09:15 〜 09:30
[SMP37-01] 水の貯蔵庫としてのローソン石青色片岩:北海道幌加内地域の神居古潭変成岩の例
キーワード:ローソン石、青色片岩、水の貯蔵庫、幌加内、神居古潭変成岩
沈み込み帯における深部流体は、スラブ内地震活動や島弧型火成作用など沈み込み帯の諸現象の引き金とされ、地球科学の諸分野から注目されている。過去や現在の沈み込み帯で形成される低温高圧型変成岩は含水鉱物として多量の水を含んでおり、深部流体活動を理解する手がかりとなる。たとえば、沈み込み帯における水の貯蔵庫であるローソン石青色片岩は緑簾石青色片岩やエクロジャイトへと転移する際、周囲に多量の水を供給するとされる(Hacker et al., 2003;Yoshida et al., 2015; Sato et al., 2016)。
北海道幌加内地域に産する神居古潭変成岩類は、ローソン石が分解し緑簾石青色片岩が形成される累進変成作用を経験したとされている(Shibakusa, 1989; Sakakibara and Ota, 1994)ので、ローソン石の脱水分解に伴う大規模な流体活動が起こったことが想定される。この流体活動の性質を解明するためにMinagawa(2012 MS)やKataoka(2015 MS)は当該地域において地質調査及び岩石記載を行ったが、Shibakusa (1989) のII帯(ローソン石-緑簾石帯)やIII帯(緑簾石帯)においてローソン石が分解し緑簾石となるような組織は見出せないという結果を得た。そのため、本研究ではShibakusa (1989) の変成分帯を再検討することに焦点を当て、変成鉱物の形成史を詳細に読み解いた。
組織観察から調査地域全域においてローソン石の分解組織は認められなかった一方、ローソン石斑状変晶が片理を形成する緑簾石やアルカリ角閃石と同じ応力下で形成されたことを示す組織が観察された。さらに、ローソン石を含む岩石と含まない岩石についてアルカリ角閃石と緑泥石のXFe {=Fe/(Fe+Mg)} を比較したところ、ローソン石を含まない岩石ではその直近に産するローソン石を含む岩石と比較して有意に鉄に富む傾向が認められた。そのため、青色片岩中のローソン石の出現が原岩のXFeによって支配される可能性が示唆される。
当該地域の変成塩基性岩のうち、高変成度地域(Shibakusa, 1989のIIおよびIII帯に相当)からは以下の鉱物組み合わせが確認された:(1)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石、(2)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石+アルカリ輝石、(3)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石+アルカリ輝石+赤鉄鉱、(4)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石+パンペリー石、(5)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+アルカリ輝石、(6)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+パンペリー石+アクチノ閃石。
ローソン石を含む鉱物組み合わせと含まない鉱物組み合わせは、其々Shibakusa (1989) のII帯およびIII帯の代表的な鉱物組み合わせとおおよそ一致するが、それらは非常に近接した露頭に産する。
上記の鉱物組み合わせをシュライネマーカースの束の方法を用いてNaCaMgFe3+AlSiH系で解析したところ、組み合わせ(2)、(3)、(4)、(6)はそれぞれ以下の反応関係に相当することが解った:(F1)アルカリ角閃石+ローソン石+アルカリ輝石=緑簾石+緑泥石+H2O、(F2)ローソン石+アルカリ輝石=緑簾石+緑泥石+赤鉄鉱+H2O、(F3)アルカリ角閃石+ローソン石=パンペリー石+緑簾石+緑泥石+水、(F4)アルカリ角閃石+パンペリー石=緑簾石+アクチノ閃石+緑泥石+H2O。
これらの反応はそれぞれ非常に近い温度圧力条件で起こり、鉱物組み合わせ(1)および(5)もこれらの反応の近傍で安定である。また、この温度圧力条件はローソン石青色片岩亜相、パンペリー石青色片岩亜相および緑簾石青色片岩亜相の漸移領域に相当する。
