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[SSS08-10] 熊本地震地表地震断層の完新世活動履歴 −南阿蘇村黒川地区トレンチ調査−
キーワード:活断層、熊本地震、阿蘇カルデラ
平成28年4月16日に発生した熊本地震(M7.3)では,甲佐町・御船町・益城町・西原村・南阿蘇村にかけて,北東に延びる長さ約30kmの地表地震断層が現れた(Shirahama et al., EPS, 2016; 熊原ほか,連合大会要旨,2016).地表地震断層は主として日奈久断層帯北端と布田川断層帯布田川区間に沿って出現したが,北東端は阿蘇外輪山を横切りカルデラ内に約3kmも延伸した.本発表では,このカルデラ内の地震断層について,活断層である地質学的証拠と活動史解明のために実施したトレンチ調査結果について報告する.
調査地点は,南阿蘇村黒川地区旧長陽西部小学校脇の水田に位置する.この水田内では,地震断層は左ステップ雁行しながら複数出現した.このうち,今回は南側の断層トレースを横切るトレンチを掘削した.掘削地点の右横ずれ変位量は最大50-60 cmで,上下変位量は10 cm程度であった.トレンチの大きさは長さ20m,幅7m,最大深度6mで,安全を確保するために途中2段の犬走りを設けた.調査期間は,2017年10月~12月である.
トレンチ壁面には,主として,耕作土,有機質シルト,古土壌,降下テフラ,火山砂,塊状ローム,クロボク土が露出し,これらを複数の断層が広範にわたって変位・変形させている状況が現れた.層相や層厚変化などから,これらの地層を上位からA層,B層,C層,D層,E層の5つに大きく区分した.A層は,極細粒~細粒砂,有機質シルト,火山砂からなり,すべて連続性が良く層厚変化が少ない.これらの地層を変位させる断層群は主として2個所にみられ,熊本地震の地震断層位置と対応する.B層~D層は主としてトレンチ中央部で厚くなる塊状ロームで,一部に有機質シルトや砕屑性木炭を濃集する部分を特徴的に含む.幅15m以上にわたって多数の小断層群によって変位を受けている.B層~D層群にみられる小断層群は主として2016年地震時の断層帯直下に集中するが,トレンチ中央部にも多数認められる.ただし,上位や下位への連続性が悪く,変位時期が明確に限定できるものは少ない. E層の最上部には層厚15cm程の鬼界アカホヤ火山灰層(K-Ah)がみられる.K-Ahは断片的にパッチ状に分布するのが特徴で,断層による切断に加えて生物擾乱の影響が考えられる.K-Ahの下位には塊状のクロボク土が分布する.K-Ahとクロボクはトレンチ両端から中央部に向かって深くなり,トレンチ内での高低差は約2mにもおよぶ.
トレンチ壁面の観察から,K-Ah降灰以降に熊本地震を含めて4回の断層活動を解釈した.また,14C年代測定を実施し,イベント発生年代を同時に推定した.
Event I(熊本地震):最上位のA層に分布する小断層群は熊本地震の地表地震断層位置とほぼ対応する.
Event II(熊本地震に先行する活動): B層群の下部はトレンチ中央部で厚く,C層群最上部の有機質部が北に傾いている.このことから,B層群堆積中に熊本地震に先行する活動が生じたと解釈した.なお,C層中には阿蘇中央火口丘第一軽石(ACP1, 宮縁ほか,火山,2003)が散在する部分があり,本イベントは明らかに4千年前よりも新しい.14C年代測定の結果,イベント年代は1,900 cal.yBP~2,132 cal.yBPに制約された.
Event III:D層群最上部の有機質部が北に傾いており,C層群最上部の有機質部よりも見かけの傾斜は急である.また,その上位のC層群はトレンチ中央部で厚い.このことから,C層群,D層群境界をイベント層準と解釈した.イベント年代は,1,977 cal.yBP~4,237 cal.yBPに制約される.
Event IV:K-Ahを切断する断層の多くがD層下部を上端とする.また,D層はK-Ah最深部付近で最も厚い.このことから,ほぼD層とE層境界部分をイベント層準と解釈した.イベント年代は,4,090 cal.yBP~7,300 cal.yBPに制約される.
