日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-RD 資源・鉱床・資源探査

[S-RD33] 資源地質学

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 A11 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、荒岡 大輔(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、高橋 亮平(秋田大学大学院国際資源学研究科、共同)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、座長:荒岡 大輔大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院)

15:00 〜 15:15

[SRD33-10] インドネシア、Sulawesi島のNiラテライト鉱床におけるFe同位体分別に伴うNi濃集

*伊藤 茜1大竹 翼1Maulana Adi3実松 健造2Sufriadin -3佐藤 努1 (1.北海道大学大学院工学院、2.産業技術総合研究所、3.Department of Geological Engineering, Hasanuddin University)

キーワード:超苦鉄質岩石、風化、ニッケルラテライト、鉄同位体、レアメタル

鉄やマグネシウムに富む超苦鉄質岩であるかんらん岩,蛇紋岩が地表で化学風化を受けると,その残留物中にNiが濃集したNiラテライト鉱床が生成する。これらの鉱床は近年重要なNiやCo,Sc資源として注目されており,インドネシア,フィリピンなどの東南アジア諸国で開発が進んでいる。しかしながら,これらの国における先行研究は少なく,Niラテライト鉱床を形成する超苦鉄質岩の風化やそれに伴う元素移動については明らかになっていない。そこで本研究では,インドネシア,Sulawesi島のNi ラテライト鉱床において,風化断面の詳細な化学分析および鉄同位体比測定から,超苦鉄質岩の風化の進展と元素移動・濃集プロセスについて明らかにすることを目的とした。インドネシア,Sulawesi島Soroako鉱山のWatulabu Hill,Konde Hill,Petea Hill,Pomalaa鉱山のWillson Hillの計4サイトから風化度の異なる岩石及び風化物試料を採取した。粉末試料をXRF,高圧分解容器と混酸を用いて全溶解した試料をICP-MSに供し,主要元素濃度,微量元素濃度を求めた。また,陰イオン交換カラムを用いて鉄を精製し,MC-ICP-MSにより鉄安定同位体比(δ56Fe値(‰)=1000*[(56Fe/54Fe)sample/(56Fe/54Fe)IRMM-014-1])を求めた。
全てのHillにおいて,母岩中の主成分であるMgO,SiO2は表層に向かって著しく枯渇する一方で,Fe2O3は表層に向かって増加する傾向を示した。NiOはかんらん岩を母岩とするWatulabu Hill,Konde Hillでは,リモナイト層中で最も高く(<3.10%),蛇紋岩化かんらん岩を母岩とするPetea Hill,Willson Hillでは,サプロライト層中で最も高い値を示し (<4.29%),風化によって母岩 (~0.4%) より十数倍程度濃集している。また,最も移動性の低い元素であるTiで規格化した元素移動度の計算から,全てのHillにおいてMgO,SiO2は風化によって岩石から除去されるのに対し,Feはリモナイト層に,Niはリモナイト層もしくはサプロライト層に大きく付加されていることが分かった。4サイト中ではPetea HillがFe,Ni共に最も付加が大きく,これらの元素移動度は他のサイトの2-3倍であり,より化学風化が進展していると考えられる。さらに鉄同位体比を測定したところ,Petea Hillの風化物試料は母岩 (δ56Fe = -0.02‰) と比較してリモナイト層では56Feに乏しく (δ56Fe = -0.07‰),サプロライト層では56Feに富む (δ56Fe = +0.03‰) 傾向が見られた。これは,化学風化が卓越しており,FeやNiが下部へ移動・付加が進んだ風化層では,δ56Fe値が軽くなることを示唆している。これらの結果から,鉄同位体比分析は超苦鉄質岩石の風化における元素移動のプロセスを理解するのに有効であると考えられる。