日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT19] Mineral-melt-fluid interaction and COHN volatile speciation in Earth and planetary

2018年5月20日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:Mysen Bjorn(Geophysical Laboratory, Carnegie Inst. Washington)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、土屋 旬(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

[SIT19-P02] 石英ガラスにおける水の高速拡散

*黒田 みなみ1橘 省吾2坂本 直哉1圦本 尚義1,3 (1.北海道大学、2.東京大学、3.JAXA)

キーワード:水の拡散、石英ガラス、二次イオン質量分析計、拡散メカニズム

ケイ酸塩ガラス中の水の拡散は,沈み込み帯のマグマ活動を特徴づける要因の一つであるが,その拡散メカニズムは十分に理解されていない.本研究では,ケイ酸塩ガラス中の水の拡散メカニズムを理解することを目的として重水を用いた拡散実験をおこなったところ,これまで先行研究に報告されている「ケイ酸塩ガラス中の水の拡散」よりも一桁ほど速い水の拡散を発見した.本発表では,新たに発見した速い水の拡散について報告するとともに,その拡散メカニズムを議論する.

拡散実験はSiO2ガラスと重水 (2H2O) を石英管に封入し,900-750℃,水蒸気圧50bar,加熱時間1-20時間の条件でおこなった.実験後は,北海道大学の二次イオン質量分析計 (SIMS:Cameca ims-6f) を用い,サンプル中の2Hの濃度プロファイルを測定した.2Hをトレーサーとして用いることで,純水 (1H2O) を用いた場合では吸着水等の分析バックグラウンドに隠れてしまう低濃度での水の動きを捉えることが可能となる.

得られた2Hの拡散プロファイルは,1Hで拡散実験をした場合と同様に,ガラス表面から内側に向かって拡散係数の強い含水量依存性を示した.一般に,水の拡散は含水量に依存した拡散係数を持つことが知られている.この含水量依存性は,ガラス中を水分子が拡散する際に通る通り道は,ガラス中の水酸基形成反応 (H2O + Si-O-Si = 2Si-OH) によりSi-O-Si結合の切れた箇所とする拡散モデルで説明することができる (Kuroda et al, 2018).さらに本研究のプロファイルでは,この強い含水量依存性を示すプロファイルの終端からよりガラス深部に向かって,低濃度の2Hが拡散している様子が確認された.この表面から最も深い部分の2H濃度プロファイルは,少量の2Hが先行研究で報告されている水の拡散よりも速い速度で拡散していることを示唆し,また,プロファイルの形状は拡散係数の含水量依存性が弱いかほとんどないことを示唆する.

本研究で見られた2Hの高速拡散プロファイルは拡散係数一定とする拡散方程式で解析可能であり,得られた拡散係数はKuroda et al. (2018) に報告されている水の拡散係数より10倍ほど大きかった.本研究で得られた長距離拡散の活性化エネルギーは,石英ガラス中の水素の拡散よりも大きく,水分子の拡散とほぼ同程度であった.このことから,長距離拡散の拡散種は水分子であり,石英ガラス中にはSi-OHが形成する拡散の通り道の他に,高速拡散できる別の通り道が存在していることが考えられる.

石英ガラス中の希ガスは,ガラス構造中の隙間である”自由体積”を通って拡散し,拡散の活性化エネルギーや拡散係数は拡散種の原子半径に依存することが知られている.水分子の半径を考慮した場合,本研究で得られた水の高速拡散係数は希ガスで見られるトレンドに一致することが分かった.したがって,高速拡散する水分子も希ガス同様に”自由体積”を通って拡散している可能性が高い.本実験条件で確認された”自由体積”を通って拡散する水分子量は,希ガスの溶解度から推定される”自由体積”濃度に対して少ないと推測され,より高い水蒸気圧条件では,”自由体積”を通って拡散する水分子の量が増加する可能性がある.この場合には,高水蒸気圧条件下での水の輸送過程に,本研究で発見した高速拡散路を通じた拡散が寄与することも考えられる.