日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学一般・GGOS

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(海上保安庁海洋情報部)、若杉 貴浩(国土交通省国土地理院)、座長:大坪 俊通(一橋大学)、阿部 聡(国土地理院)

15:45 〜 16:00

[SGD02-08] 衛星海面高度計記録に見る海面上昇:ARGO float観測による熱膨張成分の推定とENSOによる短期的乱れ

*徳井 雄太1 (1.北海道大学)

キーワード:海面上昇、ARGO float、衛星高度計、ENSO、GMSL、体積変化

近年、地球温暖化による海面上昇が話題になっている。海面上昇には大きく2つの原因があると考えられており、1つは陸域から大陸氷床や山岳氷河などの融解水の形での海への流入、もう1つは海水自体が温まることにより起きる熱膨張である。それらがどれほどの比率で海面上昇に寄与しているのか、またそれぞれの要因がもたらす変化率は時間によってどう変わるのか、それらに加速度はあるのか、などがこれまでに多く議論されてきた。また、ENSO(エルニーニョ南方振動)に代表されるような気候変動によって世界中で降雨パターンの変化や海水温の変化が引き起こされているが、それらによる短期的な海水準変動の乱れはどのように現れるかも重要な課題である。

 衛星海面高度計は、1992年8月にTOPEX/Poseidon衛星が打ち上げられて以降、それまでの験潮儀などでは測定することのできなかった広範な地域の海水準の変化を均一な精度でとらえることができるようになった。一方ARGO計画は、世界中の海洋での水温、塩分濃度などの深さ方向のプロファイルを得ることを目標とした国際プロジェクトであり、ARGO floatと呼ばれるその場観測を行う装置が世界中の海洋に展開されている。現在では約3,900個のARGO floatが配備され、日夜データを取得している。

本研究では、1993年12月~2017年12月における衛星海面高度計による海面上昇の様子について解析を行い、全球平均で約3.0mm/年の割合で海面が上昇していることを見出した。また、海域ごとの海水準のデータから、変化率や季節変化の海域ごとの特徴やそれらの特徴が現れる原因について考察した。次に、ARGO floatが全球に配備されたといわれる2005年1月から現在にかけての海水温の深さ分布データから0 m~2,000 mの深さの海水の熱膨張による海面高変化を計算した。グリッド化された緯度経度1°ごとのデータからは、インド周辺で変化率が大きいこと、太平洋や大西洋北部では東西で変化の符号が異なっている等のことが分かった。全球平均では、熱膨張による海水準の上昇量は約1.4mm/年であるという結果を得た。

 最後に、代表的な気候変動であるENSOについて、その指数として広く用いられるNINO.3海域の海水温異常と、衛星高度計による海面高度のデータやARGO floatによる海水温のデータとの相関を調べた。NINO.3の海水温異常とGMSLのモデルからの残差は正の相関を示した。それらに線形の関係を仮定して推定された比例係数を用いてGMSLのデータにENSOの補正を行い、陸水の影響を取り除いた海面上昇の曲線を得る試みを行った。その結果ENSOに伴う海面変動をある程度取り除くことができたが、ENSO以外の気候変動の関与もあり、ENSOの指数のみを用いた陸水の補正は限定的なものであることがわかった。