09:15 〜 09:30
[SSS10-08] 3次元差分法を用いた散乱波分布の経過時間依存性の解析
キーワード:散乱波、ランダム不均質媒質、差分法シミュレーション、輻射伝達理論、マルコフ近似
短周期地震波形は地球内部の微細な速度不均質構造による散乱波で構成されており、複雑な波形を示す。地震波エンベロープの直達波からピーク付近は多重前方散乱理論であるマルコフ近似でよくモデル化できることが知られており[Sato, 1989]、小さい角度で散乱された波で構成されていると考えられる。一方、経過時間が十分経過したコーダ部分は拡散方程式で記述でき、エンベロープを構成する散乱波の角度分布は等方に近い。この様子を定量的に明らかにするために、我々は3次元差分法シミュレーションにおいてアレイによるFK解析を適用することで散乱波角度分布の経過時間変化を調べてきた[江本、地震学会2017]。しかし、時間分解能が悪いことと、見ている物理量が明らかでなかった。そこで、本発表では、エネルギーフラックスのアンサンブルを求めることで、Specific Intensityや角度スペクトルに相当する物理量を求め、マルコフ近似や輻射伝達方程式と対等な比較を行う。
相関距離(a)、ゆらぎの強さ(ε)が、次の4つの指数関数型ランダム媒質のケースに関して検証を行う:(a, ε) = 1: (1 km, 0.05), 2: (10 km, 0.05), 3: (1 km, 0.1), 4: (5 km, 0.01)。差分法シミュレーションでは、間隔80mで3840^3個のグリッドからなる立方体の計算領域とし、その中心に震源を設定する。伝播距離25, 50, 75, 100 kmに観測点を設置し、フラックス計算の際に必要な空間勾配を計算するために、隣接するグリッドの波形も記録する。各伝播距離において、球面状に20個の観測点を設定する。このシミュレーションを計12個のことなるランダム不均質の実現値に対して行い、20 x 12 = 240 個のエネルギーフラックスの実現値を議論する。これらのエネルギーフラックスの分布を求めることで、角度スペクトルを得る。計算は経過時間45秒まで行う。輻射伝達理論に基づくモンテカルロシミュレーションや、マルコフ近似理論による角度スペクトルも4つのケースに対して計算し、差分法との比較を行う。ケース2ではボルン近似が破綻する範囲なので、佐藤・江本(2018, JpGU)の手法を用いる。
角度スペクトルは、初動到達直後には震源から観測点に向かう方向に鋭いピークを持つが、経過時間とともに大きな入射角を持つエネルギーが増え、なだらかな分布となる。差分法で求めた角度スペクトルと輻射伝達理論を比べると、両者はよく一致した。マルコフ近似は、ケース2と4では直達からピーク付近は差分法と一致するが、ケース1と3では差分法より広角度のエネルギーを過大評価していることがわかった。そもそも、ケース1や3は、相関距離が小さく広角散乱が比較的強いため、マルコフ近似の適用可能範囲外である。マルコフ近似では、多重前方散乱近似に基づいており、90度以上の散乱波の評価ができない。ケース1や3の場合には、マルコフ近似で扱う指標である進行方向と直交する面内での波動場の相関がなくなりパルス的になる。その空間に関するフーリエ変換で求まる角度スペクトルは、90度で0にならず角度スペクトルの定義が成り立たなくなる。ケース2や4では、マルコフ近似から求まる角度スペクトルは時間が経っても鋭いピークを残したままとなっている。差分法や輻射伝達理論から求まる角度スペクトルの分布幅が30度程度までは一致するが、時間が経過し、差分法や輻射伝達の角度スペクトルの分布幅が広がると一致しなくなった。つまり、マルコフ近似では入射角が30度程度までの散乱波がモデル化されていることがわかった。
差分法と輻射伝達理論から求まる角度スペクトルを見ると、初動到達直後の分布はケース4が一番鋭く、同じく前方散乱の強いケース2が次に鋭い。この分布形状の差は経過時間とともになくなり、例えば伝播距離50kmでは、初動到達後数秒で差はほとんどなくなる。その後は同様にフラットな分布に近づいていく。計算した上限の経過時間である45秒では、震源方向とその逆方向の角度スペクトルの値の比は2倍以下となっている。江本(2017地震学会)で見られたように、波動場が等方的に近づく速さは、不均質ゆらぎの相関距離や強さにはあまり依存しないことがわかった。
相関距離(a)、ゆらぎの強さ(ε)が、次の4つの指数関数型ランダム媒質のケースに関して検証を行う:(a, ε) = 1: (1 km, 0.05), 2: (10 km, 0.05), 3: (1 km, 0.1), 4: (5 km, 0.01)。差分法シミュレーションでは、間隔80mで3840^3個のグリッドからなる立方体の計算領域とし、その中心に震源を設定する。伝播距離25, 50, 75, 100 kmに観測点を設置し、フラックス計算の際に必要な空間勾配を計算するために、隣接するグリッドの波形も記録する。各伝播距離において、球面状に20個の観測点を設定する。このシミュレーションを計12個のことなるランダム不均質の実現値に対して行い、20 x 12 = 240 個のエネルギーフラックスの実現値を議論する。これらのエネルギーフラックスの分布を求めることで、角度スペクトルを得る。計算は経過時間45秒まで行う。輻射伝達理論に基づくモンテカルロシミュレーションや、マルコフ近似理論による角度スペクトルも4つのケースに対して計算し、差分法との比較を行う。ケース2ではボルン近似が破綻する範囲なので、佐藤・江本(2018, JpGU)の手法を用いる。
角度スペクトルは、初動到達直後には震源から観測点に向かう方向に鋭いピークを持つが、経過時間とともに大きな入射角を持つエネルギーが増え、なだらかな分布となる。差分法で求めた角度スペクトルと輻射伝達理論を比べると、両者はよく一致した。マルコフ近似は、ケース2と4では直達からピーク付近は差分法と一致するが、ケース1と3では差分法より広角度のエネルギーを過大評価していることがわかった。そもそも、ケース1や3は、相関距離が小さく広角散乱が比較的強いため、マルコフ近似の適用可能範囲外である。マルコフ近似では、多重前方散乱近似に基づいており、90度以上の散乱波の評価ができない。ケース1や3の場合には、マルコフ近似で扱う指標である進行方向と直交する面内での波動場の相関がなくなりパルス的になる。その空間に関するフーリエ変換で求まる角度スペクトルは、90度で0にならず角度スペクトルの定義が成り立たなくなる。ケース2や4では、マルコフ近似から求まる角度スペクトルは時間が経っても鋭いピークを残したままとなっている。差分法や輻射伝達理論から求まる角度スペクトルの分布幅が30度程度までは一致するが、時間が経過し、差分法や輻射伝達の角度スペクトルの分布幅が広がると一致しなくなった。つまり、マルコフ近似では入射角が30度程度までの散乱波がモデル化されていることがわかった。
差分法と輻射伝達理論から求まる角度スペクトルを見ると、初動到達直後の分布はケース4が一番鋭く、同じく前方散乱の強いケース2が次に鋭い。この分布形状の差は経過時間とともになくなり、例えば伝播距離50kmでは、初動到達後数秒で差はほとんどなくなる。その後は同様にフラットな分布に近づいていく。計算した上限の経過時間である45秒では、震源方向とその逆方向の角度スペクトルの値の比は2倍以下となっている。江本(2017地震学会)で見られたように、波動場が等方的に近づく速さは、不均質ゆらぎの相関距離や強さにはあまり依存しないことがわかった。