飽和度の相関を調べた研究は少ない。さらに電気インピーダンスは,母岩の空隙率や流体の塩濃度にも依存すると報告されているものの,これらの影響を水飽和度と関連付けた研究例はない。本研究では,地熱貯留層を構成する岩石の水飽和度と電気インピーダンスの関係を実験的手法によって明らかにすることを目的とし,2種類の岩石コアの室内透水試験を行った。サンプルには地熱地域で得られた安山岩を用い,人工的に熱性亀裂を生成した試料A(空隙率10.5%)と天然で形成された一枚亀裂を有する試料B(空隙率3.8%)を用意した。これらを円柱コア(直径35 mm, 長さ70 mm)に成形し,封圧20 MPa,温度25 ℃の条件下で透水試験を行った。これらのコアサンプルにリボン状のAg-AgCl電極4本と圧電素子をとりつけることで,透水試験中の電気インピーダンス(測定周波数10-2−105 Hz)と弾性波速度を測定している。透水試験では,はじめに過熱蒸気を模擬した窒素ガス(間隙圧10 MPa)で空隙を充填させたのち,模擬涵養水を一定圧力(11, 12, 14, 16 MPa)で注入することで,試料内の水飽和度を変化させた。ここで模擬涵養水として,試料Aでは1wt-% KCl溶液(電気伝導度1.75 S/m),試料Bでは1wt-%ならびに0.1wt-% KCl溶液(電気伝導度0.19 S/m)を使用することで,電気インピーダンスの塩濃度依存性も同時に調べている。試料Aを用いた透水試験の結果,塩水注入前の電気インピーダンスは105 Ωのオーダーであったのに対し,注入後の電気インピーダンスは103 Ωのオーダーと2桁ほど減少した。この顕著な電気インピーダンスの減少は,岩石中にあらかじめ充填していた窒素ガスが,注入した塩水によって置換されたためであると考えられる。また,注入圧力の上昇に伴って電気インピーダンスの減少が確認され,注入水圧が16 MPaのときでは11 MPaのときに比べて40%ほど減少した。一方で,同時に測定していたP波速度は注入水圧の変化によってほとんど変化は認められず,電気インピーダンスは微小な水飽和度の変化に対して敏感に反応することが明らかとなった。このことは,地熱貯留層における緩やかな水飽和度の変化が電気インピーダンスによってモニタリング出来る可能性を示唆している。間隙水の塩濃度の影響を調べた試料Bの結果では,塩濃度にかかわらず,注入圧力の上昇に伴う電気インピーダンスの減少傾向が同様に確認され,注入初期と比較して最大70%ほど減少した。これらの結果を水飽和度に対してプロットすると,試料AとBでは電気インピーダンスの減少傾向に相違がみられ,これは空隙率や亀裂の形態が異なることに起因していると考えられる。また試料Bの異なる塩濃度の結果では,同じ水飽和度でも電気インピーダンスに約60%の差異が確認された。これら全ての実験結果を試料内に存在する溶質のモル量を横軸にとって比較すると,比較的傾向が良く一致したことから,電気インピーダンスの水飽和度・塩濃度・空隙率に対する依存性は,試料内に存在する溶質のモル量,ひいてはイオンの総量で説明できることが明らかとなった。