日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-RD 資源・鉱床・資源探査

[S-RD33] 資源地質学

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 A11 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、荒岡 大輔(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、高橋 亮平(秋田大学大学院国際資源学研究科、共同)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、座長:大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院)、高橋 亮平(秋田大学国際資源学部)

09:00 〜 09:30

[SRD33-01] 熱水鉱床における銅鉱化作用の要因

★招待講演

*渡辺 寧1Sulaksono Adi1佐藤 颯哉2左部 翔太1 (1.秋田大学国際資源学研究科、2.JX金属探開株式会社)

キーワード:銅鉱化作用、熱水鉱床、ポタッシック変質

銅の主要な供給源である熱水鉱床(特に斑岩銅鉱床)での銅の濃集や沈殿に関する挙動は古くからの研究テーマであるが,最近のLA-ICPMSを使った流体包有物中の金属元素の定量や,ジルコン中の希土類元素量に基づくマグマの酸化還元状態の定量化の試みにより,マグマー熱水系での銅の濃集・沈殿メカニズムがより明確になろうとしている.

 マグマから離溶する熱水に銅が濃集するためには,マグマから直接硫化物が沈殿しない酸化的条件が求められる.このような酸化的なマグマは硫酸塩を含む海洋地殻が沈み込む沈み込み帯で形成される.還元的な物質(堆積岩などの地殻物質)を溶かし込むことなく分別結晶作用が進むと,最終的にマグマからSO2及び銅に富んだ熱水が離溶する.

 熱水から銅が硫化物として沈殿するには1) 温度の低下,2) 塩濃度の低下,3) pHの上昇, 4) H2Sの上昇の4つのメカニズムが想定される.斑岩銅鉱床ではこれまで熱水の温度低下,白雲母変質帯でのpHの上昇,<400˚CでのSO2の自己酸化還元反応によるH2Sの増加が銅の沈殿の主要なメカニズムと考えられてきた.本研究ではグラスベルグ(インドネシア)およびエルサルバドル(チリ)の斑岩銅鉱床と荒川銅鉱脈鉱床(秋田)の研究からこれまでと異なる銅の沈殿メカニズムがあることを見出した.

グラスベルグ鉱床では,マグマ起源の硬石膏が顕著に含まれており,もともとのマグマが酸化していた(fO2>FMQ+2)を示している.高温の熱水と母岩との反応により,磁鉄鉱→硬石膏+硫化物の順で熱水鉱物が形成しており,造岩鉱物中の鉄の酸化がSO42-のH2Sへの還元と銅鉱化作用を促進したことを示す.エルサルバドル鉱床ではCaを含む造岩鉱物(斜長石,普通角閃石,チタン石)が熱水と反応することにより硬石膏と硫化物を形成しており,熱水中に含まれていたガス成分のSO2がこれらの鉱物と反応することにより自己酸化還元反応を起こし,硬石膏と銅硫化物の沈殿をもたらしている.これらの反応は400˚C-650˚Cの高温で生じており,斑岩銅鉱床ではカリ長石や黒雲母・磁鉄鉱を形成するポタッシック変質が銅鉱化作用に重要な役割を果たしている.一方,荒川鉱床では流体包有物の研究から,比較的高塩濃度・高温(>300˚C)の熱水が低温・低塩濃度の熱水と混合することにより銅鉱化作用が生じている.

このように斑岩銅鉱床と浅熱水性鉱床では銅の沈殿メカニズムが異なっており,その違いをもたらした要因は鉱化熱水が静岩圧下にあったのか,静水圧下にあったのかの違いを反映していると推定される.