日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP38] 鉱物の物理化学

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)、座長:大藤 弘明

10:45 〜 11:00

[SMP38-07] MgSiO3 メジャライトの低温熱容量測定

*糀谷 浩1野田 昌道2井上 徹2,3赤荻 正樹1 (1.学習院大学、2.愛媛大学 GRC、3.広島大学)

キーワード:メジャライト、熱容量、エントロピー、熱緩和法

ガーネットは、地球のマントルを構成する主要な鉱物の一つと考えられている。高圧高温実験から、圧力の上昇に伴って、ガーネット相に輝石成分が次第に固溶してくことが知られている。Alを含まないガーネットであるMgSiO3メジャライト (Mj) は、そのような輝石成分を固溶した珪酸塩ガーネット固溶体の重要な端成分である。MgSiO3 Mjを熱力学的に扱うために必要となるエントロピーに関しては、実測に基づく値がまだ決定されていなかった。そこで、本研究では、高圧合成されたMgSiO3 Mjについて、熱緩和法を用いた低温熱容量測定を行い、得られた定圧熱容量(Cp)から標準状態での格子振動寄与によるエントロピー値を決定した。

熱量測定用のMgSiO3 Mjは、愛媛大学GRC設置の高圧プレス装置を用いて、出発物質のMgSiO3ガラスを19 GPa, 2173 Kで1時間保持することで高圧合成した。合成された多結晶体試料は、低温部においてMgSiO3アキモトアイトが共存していたため除去し、微小部X線回折測定および顕微ラマン分光測定によりMgSiO3 Mjのみであることを確認した。低温熱容量は、カンタムデザイン社製Physical Property Measurement System (PPMS) 装置を用いて、2-306 Kの温度範囲において2 Kの間隔で測定された。測定に用いられた試料の重量は14.415 mgであった。

本研究で測定されたCpを、150 K以上の温度においてDSC法により測定されたYusa et al. (1993)の報告値と比較すると、300 K付近においては誤差範囲内で一致するが、低温側になるほどそれらの差は大きくなり、150-200 Kの範囲では本研究の方が5%程度大きい値を示す。標準状態での格子振動寄与によるエントロピーは、S = ∫ (Cp/T) dTの式を用いて、0 Kから298.15 Kまで積分することにより、S°298.15,vib = 65.35(2) J/mol.K と決定された。さらに、配置のエントロピーは、八面体サイトにおけるMgとSiの無秩序の程度を15%と仮定するとSconf = 1.76 J/mol.Kと計算される。よって、MgSiO3 Mjの標準エントロピーS°298.15 は S°298.15,vib と Sconf の和から 67.11 J/mol.Kと求められた。本研究によりMgSiO3 Mjの標準エントロピーは、従来予想されてきた値(例えばFabrichnaya et al. (2004)による60.3 J/mol.K)よりも大きいことが分かった。