[SIT22-P16] Dissolution of multi light elements in iron-silicate system using high pressure and high temperature experiments: Implications for the Earth's evolution
キーワード:水素、硫黄、高温高圧下その場観察、コアーマントル形成
1. はじめに
地球中心核には、Fe-Ni合金の他に複数の軽元素が含まれていると考えられている。有力候補の1つである水素は、X線で検出できないこと、脱圧時に鉄から抜けてしまうなどの実験上の制約から、その固溶量の直接的な定量化は困難とされていた。近年、パルス中性子源と大型6軸プレスを用いた高温高圧下での中性子回折測定により、鉄のfcc相への水素固溶量が決定された[1,2]。さらに、地球の始源物質を模擬した鉄–ケイ酸塩–水系の出発試料において、含水鉱物が脱水してできた水と鉄とが酸化還元反応を経て、4 GPa, 1000Kの固体状態の鉄でも有意な水素化が起きることが明らかになった[2]。この結果からは、原始地球形成の初期段階において、水素が他の軽元素に先駆けて鉄へ溶け込み鉄水素化物となった後に、他の軽元素も徐々に取り込まれ、重力分離を起こして沈降していく鉄と共にコアへ軽元素が運ばれたことが示唆される。地球の進化過程の解明に向けて、今後は純粋な鉄ではなく、鉄水素化物とケイ酸塩間における複数の軽元素の分配を調べることが重要である。そこで本研究では、FeとFeSの共晶点が1000°Cと比較的低く、固体の鉄にも僅かながらに溶けることが知られている硫黄に着目し、水素と硫黄の2元素を含んだ鉄–ケイ酸塩–水系の試料で高温高圧実験を行い、鉄の水素化反応に対する硫黄が及ぼす影響について調べた。
2. 実験方法
初期試料としてモル比1:1のSiO2とMg(OD)2(やMgO)に、FeやFeS(又はS)の割合を変えて加えた混合粉末を調製した。実験は東大物性研にある500トンプレスを用いて行った。加圧は6-6方式とし、これまでに筆者らが開発を進めてきたスチールジャケット付きのWC製アンビル(先端サイズ10 mm)を2段目アンビルに使用した。圧媒体には一辺15 mm角のCr-doped MgO焼結体を用い、ZrO2断熱材とグラファイトヒーター、パイロフィライト製のプレガスケットを組み合わせたセル構成とした。6 GPa, 1650°Cまで加圧昇温し、回収した試料の反応生成物をX線回折測定とSEM-EDS分析により同定した。また、つくばのPF-AR(NE7A, NE5C)にて、高温高圧下でのX線その場観察も行い、X線回折パターンから4-6 GPaの高圧下の昇温過程での生成物を同定した。
3. 結果と考察
回収実験では、1000°C以上の温度ではFe-FeS液体が観察され、950°Cの温度からクエンチした試料では固体FeSと液体が共存した。これらは、Fe-FeSの共融温度とほぼ一致していた。750°Cの温度からクエンチした試料では固体FeSとFeが共存し、Feには粒界に沿って多数の小孔、すなわち水素が発泡して抜けた痕跡が見られた。
その場観察実験では、500°C弱で鉄がbcc相からfcc相へと変化した。ほぼ同時にMg(OD)2の脱水とFeSの生成が確認された。その後、850°C付近でFe-fcc相は溶けて、クエンチした試料にはFeSとオリビンが残った。一方の水を含まない系では、600°C付近でFeがbcc相からfcc相へ相転移する前に、FeSの生成が確認された。Fe-fcc相は900°Cで溶け始め、1050°Cまであげて回収した試料にはFeSとFeCが混在していた。その場観察実験とクエンチ実験の結果は非常に良い一致を示した。
水を含んだ系でのFe-fccの体積は、同じ温度圧力での純鉄よりも数%膨張しており、明らかな水素化を示唆していた。発表では、高温高圧下でのFe-fccとFeSの水素量を詳しく議論し、鉄水素化物および硫化鉄の生成過程、硫黄の共存による水素量の変化を明らかにする予定である。
[1] A. Machida, H. Saitoh, H. Sugimoto, T. Hattori, A. Sano-Furukawa, N. Endo, Y. Katayama, R. Iizuka, T. Sato, M. Matsuo, S. Orimo, K. Aoki, Nature Commun. 5, 5063 (2014).
