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[SSS08-14] 紀伊半島南部沿岸における地殻変動
キーワード:海成段丘、撓曲、逆向き低断層崖、隆起生物遺骸群集、海底活断層
1.はじめに
南海トラフに面する沿岸域では、古くから海成段丘と地震性隆起との関係が検討されてきた(吉川ほか、1964;米倉、1968)。隆起生物遺骸群集の詳しい検討結によって、海成段丘を形成するような隆起運動は、100~200年間隔で発生する地震にともなうものではないことが示されるようになった(前杢・坪野、1990;前杢、2001;宍倉ほか、2008)。これらの研究によれば、室戸半島では1,000~2,000年に1回の割合で発生する「異常な隆起」が、紀伊半島南部では400~600年に1回発生する「異常な隆起」が段丘形成に係るとされている。「異常な隆起」は、室戸半島では近傍のプレート内の断層運動によってもたらされていると考えられている(杉山、1992)が、紀伊半島南部ではプレート境界における連動型地震にともなって発生したと推定されている(宍倉ほか、2008)。
発表者は、紀伊半島南部の隆起は、南海トラフ沿いの海底活断層の活動ではなく、より沿岸域に分布する遠州灘撓曲の延長部によってもたらされている可能性があると考え、紀伊半島南部沿岸地域において研究を進めてきた。以下、現段階までに得られた知見のいくつかを報告する。本研究では、平成25~28年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)を使用した。
2 紀伊半島南岸における変動地形
測深データから作成した3秒グリッドDEMを用いた研究(海底の立体視)が進み(中田ほか、2009a、b、渡辺ほか、2010)、鈴木(2004)が指摘した遠州灘撓曲の紀伊半島への連続性が検討されてきた。その結果、紀伊半島南部の沖合約15km、南海トラフよりはるかに沿岸寄りに、活動性の高い海底活断層が存在することが明らかになってきた。
調査地域に分布する海成段丘面のうち、最も連続性が良く広範に分布するものを、MIS 5eに形成された海成段丘面(M1面)とした。断片的ではあるが、M1面より高い位置に、少なくとも2つの高位面群(H1面・H2面)が分布するほか、新宮~木本付近などには、M1面より下位にM2面が分布している。これらの海成段丘面の旧汀線アングル高度(以下、旧汀線高度)を、精度0.01 m程度のレーザー計測装置によって計測した。
H1面の旧汀線高度は、勝浦付近では約150m、白浜付近では約100mである。H2面の旧汀線高度は、後述のM1面のそれとほぼ同様に変化しており、勝浦~新宮では110m以上、串本周辺では80m、御坊周辺では50mである。M1面の旧汀線高度は、勝浦~新宮付近で最も高く(約60m)、潮岬付近では約50m、北西方の御坊や北東方の木本では約20mである。また、白浜や潮岬付近では、海岸部より内陸部の方が旧汀線高度は高い。M2面の旧汀線高度は、新宮付近では40m、北東の木下付近では20m以下である。
串本町田並のM1面(55~58m)には、比高3~5mの逆向き低断層が形成されており、北側(内陸側)が低くなっている。海岸の露頭では、新第三系(中新統熊野層群の砂岩・泥岩)を変位させる逆断層が確認できる。同様の変動地形は、新宮~木本の海成段丘面にも見られ、北西側(内陸側)が数m程度低くなっている。
3 考察
海成段丘面の旧汀線高度は、遠州灘撓曲の西への延長部が陸上に最も近づく、新宮~串本付近で最も高い。1946年昭和南海地震時の上下変動量は、潮岬付近で大きく新宮に向かって小さくなっており、海成段丘面高度とは一致していない。また、白浜や潮岬付近では海側へ撓み下がるような変形が確認できる。さらに、M1面などに見られる逆向き低断層崖は、沿岸域を隆起させる主断層が海岸線に近い位置に存在することを暗示している。紀伊半島南岸における隆起生物遺骸群集の検討(宍倉ほか、2008)によれば、最近(13~15世紀以降)のものを除くと、それらの分布高度は上記の旧汀線高度の分布と調和的であるように見える。これらのことから、紀伊半島南岸における「異常な隆起」は、遠州灘撓曲(の延長部)の活動によるものであると考えるのが合理的であろう。
今後、13~15世紀以降の生物遺骸群集の高度分布を含めて詳細に検討し、調査地域の第四紀後期における地殻変動の特徴とそのメカニズムについて明らかにしてゆく予定である。
【文献】 前杢・坪野,1990,地学雑誌,99.前杢,2001,地学雑誌,110.中田ほか,2009a,日本地球惑星科学連合大会予稿集.中田ほか,2009b,地震学会講演要旨.宍倉ほか,2008,活断層・古地震研究報告,8.杉山,1992,地質学論集,40.鈴木康弘,2004,月間地球,26.米倉,1968,地学雑誌,77.吉川ほか,1964,地理学評論,37.渡辺ほか,2010,地震学会講演要旨