Shibakusa (1989) のzone I(ローソン石帯、緑簾石を含まない)で確認された鉱物組み合わせは以下に示す反応の高圧側もしくは低圧側で安定である:(F5)アルカリ角閃石+ローソン石=パンペリー石+アルカリ輝石+緑泥石+H2O。反応式F5はF3と不変点を共有し、その低温低圧側に現れる反応である。F5の高圧側を示すアルカリ角閃石+ローソン石の組合せはzone Iの構造的上部、すなわち緑簾石を含む岩石の近傍に産する。以上のことから、当該地域の神居古潭変成岩類は白亜紀の冷たい沈み込み帯における水の貯蔵庫として働いていたことが分かった。
北海道幌加内地域に産する神居古潭変成岩類は、ローソン石が分解し緑簾石青色片岩が形成される累進変成作用を経験したとされている(Shibakusa, 1989; Sakakibara and Ota, 1994)ので、ローソン石の脱水分解に伴う大規模な流体活動が起こったことが想定される。この流体活動の性質を解明するためにMinagawa(2012 MS)やKataoka(2015 MS)は当該地域において地質調査及び岩石記載を行ったが、Shibakusa (1989) のII帯(ローソン石-緑簾石帯)やIII帯(緑簾石帯)においてローソン石が分解し緑簾石となるような組織は見出せないという結果を得た。そのため、本研究ではShibakusa (1989) の変成分帯を再検討することに焦点を当て、変成鉱物の形成史を詳細に読み解いた。
組織観察から調査地域全域においてローソン石の分解組織は認められなかった一方、ローソン石斑状変晶が片理を形成する緑簾石やアルカリ角閃石と同じ応力下で形成されたことを示す組織が観察された。さらに、ローソン石を含む岩石と含まない岩石についてアルカリ角閃石と緑泥石のXFe {=Fe/(Fe+Mg)} を比較したところ、ローソン石を含まない岩石ではその直近に産するローソン石を含む岩石と比較して有意に鉄に富む傾向が認められた。そのため、青色片岩中のローソン石の出現が原岩のXFeによって支配される可能性が示唆される。
当該地域の変成塩基性岩のうち、高変成度地域(Shibakusa, 1989のIIおよびIII帯に相当)からは以下の鉱物組み合わせが確認された:(1)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石、(2)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石+アルカリ輝石、(3)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石+アルカリ輝石+赤鉄鉱、(4)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+ローソン石+パンペリー石、(5)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+アルカリ輝石、(6)緑簾石+アルカリ角閃石+緑泥石+パンペリー石+アクチノ閃石。
ローソン石を含む鉱物組み合わせと含まない鉱物組み合わせは、其々Shibakusa (1989) のII帯およびIII帯の代表的な鉱物組み合わせとおおよそ一致するが、それらは非常に近接した露頭に産する。
上記の鉱物組み合わせをシュライネマーカースの束の方法を用いてNaCaMgFe3+AlSiH系で解析したところ、組み合わせ(2)、(3)、(4)、(6)はそれぞれ以下の反応関係に相当することが解った:(F1)アルカリ角閃石+ローソン石+アルカリ輝石=緑簾石+緑泥石+H2O、(F2)ローソン石+アルカリ輝石=緑簾石+緑泥石+赤鉄鉱+H2O、(F3)アルカリ角閃石+ローソン石=パンペリー石+緑簾石+緑泥石+水、(F4)アルカリ角閃石+パンペリー石=緑簾石+アクチノ閃石+緑泥石+H2O。
これらの反応はそれぞれ非常に近い温度圧力条件で起こり、鉱物組み合わせ(1)および(5)もこれらの反応の近傍で安定である。また、この温度圧力条件はローソン石青色片岩亜相、パンペリー石青色片岩亜相および緑簾石青色片岩亜相の漸移領域に相当する。
Shibakusa (1989) のzone I(ローソン石帯、緑簾石を含まない)で確認された鉱物組み合わせは以下に示す反応の高圧側もしくは低圧側で安定である:(F5)アルカリ角閃石+ローソン石=パンペリー石+アルカリ輝石+緑泥石+H2O。反応式F5はF3と不変点を共有し、その低温低圧側に現れる反応である。F5の高圧側を示すアルカリ角閃石+ローソン石の組合せはzone Iの構造的上部、すなわち緑簾石を含む岩石の近傍に産する。以上のことから、当該地域の神居古潭変成岩類は白亜紀の冷たい沈み込み帯における水の貯蔵庫として働いていたことが分かった。