[2] R. Iizuka-Oku, T. Yagi, H. Gotou, T. Okuchi, T. Hattori, A. Sano-Furukawa, Nature Commun. 8, 14096 (2017).
地球中心核には、Fe-Ni合金の他に複数の軽元素が含まれていると考えられている。有力候補の1つである水素は、X線で検出できないこと、脱圧時に鉄から抜けてしまうなどの実験上の制約から、その固溶量の直接的な定量化は困難とされていた。近年、パルス中性子源と大型6軸プレスを用いた高温高圧下での中性子回折測定により、鉄のfcc相への水素固溶量が決定された[1,2]。さらに、地球の始源物質を模擬した鉄–ケイ酸塩–水系の出発試料において、含水鉱物が脱水してできた水と鉄とが酸化還元反応を経て、4 GPa, 1000Kの固体状態の鉄でも有意な水素化が起きることが明らかになった[2]。この結果からは、原始地球形成の初期段階において、水素が他の軽元素に先駆けて鉄へ溶け込み鉄水素化物となった後に、他の軽元素も徐々に取り込まれ、重力分離を起こして沈降していく鉄と共にコアへ軽元素が運ばれたことが示唆される。地球の進化過程の解明に向けて、今後は純粋な鉄ではなく、鉄水素化物とケイ酸塩間における複数の軽元素の分配を調べることが重要である。そこで本研究では、FeとFeSの共晶点が1000°Cと比較的低く、固体の鉄にも僅かながらに溶けることが知られている硫黄に着目し、水素と硫黄の2元素を含んだ鉄–ケイ酸塩–水系の試料で高温高圧実験を行い、鉄の水素化反応に対する硫黄が及ぼす影響について調べた。
2. 実験方法
初期試料としてモル比1:1のSiO2とMg(OD)2(やMgO)に、FeやFeS(又はS)の割合を変えて加えた混合粉末を調製した。実験は東大物性研にある500トンプレスを用いて行った。加圧は6-6方式とし、これまでに筆者らが開発を進めてきたスチールジャケット付きのWC製アンビル(先端サイズ10 mm)を2段目アンビルに使用した。圧媒体には一辺15 mm角のCr-doped MgO焼結体を用い、ZrO2断熱材とグラファイトヒーター、パイロフィライト製のプレガスケットを組み合わせたセル構成とした。6 GPa, 1650°Cまで加圧昇温し、回収した試料の反応生成物をX線回折測定とSEM-EDS分析により同定した。また、つくばのPF-AR(NE7A, NE5C)にて、高温高圧下でのX線その場観察も行い、X線回折パターンから4-6 GPaの高圧下の昇温過程での生成物を同定した。
3. 結果と考察
回収実験では、1000°C以上の温度ではFe-FeS液体が観察され、950°Cの温度からクエンチした試料では固体FeSと液体が共存した。これらは、Fe-FeSの共融温度とほぼ一致していた。750°Cの温度からクエンチした試料では固体FeSとFeが共存し、Feには粒界に沿って多数の小孔、すなわち水素が発泡して抜けた痕跡が見られた。
その場観察実験では、500°C弱で鉄がbcc相からfcc相へと変化した。ほぼ同時にMg(OD)2の脱水とFeSの生成が確認された。その後、850°C付近でFe-fcc相は溶けて、クエンチした試料にはFeSとオリビンが残った。一方の水を含まない系では、600°C付近でFeがbcc相からfcc相へ相転移する前に、FeSの生成が確認された。Fe-fcc相は900°Cで溶け始め、1050°Cまであげて回収した試料にはFeSとFeCが混在していた。その場観察実験とクエンチ実験の結果は非常に良い一致を示した。
水を含んだ系でのFe-fccの体積は、同じ温度圧力での純鉄よりも数%膨張しており、明らかな水素化を示唆していた。発表では、高温高圧下でのFe-fccとFeSの水素量を詳しく議論し、鉄水素化物および硫化鉄の生成過程、硫黄の共存による水素量の変化を明らかにする予定である。
[1] A. Machida, H. Saitoh, H. Sugimoto, T. Hattori, A. Sano-Furukawa, N. Endo, Y. Katayama, R. Iizuka, T. Sato, M. Matsuo, S. Orimo, K. Aoki, Nature Commun. 5, 5063 (2014).
[2] R. Iizuka-Oku, T. Yagi, H. Gotou, T. Okuchi, T. Hattori, A. Sano-Furukawa, Nature Commun. 8, 14096 (2017).