南海トラフに面する沿岸域では、古くから海成段丘と地震性隆起との関係が検討されてきた(吉川ほか、1964;米倉、1968)。隆起生物遺骸群集の詳しい検討結によって、海成段丘を形成するような隆起運動は、100~200年間隔で発生する地震にともなうものではないことが示されるようになった(前杢・坪野、1990;前杢、2001;宍倉ほか、2008)。これらの研究によれば、室戸半島では1,000~2,000年に1回の割合で発生する「異常な隆起」が、紀伊半島南部では400~600年に1回発生する「異常な隆起」が段丘形成に係るとされている。「異常な隆起」は、室戸半島では近傍のプレート内の断層運動によってもたらされていると考えられている(杉山、1992)が、紀伊半島南部ではプレート境界における連動型地震にともなって発生したと推定されている(宍倉ほか、2008)。
発表者は、紀伊半島南部の隆起は、南海トラフ沿いの海底活断層の活動ではなく、より沿岸域に分布する遠州灘撓曲の延長部によってもたらされている可能性があると考え、紀伊半島南部沿岸地域において研究を進めてきた。以下、現段階までに得られた知見のいくつかを報告する。本研究では、平成25~28年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)を使用した。
2 紀伊半島南岸における変動地形
測深データから作成した3秒グリッドDEMを用いた研究(海底の立体視)が進み(中田ほか、2009a、b、渡辺ほか、2010)、鈴木(2004)が指摘した遠州灘撓曲の紀伊半島への連続性が検討されてきた。その結果、紀伊半島南部の沖合約15km、南海トラフよりはるかに沿岸寄りに、活動性の高い海底活断層が存在することが明らかになってきた。
調査地域に分布する海成段丘面のうち、最も連続性が良く広範に分布するものを、MIS 5eに形成された海成段丘面(M1面)とした。断片的ではあるが、M1面より高い位置に、少なくとも2つの高位面群(H1面・H2面)が分布するほか、新宮~木本付近などには、M1面より下位にM2面が分布している。これらの海成段丘面の旧汀線アングル高度(以下、旧汀線高度)を、精度0.01 m程度のレーザー計測装置によって計測した。
H1面の旧汀線高度は、勝浦付近では約150m、白浜付近では約100mである。H2面の旧汀線高度は、後述のM1面のそれとほぼ同様に変化しており、勝浦~新宮では110m以上、串本周辺では80m、御坊周辺では50mである。M1面の旧汀線高度は、勝浦~新宮付近で最も高く(約60m)、潮岬付近では約50m、北西方の御坊や北東方の木本では約20mである。また、白浜や潮岬付近では、海岸部より内陸部の方が旧汀線高度は高い。M2面の旧汀線高度は、新宮付近では40m、北東の木下付近では20m以下である。
串本町田並のM1面(55~58m)には、比高3~5mの逆向き低断層が形成されており、北側(内陸側)が低くなっている。海岸の露頭では、新第三系(中新統熊野層群の砂岩・泥岩)を変位させる逆断層が確認できる。同様の変動地形は、新宮~木本の海成段丘面にも見られ、北西側(内陸側)が数m程度低くなっている。
3 考察
海成段丘面の旧汀線高度は、遠州灘撓曲の西への延長部が陸上に最も近づく、新宮~串本付近で最も高い。1946年昭和南海地震時の上下変動量は、潮岬付近で大きく新宮に向かって小さくなっており、海成段丘面高度とは一致していない。また、白浜や潮岬付近では海側へ撓み下がるような変形が確認できる。さらに、M1面などに見られる逆向き低断層崖は、沿岸域を隆起させる主断層が海岸線に近い位置に存在することを暗示している。紀伊半島南岸における隆起生物遺骸群集の検討(宍倉ほか、2008)によれば、最近(13~15世紀以降)のものを除くと、それらの分布高度は上記の旧汀線高度の分布と調和的であるように見える。これらのことから、紀伊半島南岸における「異常な隆起」は、遠州灘撓曲(の延長部)の活動によるものであると考えるのが合理的であろう。
今後、13~15世紀以降の生物遺骸群集の高度分布を含めて詳細に検討し、調査地域の第四紀後期における地殻変動の特徴とそのメカニズムについて明らかにしてゆく予定である。
【文献】 前杢・坪野,1990,地学雑誌,99.前杢,2001,地学雑誌,110.中田ほか,2009a,日本地球惑星科学連合大会予稿集.中田ほか,2009b,地震学会講演要旨.宍倉ほか,2008,活断層・古地震研究報告,8.杉山,1992,地質学論集,40.鈴木康弘,2004,月間地球,26.米倉,1968,地学雑誌,77.吉川ほか,1964,地理学評論,37.渡辺ほか,2010,地震学会講演要旨