11:30 〜 11:45
[SSS08-15] 平成28年熊本地震に伴って阿蘇谷に現れた大規模亀裂群の成因の推定 -的石地区におけるボーリング調査とコアの詳細分析-
1.はじめに
2016(平成28)年熊本地震では、阿蘇カルデラ内の阿蘇谷において、数kmスケールの3領域(的石、狩尾、内牧の3地区)において北東走向の大規模な亀裂群が生成された。Lin et al. (2016) は布田川断層の北東延長が阿蘇谷に現れたと考えたが、亀裂群の北側で最大3 m程度の北向きの変位が見られる(例えば、Fujiwara et al., 2016; 黒木ほか、2016)こと、内牧地区の温泉ボーリングのケーシングが深さ50 m 付近で(浅いほうが北方向に)曲がった(Tsuji et al., 2017)ことなどから、亀裂の原因として布田川断層の北東延長とは別の原因を考える必要があることが示唆された。
これらの地域にはAso-4噴火後のカルデラ湖内に堆積した湖成層が広く分布し、N値が5以下となるような軟質な火山灰質シルト層が地表付近に30-60 m程度の厚さで堆積している(全地連ボーリングデータを参照)。Tsuji et al. (2017) はこのような脆弱な堆積層内で地震時に生じた高い間隙水圧によって地表から50 m 程度の土塊が側方流動したことを示唆した。しかしながら、そのような深さで側方流動が発生した事例は知られておらず、移動土塊が動き出すほど大きな間隙水圧の生成メカニズムもわかっていない。そのため、依然として大規模な亀裂の生成メカニズムは不明なままである。そこで、本研究では、亀裂生成および変位領域が特定の地盤構造に由来するかを探るため、的石地区でボーリング掘削調査をおこなった。
2.ボーリング柱状図
ボーリングは的石地区の変位領域内の中央部で実施した。掘削深度は57 mである。
地表付近から深さ7 m までは主に火山灰シルトや砂質シルトが見られ、その下位には約 1 m の厚さで保水性が非常に高い風化軽石層が見られた。この軽石層は、ボーリング実施地点から南西(阿蘇山)側500 mの距離における既存ボーリング(A地点とする)においてもほぼ同じ深さに検出されている。
その下位には深さ26 m 付近まで湿潤密度が非常に低いシルトが続いた。このあと深くなるにつれシルトに混じる砂分が増えていき、砂質シルト、シルト質砂が深さ57 mまで続いた(ただし、深さ 52.3-54.3 m に砂混じり軽石層を含む)。A地点では湖成層(火山灰質シルト、砂)の底が深さ32 mにありその下位で安山岩溶岩が検出されているのに対し、本研究のボーリングでは掘削深度(57 m)内では検出されず、変位領域内において湖成層の厚さが急激に深くなることが示唆された。これは、Doi et al. (2017) において、S波速度が低い領域が変位領域内において厚く存在することと調和的であった。
3.コアのX線画像
すべてのコアに対して直交する2方向の断面においてX線画像を撮影した。砂層や火山灰層がシルト内に薄くほぼ水平に堆積している様子を明瞭に観察することができた。それらの薄層の傾斜は深さ 43.5 mから大きくなり、深さ 44.2 m で60度と極大となり、深さ44.5 m で元の傾斜に戻った。このように薄層の傾斜が大きく変化する領域は深さ 55-56 m にも見られた。この結果は局所的な変形領域の存在を示唆するが、今後、この変形の生成メカニズムや年代について議論を進めていく。
謝辞:的石地区の山本区長には調査にあたり多大なご協力をいただいた。山梨大学工学部の後藤聡准教授には有益な議論をしていただいた。京大防災研の共同利用共同研究(緊急特別共同研究28-U06、拠点研究29-A04)の支援を受けた。ここに記して感謝する。
2016(平成28)年熊本地震では、阿蘇カルデラ内の阿蘇谷において、数kmスケールの3領域(的石、狩尾、内牧の3地区)において北東走向の大規模な亀裂群が生成された。Lin et al. (2016) は布田川断層の北東延長が阿蘇谷に現れたと考えたが、亀裂群の北側で最大3 m程度の北向きの変位が見られる(例えば、Fujiwara et al., 2016; 黒木ほか、2016)こと、内牧地区の温泉ボーリングのケーシングが深さ50 m 付近で(浅いほうが北方向に)曲がった(Tsuji et al., 2017)ことなどから、亀裂の原因として布田川断層の北東延長とは別の原因を考える必要があることが示唆された。
これらの地域にはAso-4噴火後のカルデラ湖内に堆積した湖成層が広く分布し、N値が5以下となるような軟質な火山灰質シルト層が地表付近に30-60 m程度の厚さで堆積している(全地連ボーリングデータを参照)。Tsuji et al. (2017) はこのような脆弱な堆積層内で地震時に生じた高い間隙水圧によって地表から50 m 程度の土塊が側方流動したことを示唆した。しかしながら、そのような深さで側方流動が発生した事例は知られておらず、移動土塊が動き出すほど大きな間隙水圧の生成メカニズムもわかっていない。そのため、依然として大規模な亀裂の生成メカニズムは不明なままである。そこで、本研究では、亀裂生成および変位領域が特定の地盤構造に由来するかを探るため、的石地区でボーリング掘削調査をおこなった。
2.ボーリング柱状図
ボーリングは的石地区の変位領域内の中央部で実施した。掘削深度は57 mである。
地表付近から深さ7 m までは主に火山灰シルトや砂質シルトが見られ、その下位には約 1 m の厚さで保水性が非常に高い風化軽石層が見られた。この軽石層は、ボーリング実施地点から南西(阿蘇山)側500 mの距離における既存ボーリング(A地点とする)においてもほぼ同じ深さに検出されている。
その下位には深さ26 m 付近まで湿潤密度が非常に低いシルトが続いた。このあと深くなるにつれシルトに混じる砂分が増えていき、砂質シルト、シルト質砂が深さ57 mまで続いた(ただし、深さ 52.3-54.3 m に砂混じり軽石層を含む)。A地点では湖成層(火山灰質シルト、砂)の底が深さ32 mにありその下位で安山岩溶岩が検出されているのに対し、本研究のボーリングでは掘削深度(57 m)内では検出されず、変位領域内において湖成層の厚さが急激に深くなることが示唆された。これは、Doi et al. (2017) において、S波速度が低い領域が変位領域内において厚く存在することと調和的であった。
3.コアのX線画像
すべてのコアに対して直交する2方向の断面においてX線画像を撮影した。砂層や火山灰層がシルト内に薄くほぼ水平に堆積している様子を明瞭に観察することができた。それらの薄層の傾斜は深さ 43.5 mから大きくなり、深さ 44.2 m で60度と極大となり、深さ44.5 m で元の傾斜に戻った。このように薄層の傾斜が大きく変化する領域は深さ 55-56 m にも見られた。この結果は局所的な変形領域の存在を示唆するが、今後、この変形の生成メカニズムや年代について議論を進めていく。
謝辞:的石地区の山本区長には調査にあたり多大なご協力をいただいた。山梨大学工学部の後藤聡准教授には有益な議論をしていただいた。京大防災研の共同利用共同研究(緊急特別共同研究28-U06、拠点研究29-A04)の支援を受けた。ここに記して感謝する。