09:30 〜 09:45
[SSS10-09] タール火山(フィリピン)における地震波散乱特性の時空間分布とマグマ活動との関係
キーワード:火山構造性地震、エンベロープ波形、モンテカルロ法、平均自由行程、Q値、脱ガス
フィリピンのタール火山は1572年以来33回噴火を起こしている活動的な火山のひとつで、様々な分野からその火山活動や地下構造について研究が行われている[e.g. Zlotnicki et al., Bull. Volcanol., 2009]。タール火山の地下構造に関する最近の研究には、Yamaya et al. [Bull. Volcanol., 2013] の比抵抗構造探査やKumagai et al. [Geophys. Res. Lett., 2014] の高周波地震波の振幅を用いた減衰領域の推定などがあるが、熱水やマグマがどこに分布するのかは未だ議論が続いている。
火山は通常の地殻と比べて強い不均質性を持っており、地震波は散乱の影響を強く受けて伝播する。火山においては流体の移動を伴う火山活動によって短波長の散乱特性が変化しやすいと考えられる。高周波地震波はこのような短波長の構造変化に影響されやすいため、高周波の地震波形を解析し散乱構造を推定することは、火山内部の流体の分布やその時間変化の理解につながる。しかし、タール火山の散乱構造を推定した先行研究はなかった。
そこで本研究では、タール火山で発生した火山構造性地震の地震波形を解析し、この火山の散乱特性を調べた。観測波形のエンベロープに輻射伝達理論に基づくエンベロープ波形をフィッティングし、タール火山の平均的な散乱特性(平均自由行程l0と非弾性減衰Qs)の値を推定した。その結果、l0 = 1000~1500 m, Qs = 100~125で残差が最小になった。この推定されたl0は通常の地殻の値よりも小さく、散乱が強いことを示している。ほぼ同一地点で発生した同様なメカニズムを持つ地震を調べた結果、タール火山の南東部に位置する観測点VTCTでは観測波形が地震ごとに大きく変化しており、いくつかの地震では散乱の弱い一次散乱的な波形が見られた。この結果はタール火山の散乱特性が時間的にも空間的にも一様ではないことを示している。
VTCTの観測波形を説明するために、モンテカルロ法 [Yoshimoto, J. Geophys. Res., 2000] を使って様々な構造を仮定して数値シミュレーションを行った。その結果、厚さ1 kmの散乱の強い層(l0 = 500 m)の下に散乱の弱い層(l0 = 10000 m)を置き、さらにVTCTの下に散乱の弱い領域(l0 = 10000 m)を仮定したとき、VTCTの一次散乱的な観測波形をより良く説明できた。さらにこの領域の散乱を強くすることでVTCTの観測波形の時間変化を再現できた。一か月程度という短期間で散乱の強さが変化したことを考えると、この領域には気泡を含むマグマが存在していると考えられる。2010年から2011年に行われた火口湖におけるCO2放出量の測定では、その放出量は時間的に大きく変動しており、火山性地震の活動期に多く増加したことが分かっている [Arpa et al., Bull. Volcanol., 2013]。マグマで発生した気泡が未固結な堆積物層の割れ目などを通じて火口湖へ放出されていると考えると、CO2の放出量の変化はこのようなマグマの気泡量の変化に対応していると考えられる。
火山は通常の地殻と比べて強い不均質性を持っており、地震波は散乱の影響を強く受けて伝播する。火山においては流体の移動を伴う火山活動によって短波長の散乱特性が変化しやすいと考えられる。高周波地震波はこのような短波長の構造変化に影響されやすいため、高周波の地震波形を解析し散乱構造を推定することは、火山内部の流体の分布やその時間変化の理解につながる。しかし、タール火山の散乱構造を推定した先行研究はなかった。
そこで本研究では、タール火山で発生した火山構造性地震の地震波形を解析し、この火山の散乱特性を調べた。観測波形のエンベロープに輻射伝達理論に基づくエンベロープ波形をフィッティングし、タール火山の平均的な散乱特性(平均自由行程l0と非弾性減衰Qs)の値を推定した。その結果、l0 = 1000~1500 m, Qs = 100~125で残差が最小になった。この推定されたl0は通常の地殻の値よりも小さく、散乱が強いことを示している。ほぼ同一地点で発生した同様なメカニズムを持つ地震を調べた結果、タール火山の南東部に位置する観測点VTCTでは観測波形が地震ごとに大きく変化しており、いくつかの地震では散乱の弱い一次散乱的な波形が見られた。この結果はタール火山の散乱特性が時間的にも空間的にも一様ではないことを示している。
VTCTの観測波形を説明するために、モンテカルロ法 [Yoshimoto, J. Geophys. Res., 2000] を使って様々な構造を仮定して数値シミュレーションを行った。その結果、厚さ1 kmの散乱の強い層(l0 = 500 m)の下に散乱の弱い層(l0 = 10000 m)を置き、さらにVTCTの下に散乱の弱い領域(l0 = 10000 m)を仮定したとき、VTCTの一次散乱的な観測波形をより良く説明できた。さらにこの領域の散乱を強くすることでVTCTの観測波形の時間変化を再現できた。一か月程度という短期間で散乱の強さが変化したことを考えると、この領域には気泡を含むマグマが存在していると考えられる。2010年から2011年に行われた火口湖におけるCO2放出量の測定では、その放出量は時間的に大きく変動しており、火山性地震の活動期に多く増加したことが分かっている [Arpa et al., Bull. Volcanol., 2013]。マグマで発生した気泡が未固結な堆積物層の割れ目などを通じて火口湖へ放出されていると考えると、CO2の放出量の変化はこのようなマグマの気泡量の変化に対応していると考えられる。