日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震波伝播:理論と応用

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫((株)地球科学総合研究所、共同)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)、座長:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、生田 領野(静岡大学理学部)

14:45 〜 15:00

[SSS10-23] 地すべり地形地におけるACROSS震源を用いた地下状態モニタリング

*生田 領野1小平 健太郎1國友 孝洋2渡辺 俊樹2山岡 耕春2勝間田 明男3 (1.静岡大学理学部、2.名古屋大学環境学研究科付属地震火山研究センター、3.気象庁気象研究所)

キーワード:精密制御定常震源装置、地すべり、降雨、地震波走時

 本研究では静岡県森町に設置された精密制御定常信号システム(弾性波ACROSS)を用いて、人工地震波による地滑り地形地のモニタリングを行った。本研究の目的は、地すべり地形地における地震波の伝搬速度の、降雨に対する応答を見ることである。

 防災科技研による地すべり地形分布図データベースを元に、震源近傍で地すべり地形を探し、震源から約3キロの地点で、滑落崖下の頭部に1点(Ocha観測点)、400mほど離れた安定した場所に1点(Gomi観測点)の計2点を設置し、2017年10月、約3週間の観測を行った。

 森町のACROSS震源装置は鉛直軸を中心に回転し、水平方向に遠心力を発生する。5.51Hzの搬送波周波数を中心に、50秒周期で±2HzのFM変調送信を行った。また回転方向は2時間で正転(時計回り)、逆転をスイッチし、回転の異なる時間帯の地震計記録を足し合わせることで、水平の任意の方向への直線加振に対する応答を得られる設計になっている。地震計の成分と、震源の振動方向を任意に合成することで、我々は2時間ごとに一組、Ur、Rr、Tr、Ut、Rt、Ttの6つの応答テンソルを得た。ここで大文字のU、R、Tはそれぞれ地震計の上下、動径、接線方向を表し、小文字のr、tはそれぞれ震源の加振方向の動径、接線方向を表す。

 得られた2時間毎の伝達関数から、パーティクルモーションを元にP、S、ラブ、レイリー波の各波群を識別し、これらの波群を含む時系列波形の3週間の走時変化を解析した。走時解析は、走時1~4秒の間で0.2秒の時間窓を0.1秒ずつずらしながら、クロススペクトル法により行った。

 結果、ほぼ全ての波群が降雨により遅れ、更に表面波の降雨に対する応答は直達波より有意に大きかった。時間雨量を入力とする減衰応答(時定数5日)と表面波の走時変化との相関係数を取ると、0.8~0.85と大きな値を取り、降雨に対する地下水の貯留応答が表面波の走時変化に強く影響していることが示唆される。

 更に、2つの観測点OchaとGomiの走時変動の差をとったものと、降雨系列との相関をとると、ラブ波、レイリー波の振動成分、時刻での相関は非常に小さくなった。かわりにラブ波が卓越しないUr成分のラブ波到達時刻、レイリー波が卓越しないTt成分でのレイリー波到達時刻での相関が大きくなった。このことは、主要な波群の、本来ではない成分への漏れ出し方の雨に対する応答が、OchaとGomi観測点で異なると言えるかも知れない。