日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 重力・ジオイド

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:Takayuki Miyazaki(Geospatial Information Authority of Japan)、山本 圭香(国立天文台)、座長:名和 一成西島 潤

11:15 〜 11:30

[SGD01-09] 相対重力計で観測された阿蘇地域における熊本地震前後の重力変化

*宮内 佑典1風間 卓仁1吉川 慎2市村 美沙1大倉 敬宏2福田 洋一1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学火山研究センター)

キーワード:重力変化、地殻変動、質量変化、阿蘇火山、熊本地震

重力観測は火山活動に伴う質量移動を把握するのに有効な手法の1つである。熊本県の阿蘇火山では1981年から数年ごとに繰り返し相対重力測定が実施され、広域の重力時空間分布が観測されてきた(吉川ほか, 2009)。2011年以降には火山活動の活発化が見られ、2016年3月に至るまでの年3-4回の高頻度な相対重力観測によって、阿蘇火山内部における熱水質量の時空間変動が解明された(Sofyan et al., 2016)。しかしながら、2016年4月の熊本地震では阿蘇地域でも甚大な被害が発生し、交通網の不通や測地基準点の亡失などのため重力測定の再開は困難となった。阿蘇火山の活動は2011年以降の活発化後に2015年頃から静穏化の傾向を示したが、このような一連の火山活動サイクルを質量移動の観点から理解することは将来の火山活動を予測する上でも非常に重要である。

そこで本研究は、阿蘇火山周辺の静穏期における重力変化を監視するために、2017年5, 8, 11月に繰り返し重力測定を実施した。重力測定に用いたのは京都大学火山研究センター所有のCG5相対重力計と京都大学理学部所有のLaCoste相対重力計G680である。CG5重力計についてはフィールド測定していない期間に火山研究センターで連続測定を実施し、この連続データに多項式を回帰させることで長期の器械ドリフトを補正した。また、それぞれの重力計で得られた重力データに対して器械高・潮汐・一日以内の短期ドリフトを補正し、スケールファクターを掛け合わせることで相対重力値を算出した。その後、地震前および地震後の相対重力値をそれぞれ平均化し、絶対重力計で地震前後に観測された絶対重力値を用いることで、阿蘇地域における熊本地震前後の絶対重力変化を見積もった。なお、この絶対重力変化の中には熊本地震に伴う地殻変動の寄与が含まれているので、干渉SARによって得られた準上下変位(地理院地図より)に鉛直重力勾配値-0.2 mGal/mを掛け合わせたものを絶対重力変化から差し引いた。

その結果、火口の西側4 km以内にある5点で-0.090 mGal以上の重力減少を示し、中岳第一火口直近の基準点AsoCCで最も大きな重力減少-0.180mGalが得られた。阿蘇山麓では重力減少量が小さいことから、阿蘇山上の大きな重力減少は阿蘇火山浅部における質量損失を示していると考えられる。例えばAsoCCの直下500 mにおける点質量変動を仮定すると、AsoCCの重力減少を再現するためには6.7×10^9 kgの質量損失が必要と試算される。しかしながら、この質量損失ではAsoCC以外の重力点における重力減少を十分には再現できないので、阿蘇火山内部の質量損失は火口直下だけではなく火口西側の広範囲に渡っていることが考えられる。今後は阿蘇火山内部の質量変動について物理モデルを構築するとともに、引き続き相対重力測定を継続して火山周辺の重力変化を監視する予定である。