日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震波伝播:理論と応用

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫((株)地球科学総合研究所、共同)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)、座長:江本 賢太郎(東北大学)、高橋 努(海洋研究開発機構)

09:00 〜 09:15

[SSS10-07] べき乗型スペクトルを持つランダム媒質を伝播するスカラー波束強度の理論計算(2)

*佐藤 春夫1江本 賢太郎1 (1.東北大学)

キーワード:地震波動、ランダム媒質、散乱

高周波数の微小地震記象から,S波は伝播距離の増加と共にその見かけ継続時間が大きくなり,その後ろには長い継続時間をもつコーダ波を伴うことがわかる.本講演では,ランダムな速度ゆらぎの数理的モデルとしてフォンカルマン型ランダム媒質を考え,統計パラメータを用いてスカラー波束の強度を直接導くことを目的とする.波動強度計算の従来の方法は,Born近似を用いて散乱係数を計算しこれを輻射伝達方程式に用いるというものであった.しかし,中心波数がコーナー波数より高いべき乗型スペクトル領域にあって位相ずれが大きい場合には,散乱係数の計算に通常のBorn近似が適用できない.昨年の講演で提案した解法は,中心波数を参照してランダム媒質のパワースペクトル密度を2分割するというものである.高波数成分に起因する広角度散乱によって励起される波動強度を輻射伝達方程式で計算し,低波数成分に起因する狭角度散乱の累積効果を放物近似に基づくMarkov近似を用いて積分解を求め,これらを時間領域で畳み込んだ(Sato and Emoto,GJI,2017).この方法によって計算した波動強度は,差分計算によって求めたランダム媒質における平均波動強度を,初動着信からピーク値を超えてコーダに至るまで定量的に説明できた.新たに提案する方法は,放物近似に基づくPhase screen近似を適用し,距離増分毎の低波数成分に起因する狭角度の波線方向変化がガウス分布に従うことを用いる.即ち,高・低波数両成分の散乱効果がどちらも距離差分の形で与えられるため,モンテカルロ法のプログラムコードを容易に書くことができる.この新しい方法によって計算した波動強度は,差分計算によって求めた平均波動強度を初動着信からピーク値を超えてコーダに至るまで良く説明できる.この一致度は前報と同程度に良い.新しく提案する方法の利点として,散乱の効果がすべて差分表現となっているために深さ変化等の構造を容易に取り入れることが可能となる.また,全エネルギーが保存されるので,内部減衰の効果を取りこむことが容易となる.