上述のように,K-Ah層準の累積上下変位は2m程度におよぶことから,上下変位が10 cm程度であった2016年熊本地震とは異なり,過去の断層運動は上下変位を主体とする動きで,わずか3回の動きによって局所的に顕著な小地溝が形成された可能性がある. K-Ahの降灰年代は7,300年前であることから,過去4回の平均活動間隔は最長で約2400年となる.これは阿蘇カルデラ外の布田川断層の推定活動間隔ともそれほど矛盾しない.このことから,過去の活動時にも布田川断層の動きは阿蘇カルデラ内にまで伸張していた可能性がある.
調査地点は,南阿蘇村黒川地区旧長陽西部小学校脇の水田に位置する.この水田内では,地震断層は左ステップ雁行しながら複数出現した.このうち,今回は南側の断層トレースを横切るトレンチを掘削した.掘削地点の右横ずれ変位量は最大50-60 cmで,上下変位量は10 cm程度であった.トレンチの大きさは長さ20m,幅7m,最大深度6mで,安全を確保するために途中2段の犬走りを設けた.調査期間は,2017年10月~12月である.
トレンチ壁面には,主として,耕作土,有機質シルト,古土壌,降下テフラ,火山砂,塊状ローム,クロボク土が露出し,これらを複数の断層が広範にわたって変位・変形させている状況が現れた.層相や層厚変化などから,これらの地層を上位からA層,B層,C層,D層,E層の5つに大きく区分した.A層は,極細粒~細粒砂,有機質シルト,火山砂からなり,すべて連続性が良く層厚変化が少ない.これらの地層を変位させる断層群は主として2個所にみられ,熊本地震の地震断層位置と対応する.B層~D層は主としてトレンチ中央部で厚くなる塊状ロームで,一部に有機質シルトや砕屑性木炭を濃集する部分を特徴的に含む.幅15m以上にわたって多数の小断層群によって変位を受けている.B層~D層群にみられる小断層群は主として2016年地震時の断層帯直下に集中するが,トレンチ中央部にも多数認められる.ただし,上位や下位への連続性が悪く,変位時期が明確に限定できるものは少ない. E層の最上部には層厚15cm程の鬼界アカホヤ火山灰層(K-Ah)がみられる.K-Ahは断片的にパッチ状に分布するのが特徴で,断層による切断に加えて生物擾乱の影響が考えられる.K-Ahの下位には塊状のクロボク土が分布する.K-Ahとクロボクはトレンチ両端から中央部に向かって深くなり,トレンチ内での高低差は約2mにもおよぶ.
トレンチ壁面の観察から,K-Ah降灰以降に熊本地震を含めて4回の断層活動を解釈した.また,14C年代測定を実施し,イベント発生年代を同時に推定した.
Event I(熊本地震):最上位のA層に分布する小断層群は熊本地震の地表地震断層位置とほぼ対応する.
Event II(熊本地震に先行する活動): B層群の下部はトレンチ中央部で厚く,C層群最上部の有機質部が北に傾いている.このことから,B層群堆積中に熊本地震に先行する活動が生じたと解釈した.なお,C層中には阿蘇中央火口丘第一軽石(ACP1, 宮縁ほか,火山,2003)が散在する部分があり,本イベントは明らかに4千年前よりも新しい.14C年代測定の結果,イベント年代は1,900 cal.yBP~2,132 cal.yBPに制約された.
Event III:D層群最上部の有機質部が北に傾いており,C層群最上部の有機質部よりも見かけの傾斜は急である.また,その上位のC層群はトレンチ中央部で厚い.このことから,C層群,D層群境界をイベント層準と解釈した.イベント年代は,1,977 cal.yBP~4,237 cal.yBPに制約される.
Event IV:K-Ahを切断する断層の多くがD層下部を上端とする.また,D層はK-Ah最深部付近で最も厚い.このことから,ほぼD層とE層境界部分をイベント層準と解釈した.イベント年代は,4,090 cal.yBP~7,300 cal.yBPに制約される.
上述のように,K-Ah層準の累積上下変位は2m程度におよぶことから,上下変位が10 cm程度であった2016年熊本地震とは異なり,過去の断層運動は上下変位を主体とする動きで,わずか3回の動きによって局所的に顕著な小地溝が形成された可能性がある. K-Ahの降灰年代は7,300年前であることから,過去4回の平均活動間隔は最長で約2400年となる.これは阿蘇カルデラ外の布田川断層の推定活動間隔ともそれほど矛盾しない.このことから,過去の活動時にも布田川断層の動きは阿蘇カルデラ内にまで伸張していた可能性がある.