15:00 〜 15:15
[SGL29-05] 2014年長野県神城断層地震によって引き起こされた新潟県十日町市室野泥火山における変動
キーワード:泥火山、2014年長野県神城断層地震、溶存ガス、体積歪み変化、新潟油ガス田、北部フォッサマグナ
2014年11月22日,午後10時08分に長野県白馬村を震源とするマグニチュード6.7の長野県神城断層地震が発生した.本研究では震源から78km離れた新潟県十日町市の室野泥火山において,神城断層地震の発生直前(地震当日午後3時)と直後(翌23日午前9時)に泥水試料を採取し,溶存ガスの濃度と炭素同位体比を測定した.
地震発生直後には室野泥火山の周辺でさまざまな変状が観察された.泥水試料を採取した噴出口にはメレンゲ状に泡立った泥水が浮き,別の噴出口では周囲に泥水が散乱していた.泥火山の周辺の路面の舗装や縁石には亀裂や段差,地割れが多数生じ,路面の一部ではアスファルトの舗装が大きく捲れ上がっていた.また,泥火山周辺では北北西–南南東方向と西北西–東南東方向に卓越する共役の小断層群が露出していた.
室野泥火山の泥水試料中の溶存ガスの測定の結果,地震発生直後のメタン(C1),二酸化炭素(CO2),エタン(C2),プロパン(C3)の溶存濃度がいずれも地震発生直前に比べて増加しており,溶存濃度の増加率は60~774%に及ぶ.室野泥火山の溶存メタンの炭素同位体比はおよそ34‰であり,C1/(C2+C3)比が100前後の値であることから,メタンは主に有機物の熱分解起源と判断される.地震発生の前後ではC1/(C2+C3)比は若干変化するが,メタンの起源はどちらも同じ熱分解起源が主体である.メタンとエタンの炭素同位体比は新潟油ガス田地域の天然ガスに比べて高い値を示すことから,室野泥火山の溶存ガスは新潟油ガス田地域の最深部の石油根源岩から供給されていると判断される.
CO2の炭素同位体比はおよそ36‰であり,プロパンの炭素同位体比はおよそ-10‰であった.これらCO2とプロパンの高い炭素同位体比は,泥火山の地下で炭化水素の二次的な微生物分解が進行していることを示す.一方,地震の前後でメタンの炭素同位体比が平均0.3‰,エタンの炭素同位体比が平均3.8‰減少していた.このことは,地震直後に地下から大量の炭化水素が供給され,微生物分解を十分に受けていない炭化水素が室野泥火山の噴出口に到達したことを示唆している.
室野泥火山における神城断層地震の理論歪(ひず)み値は687×10-8ストレインと求められる.この値は,先行研究で報告された地下水や泥火山に異常が発生する理論歪み値の下限よりも高い.また,室野泥火山が神城断層地震の圧縮応力場に位置していたことと共役の小断層群の存在は,室野泥火山周辺の地盤は地震によって圧縮されたことを示唆している.このことから,地震による圧縮歪みが泥火山のさまざまな変動――地表の変形や泥水の異常噴出,溶存ガスの挙動の変化――を引き起したと考えられる.
室野泥火山は地震に頻繁に遭遇しており,地震と泥火山の関係を研究する上で重要なフィールドである.今後は長期モニタリングなどを通して,溶存ガスの各データの変動幅,あるいは変動の時間スケールを示す必要がある.通常の泥火山の平均的な性質や傾向を把握したうえで,地震前後のデータを示すことができれば,地震と泥火山の関係についてより詳細な議論が可能になるだろう.
地震発生直後には室野泥火山の周辺でさまざまな変状が観察された.泥水試料を採取した噴出口にはメレンゲ状に泡立った泥水が浮き,別の噴出口では周囲に泥水が散乱していた.泥火山の周辺の路面の舗装や縁石には亀裂や段差,地割れが多数生じ,路面の一部ではアスファルトの舗装が大きく捲れ上がっていた.また,泥火山周辺では北北西–南南東方向と西北西–東南東方向に卓越する共役の小断層群が露出していた.
室野泥火山の泥水試料中の溶存ガスの測定の結果,地震発生直後のメタン(C1),二酸化炭素(CO2),エタン(C2),プロパン(C3)の溶存濃度がいずれも地震発生直前に比べて増加しており,溶存濃度の増加率は60~774%に及ぶ.室野泥火山の溶存メタンの炭素同位体比はおよそ34‰であり,C1/(C2+C3)比が100前後の値であることから,メタンは主に有機物の熱分解起源と判断される.地震発生の前後ではC1/(C2+C3)比は若干変化するが,メタンの起源はどちらも同じ熱分解起源が主体である.メタンとエタンの炭素同位体比は新潟油ガス田地域の天然ガスに比べて高い値を示すことから,室野泥火山の溶存ガスは新潟油ガス田地域の最深部の石油根源岩から供給されていると判断される.
CO2の炭素同位体比はおよそ36‰であり,プロパンの炭素同位体比はおよそ-10‰であった.これらCO2とプロパンの高い炭素同位体比は,泥火山の地下で炭化水素の二次的な微生物分解が進行していることを示す.一方,地震の前後でメタンの炭素同位体比が平均0.3‰,エタンの炭素同位体比が平均3.8‰減少していた.このことは,地震直後に地下から大量の炭化水素が供給され,微生物分解を十分に受けていない炭化水素が室野泥火山の噴出口に到達したことを示唆している.
室野泥火山における神城断層地震の理論歪(ひず)み値は687×10-8ストレインと求められる.この値は,先行研究で報告された地下水や泥火山に異常が発生する理論歪み値の下限よりも高い.また,室野泥火山が神城断層地震の圧縮応力場に位置していたことと共役の小断層群の存在は,室野泥火山周辺の地盤は地震によって圧縮されたことを示唆している.このことから,地震による圧縮歪みが泥火山のさまざまな変動――地表の変形や泥水の異常噴出,溶存ガスの挙動の変化――を引き起したと考えられる.
室野泥火山は地震に頻繁に遭遇しており,地震と泥火山の関係を研究する上で重要なフィールドである.今後は長期モニタリングなどを通して,溶存ガスの各データの変動幅,あるいは変動の時間スケールを示す必要がある.通常の泥火山の平均的な性質や傾向を把握したうえで,地震前後のデータを示すことができれば,地震と泥火山の関係についてより詳細な議論が可能になるだろう.