[S-EM16] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

[SEM16-09] マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いたMTデータ逆解析の信頼度評価手法の開発

*小路 久稔¹、後藤 忠徳¹ (1.京都大学大学院工学研究科)

キーワード：MT法、主成分分析、マルコフ連鎖モンテカルロ法、2Dインバージョン

電磁探査法の一種であるMagnetotteluric(MT)法は，資源探査や活断層調査等に用いられている．一般的に，MT法により求められた見掛比抵抗・位相などに対して逆解析（インバージョン）を行うことで地下の比抵抗構造を推定することができる．これらの比抵抗モデルは，測定時のノイズや，インバージョンを行う上での諸制約のために，真の比抵抗構造とは一致しない．従って，推定された比抵抗構造の信頼性の議論が必要となる．従来の研究では，比抵抗モデルの一部分を変更し，見掛比抵抗や位相にどの程度の変化が生じるかを計算することで，比抵抗モデルの妥当性について検証がなされてきた．しかしながら，この検証法は定性的かつ，解析者によって行われる主観的なものであり，検証の範囲が適切でないという問題がある．本研究では，このような課題を解決するべく，比抵抗モデルの定量的かつ客観的な信頼度推定法の開発を目指している．

　しかし推定されたモデルパラメータ周辺の感度は線形近似を用いることで求めることができるが，パラメータ全域での感度を求めることは困難である．そこでパラメータの推定精度を定量的に評価できるマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いることで解決を試みた．そこでさらに問題となるのが，モデルパラメータの数である．2次元比抵抗モデルのパラメータ数は1次元モデルなどと比べ膨大であり，計算時間も膨大となる．そこで比抵抗モデルを構成する要素である比抵抗異常体に着目した．本研究では，空間データ中の主要な構造を抽出する際に用いられる主成分分析を用いて，比抵抗異常体の客観的抽出を試みた．具体的には，まず2次元比抵抗モデルに対し主成分分析を行い，鉛直方向と水平方向それぞれに共通する特徴を抽出する．その特徴は各主成分得点に表れる．乱数を用いてこの主成分得点を変化させ，主な異常体を鉛直，水平各方向に変化させた新たなモデルをマルコフ連鎖モンテカルロ法に従いサンプリングする．変化させるパラメータは比抵抗異常体の値，幅，位置，平滑度である．これらのサンプル群から各パラメータの平均や分散を導出することで比抵抗モデルの変化幅の許容範囲を評価し，定量的な信頼度の推定を行った．

　本手法の妥当性を検証するため，仮想的なモデルから得た合成データに対してインバージョンを行い，得られた比抵抗モデルの信頼度評価を行った．例えば，高比抵抗体と低比抵抗体の2つの異常体が存在するモデルに対し主成分分析を行った結果，第一主成分に2つの異常体が強く表れた．次に第一主成分の主成分得点を，乱数を用いて変化させ，マルコフ連鎖モンテカルロ法に従い変化したモデルをサンプリングした．そしてサンプル群から低・高比抵抗体の水平・上下位置，幅，比抵抗の値，平滑度についての信頼度を可視化できた．得られた信頼度は従来から指摘されているMT法（TEモード）のインバージョン結果の傾向と一致することが分かった．

　さらに，より複雑なモデル（より多くの異常体が存在するモデル）の信頼度推定も行った．その結果，複雑なモデルに対しても異常体が検出され，信頼度の推定も可能であった．今後はTEモード以外のインバージョン結果に対する信頼度評価を行うとともに，実データへの適用を行う予定である．