16:15 〜 16:30
[SSS09-10] SAR観測で捉えられた熊本地震の余効変動について
キーワード:InSAR、熊本地震、余効変動、粘弾性緩和
はじめに
2016年に発生した熊本地震では,SAR衛星データによる高い空間分解能の地殻変動データにより,地震時の変動を広域から局所まで網羅的に把握することが出来た.SAR観測は,地震後も引き続き継続されており,これらのデータを解析することにより,余効変動についても詳細な空間分布を獲得することが期待できる.本研究は,SAR観測により捉えられた熊本地震の余効変動の詳細について報告する.
解析・データ
本研究では,地震後に撮像されたALOS-2衛星を主に使用してInSAR解析により余効変動を抽出した.解析には,北行右観測(path131)と南行右観測(path23)を用いた.さらに,変動の成分を認識しやすくするために,観測日が大きく異ならない干渉ペアを用いて,準上下及び準東西方向の変位も見積もった.
余効変動の特徴
解析の結果,布田川断層帯及び日奈久断層帯周辺で進行する余効変動の詳細な空間分布が捉えられた.まずはじめに,広域の変動に着目すると,北行軌道の干渉画像には,布田川断層帯の東側(布田川区間の東部)で衛星に近づく変位が、西側(宇土区間)で遠ざかる変位が見られる.一方,南行軌道には対応する領域には有意な変位は見られない.これら2つの変位を準上下,準東西成分に変換すると,布田川区間周辺では西向き及び隆起が,それより西の宇土区間周辺では東向き及び沈降の変位が検出された.注目すべきは,地震時に大きく滑った布田川断層を境にした変位の食い違いは見られないことである.もし,余効すべりにより変位が生ずれば,布田川断層の上盤側(北側)及び下盤側(南側)ではそれぞれ,地震時と同じように東向き及び西向きの変位が見られるはずであるが,両側とも地盤が西に変位している.このような背景の下,3次元有限要素法による粘弾性変形の計算を行い,変位分布の再現を試みた.その結果,布田川断層帯の東(布田川区間周辺)では西向き・隆起の変位が,西側(宇土区間周辺)では東向き・沈降が求まり,SAR解析により得られた変位分布を概ね説明する変位パターンが得られた.熊本地震の余効変動では,粘性緩和が大きく貢献していていることが示唆される.
こうした広域の余効変動に加えて,InSAR画像は局所的な興味深い変動も捉えている.その1つが日奈久断層帯の高野-白旗区間及び布田川断層帯の布田川区間西側において変位の不連続が確認できることである.この変位不連続は,地震時にも確認できたものであり,地震後も継続して変位が続いたことを示している.これに加えて,地震時に有意な断層面上のすべりが見られなかった日奈久断層帯の日奈久区間の南部においても,断層に沿ってわずかではあるが有意とみられる変位の急変が観測された.こうした変位の不連続は粘性緩和のような機構では考えにくく,浅部において余効すべりが生じたことを強く示唆している.これら観測された変位の不連続は,既知の断層の位置と概ね整合的である.また,出ノ口断層と布田川断層に挟まれる領域では,10cmを超える沈降が観測された.沈降域の南端は出ノ口断層のトレースとほぼ一致する.ここでは,地震時にも出ノ口断層の上盤が大きく局所的に沈降しており,ほぼ同じ領域が地震後も沈降し続けていることが分かった.
謝辞:これらのデータは,地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ(地震WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.ここで使用しただいち2号の原初データの所有権は,JAXAにあります.
2016年に発生した熊本地震では,SAR衛星データによる高い空間分解能の地殻変動データにより,地震時の変動を広域から局所まで網羅的に把握することが出来た.SAR観測は,地震後も引き続き継続されており,これらのデータを解析することにより,余効変動についても詳細な空間分布を獲得することが期待できる.本研究は,SAR観測により捉えられた熊本地震の余効変動の詳細について報告する.
解析・データ
本研究では,地震後に撮像されたALOS-2衛星を主に使用してInSAR解析により余効変動を抽出した.解析には,北行右観測(path131)と南行右観測(path23)を用いた.さらに,変動の成分を認識しやすくするために,観測日が大きく異ならない干渉ペアを用いて,準上下及び準東西方向の変位も見積もった.
余効変動の特徴
解析の結果,布田川断層帯及び日奈久断層帯周辺で進行する余効変動の詳細な空間分布が捉えられた.まずはじめに,広域の変動に着目すると,北行軌道の干渉画像には,布田川断層帯の東側(布田川区間の東部)で衛星に近づく変位が、西側(宇土区間)で遠ざかる変位が見られる.一方,南行軌道には対応する領域には有意な変位は見られない.これら2つの変位を準上下,準東西成分に変換すると,布田川区間周辺では西向き及び隆起が,それより西の宇土区間周辺では東向き及び沈降の変位が検出された.注目すべきは,地震時に大きく滑った布田川断層を境にした変位の食い違いは見られないことである.もし,余効すべりにより変位が生ずれば,布田川断層の上盤側(北側)及び下盤側(南側)ではそれぞれ,地震時と同じように東向き及び西向きの変位が見られるはずであるが,両側とも地盤が西に変位している.このような背景の下,3次元有限要素法による粘弾性変形の計算を行い,変位分布の再現を試みた.その結果,布田川断層帯の東(布田川区間周辺)では西向き・隆起の変位が,西側(宇土区間周辺)では東向き・沈降が求まり,SAR解析により得られた変位分布を概ね説明する変位パターンが得られた.熊本地震の余効変動では,粘性緩和が大きく貢献していていることが示唆される.
こうした広域の余効変動に加えて,InSAR画像は局所的な興味深い変動も捉えている.その1つが日奈久断層帯の高野-白旗区間及び布田川断層帯の布田川区間西側において変位の不連続が確認できることである.この変位不連続は,地震時にも確認できたものであり,地震後も継続して変位が続いたことを示している.これに加えて,地震時に有意な断層面上のすべりが見られなかった日奈久断層帯の日奈久区間の南部においても,断層に沿ってわずかではあるが有意とみられる変位の急変が観測された.こうした変位の不連続は粘性緩和のような機構では考えにくく,浅部において余効すべりが生じたことを強く示唆している.これら観測された変位の不連続は,既知の断層の位置と概ね整合的である.また,出ノ口断層と布田川断層に挟まれる領域では,10cmを超える沈降が観測された.沈降域の南端は出ノ口断層のトレースとほぼ一致する.ここでは,地震時にも出ノ口断層の上盤が大きく局所的に沈降しており,ほぼ同じ領域が地震後も沈降し続けていることが分かった.
謝辞:これらのデータは,地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ(地震WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.ここで使用しただいち2号の原初データの所有権は,JAXAにあります.