日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学一般・GGOS

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(海上保安庁海洋情報部)、若杉 貴浩(国土交通省国土地理院)

[SGD02-P06] 固体地球潮汐に対する流体核共鳴の動的効果の理論の再検討

*原田 雄司1,2大久保 修平3 (1.澳門科技大学太空科学研究所月球与行星科学実験室、2.東京大学地震研究所物質科学系研究部門、3.東京大学地震研究所高エネルギー素粒子地球物理学研究センター)

キーワード:地球潮汐、地球回転、地球内部構造

固体地球の非剛体性が地球潮汐や地球回転に及ぼす効果は核やマントルの力学的挙動を理解する上で重要である.その一例として地球回転に対する流体核の影響が挙げられる.流体核は固体のマントルと独立な回転軸を持ち,しかも核マントル境界は完全な球面でなく遠心力で僅かに潰れた回転楕円体形状を示すから,それらに潮汐力が作用して両者の軸が互いに傾くと境界面に慣性トルクが発生する.この現象は地球回転の固有モード,延いては共鳴を引き起こす.更に流体核共鳴は固体地球の潮汐変形も増幅させる.

固体潮汐に対する流体核の影響は笹尾他の理論(以下SOS理論)に基づいて予測可能である.ここでSOSの特長の一つは流体核の影響を考慮する際の回転と変形の力学の効果的な分離である.より具体的には,回転運動自体は回転楕円体の流体核の運動も含む角運動量保存の方程式系に基づいて取り扱う一方,回転運動に対する固体潮汐の影響は球対称地球の変形の方程式系(例えば竹内や斎藤)に基づく.そして最後に両者を結合する.この分離を通じて流体核共鳴が潮汐変形に及ぼす効果を比較的簡易に見積もる事が出来る.その意味でSOSは大変有用であり汎用性(例えばマシューズ他)も高い.

ただ現状のSOSの当該論文の内容,特に潮汐変形を表現するラブ数の計算に関しては,他の研究者が理論を解して広く応用する上では幾つか潜在的な難点が存在するかも知れない.詳細は次に述べる通りである.

一点目は動径関数(以下y関数)の境界条件に関する事である.SOSの中で関数を数値積分する際の固液境界条件は詳細に説明されているが,それらの条件を満足する為の細かい計算方法までは必ずしも明記されていない.確かに流体核共鳴を含まない潮汐応答に対応する静的y関数に限って言えばSOSで引用されている竹内や斎藤の方法だけで算出可能である.SOSにおける静的y関数の境界条件は定義の僅かな差異を除けば実質的に竹内や斎藤の方法における境界条件と全く同じだからである。即ち竹内や斎藤の中で記載された地球中心で発散しない独立解だけ線形結合すれば境界条件を満たす事が出来る.それに対して流体核共鳴を含む動的y関数の境界条件を満足する上では,それらの独立解を用いるだけでは不充分である.よって彼等の方法は,そのままSOSに適用するのは不可能である.

二点目はy関数の定義に関する事である.SOSにおける変形に関する定式化で用いられているy関数の定義に若干の混乱を生じる可能性のある部分が含まれる.例えばSOSでは主にアルターマン他の定義に従っている一方,同じくSOSで引用されている竹内や斎藤においてはy関数の定義,特に重力ポテンシャルの勾配に関するy6の定義がアルターマン他と少し異なる.この内,竹内や斎藤の方法におけるy6の定義の方が表面の境界条件を単純化する上では幾分便利である.更にy関数自体は通常,外力に対する変形の影響のみ抽出する一種の応答関数である.一方でSOSにおいて定義されている動的y関数には回転速度の影響も含まれてしまっている.何れも単なる定義の話に過ぎないが,その差異が厳密に把握されていなければ誤解を招くかも知れない.

三点目は計算の前提条件に関する事である.SOSで各種の応答係数を算出する際に参照されたパラメタやモデル,特に万有引力定数や地球内部構造は,もう現時点において最新情報ではなくなっている.より高い精度の補正を可能とすべく,より現実に近いパラメタやモデルに基づいた動的ラブ数を求め直す事が望まれる.

上述の観点(取り分け一つ目の点)は何れも重要であろう.他の研究者が自らSOSを使う場合,例えば地球内部構造に対する動的ラブ数の感度を詳細に調査したい場合や火星の様な太陽系の他の固体天体の物理探査へ応用したい場合,等に必要となろう.

そこで今回の発表では上述の三点に関して考慮した事を報告する.一点目に関してはSOSの境界条件を満足する為に竹内や斎藤の方法を拡張して明示する.特に原点で発散する他の独立解も含めて全ての独立解を用いる方法を考える.二点目に関してはSOSが参照したアルターマン他のy6の定義の代わりに竹内や斎藤の定義を用いて境界条件を記載し直す.それからy関数の定義に関しても地球回転の影響が陽に含まれない形に修正し,その新たな定義に合わせて境界条件やラブ数の定義も修正する.三点目に関しては動的ラブ数を現実的な値に更新する為にパラメタとして万有引力定数の最新値を用いると同時に地球内部構造に関しても1066AやPREMの様な新しいモデルを用いる.この内,一つ目と二つ目に関してはSOS論文で記載されたのと同じ結果が再現可能である事を確認する.又,三点目に関してはパラメタやモデルに対する依存性を調査すると同時に他の先行研究の計算結果(例えばマシューズ他)と比較する.