日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学一般・GGOS

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(海上保安庁海洋情報部)、若杉 貴浩(国土交通省国土地理院)、座長:大坪 俊通(一橋大学)、阿部 聡(国土地理院)

16:00 〜 16:15

[SGD02-09] 測地データのクラスター解析による全地球のプレート分割

*岡崎 智久1高橋 温志1竹内 孝2岩田 具治2深畑 幸俊3 (1.京都大学大学院理学研究科、2.NTTコミュニケーション科学基礎研究所、3.京都大学防災研究所)

地球表面は10数枚の剛体的なプレートに分かれて互いに相対運動している。地震や火山活動はプレートの境界付近に集中して発生するため、プレート境界の分布を明らかにすることは基本的な重要性を持つ。宇宙測地技術の進展に伴い各地点の詳細な運動が明らかになると、より細かくプレートを分割する提案がされるようになってきた。しかし、プレートの分割数を増やせば観測データはよく説明されるようになるが、どの境界がより優位なのか、どこまでの分割が有意なのか、という問題は未解決である。プレート境界の階層構造を客観的に捉える必要がある。
近年、観測された多数のGNSS速度データにクラスター解析を適用することで、対象地域での運動ブロックを抽出する研究が行われている(Simpson et al., 2012)。本発表では、全世界で得られた速度データにクラスター解析を適用することで、地球規模でのプレート分割を試みる。
しかし、広域のデータを対象とすると、地球が球面であることから、Simpson et al. (2012)のように速度データを直接クラスター解析してもプレート分割を適切に行えない。球面上の剛体運動は地球の中心を通る軸回りの回転として表現できることが知られており、その回転ベクトル(角速度)をオイラー・ベクトルと呼ぶ。本発表では、各地点の速度データを角速度空間で表現することで、プレート運動のオイラー・ベクトルをクラスター解析する定式化を行う。まず各GNSS速度データは角速度空間で一意に定まらず、真のオイラー・ベクトルを通る一本の直線として表されることを示す。このとき、同一プレート内の観測データに対応する直線群は、そのプレートのオイラー・ベクトル付近の値で交差すると期待される。そこで、直線群の集積点をクラスタリングすることで、プレートの分割が可能となる。
直線群をクラスター解析する方法は確立されていないため、本発表では3種類の手法を比較し検討する。解析データには、GNSS等の測地観測によって得られた世界206地点の速度データ(Altamimi et al., 2012)を使用する。Altamimi et al. (2012)で用いられた地質学的知見に基づくプレート分類が、クラスター解析により再現されるか実験する。
まず、階層型クラスタリングの手法を直線データ用に修正する。具体的には、最も近い2直線を取り出し、通る点と方向ベクトルが両者の重心となるように結合する。このとき、取り出された直線が既に結合済みの場合には、その結合数に比例した重みをつける。この手法を上記の速度データに適用すると、クラスター数が少数のときは良い結果を示すが、6程度以上になると、地理的に離散した分割が得られる。これはGNSS速度データが角速度空間では一意に定まらないという不定性のために、本来異なる角速度をもつデータ同士が偶然クラスターを形成してしまうことに起因すると考えられる。少数の近接データに影響されない頑健なアルゴリズムが必要である。
次に、K-means法を直線データ用に修正する。クラスター数を定め、クラスター中心の初期値を角速度空間内の点にとる。各直線を点からの距離が最小となるクラスターに所属させ、クラスター中心の位置をそのクラスターに所属する直線への距離の自乗和が最小となる点に更新し、この操作をクラスターの再割り当てがなくなるまで繰り返す。この手法を上記の速度データに適用すると、クラスター数が少ないときに不整合な結果が得られる。これは同手法ではクラスターのサイズが均一化する傾向があるためと考えられる。一方、クラスター数が多いと比較的良い結果が得られる。ただし、K-means法は階層型ではないため、一部の観測点の所属クラスターが途中で変わってしまうという好ましくない事態も散見される。
最後に、直線群の集積点を反復推定するアルゴリズムを独自に考案し、推定された集積点データに対して従来の階層型クラスタリングを行う。この手法を上記の速度データに適用すると、クラスター数10までは3つの手法のうちで最良の、従来の知見に概ね整合的な結果が得られる。一方、クラスター数が10を超えると従来の知見に反する分割が見られる。これは、各プレート上の観測点が少なく、集積点の推定が適切に行えなかったためと考えられる。
要約すると、速度データを角速度空間で表現する方法を導くことで、各プレートのオイラー・ベクトルがプレート内の観測データに対応する直線群の集積点として表されることを示す。そこで直線群の集積点を推定する手法を提案し、クラスター解析を行うことで、大局的なプレート分類を客観的に再現する。より適切なプレートの階層的分類を行うためには、より高密度な観測点分布のデータを使用する必要があると考えられる。