[SSS10-P12] 数値実験に基づく海陸観測網を用いた沖合の地震のセントロイドの深さの推定精度の検討
キーワード:セントロイドモーメントテンソル、数値実験、沖合の地震、海陸地震観測網
沖合で発生する地震のセントロイドモーメントテンソル (CMT) 解の推定において,海陸の地震波形を同時に用いると,陸上記録のみを使用した場合よりもはるかに高い解像度でセントロイドの水平位置を拘束できる (Kubota et al., 2017).近年,東北沖には日本海溝海底地震津波観測網S-net (Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench) (Uehira et al., 2012) が展開された.この観測網と陸上の地震観測網の記録を活用することにより,沖合の地震のCMT解,とくに発生するセントロイド位置とセントロイド深さの推定精度の向上が期待される.しかし,海域における地殻構造は陸上とは大きく異なっているため,海水や堆積層などの低速度層を考慮した地震波伝播計算が重要である (e.g., Noguchi et al., 2017; Takemura et al., 2018).海域の地震について,海陸の観測網を同時に用いてCMT解を高精度で推定するためには,上記のような海域特有の不均質構造を考慮する必要がある.本研究では,地震動シミュレーションにより合成された海域・陸域の地震観測網におけるテスト波形をもとに,海域特有の構造が陸から離れた沖合で発生する地震のCMT解の推定,特にセントロイドの深さの推定におよぼす影響について考察した.
本研究では東北沖のプレート境界で発生する逆断層型の点震源 (深さ ~18 km) を入力の震源として仮定し,テスト波形を地震動シミュレーションにより合成した.地震動伝播は3次元差分法 (e.g., Takemura et al., 2017) により計算し, Koketsu et al. (2012) による3次元速度構造モデル (JIVSM) を使用した.計算領域は960×960×240 km3とし,水平にΔx = Δy = 0.4 km,鉛直にΔz = 0.15 kmの格子間隔で離散化した.時間方向の格子間隔をΔt = 0.005 sとした.合成波形に周期20 – 100 sのバンドパスフィルタを施し,CMT解の推定を行った.セントロイド水平位置は沖合の観測網を用いることで高い精度で拘束できる (Kubota et al. 2017) ため,本解析では震央を入力震源の位置に固定し,セントロイド深さおよびモーメントテンソルの推定を行った.CMT解の推定に使用するグリーン関数は,3種類の異なる速度構造モデルを使用した.1つ目は,F-netメカニズム解の推定に用いられている内陸の構造を模した1次元速度構造モデル (Kubo et al., 2002) (内陸1Dモデル) である.この構造では,海水層や浅部の低速度層は考慮されていない.2つ目は,海域の構造を模した,海水層および浅部低速度層を含んだ1次元構造モデル (海域1Dモデル) である.最後は,合成波形の計算にも使用した3次元の速度構造モデル (JIVSM) (3Dモデル) である.1DモデルにおけるGreen関数の計算には波数積分法 (Herrmann, 2013) を用いた.
内陸1Dモデルによるグリーン関数を使用では,最適解の深さは ~17 kmと,入力震源の深さとほぼ同様となった.セントロイドの深さ5 – 30 kmの範囲で,テスト波形の再現性に大きな差異はなく,深さ方向の解像度はさほど高くないと言える.一方で,3Dモデルによるグリーン関数を使用した場合,入力と同じ深さに最適解が推定された.セントロイドの深さ15 – 25 km範囲でテスト波形の再現性が高く,内陸1Dモデルと比べて深さ解像度が改善した.海域1D構造モデルを用いたCMT解では,3Dモデルと同様の結果が得られた.
以上より,海域特有の構造を考慮したグリーン関数を用いることで,CMT解のセントロイド深さについて浅い解を棄却できるようになることがわかった.一方で,テスト波形の計算と同じ3次元速度構造モデルを用いた場合でも,セントロイドの深さを拘束することは難しいことも明らかとなった.本解析に使用した周波数帯域 (20 – 100 s) においては,深さ15 – 25 kmの範囲では3次元構造を用いて計算されるグリーン関数間の差が少ないことが原因と考えられる.
本研究では東北沖のプレート境界で発生する逆断層型の点震源 (深さ ~18 km) を入力の震源として仮定し,テスト波形を地震動シミュレーションにより合成した.地震動伝播は3次元差分法 (e.g., Takemura et al., 2017) により計算し, Koketsu et al. (2012) による3次元速度構造モデル (JIVSM) を使用した.計算領域は960×960×240 km3とし,水平にΔx = Δy = 0.4 km,鉛直にΔz = 0.15 kmの格子間隔で離散化した.時間方向の格子間隔をΔt = 0.005 sとした.合成波形に周期20 – 100 sのバンドパスフィルタを施し,CMT解の推定を行った.セントロイド水平位置は沖合の観測網を用いることで高い精度で拘束できる (Kubota et al. 2017) ため,本解析では震央を入力震源の位置に固定し,セントロイド深さおよびモーメントテンソルの推定を行った.CMT解の推定に使用するグリーン関数は,3種類の異なる速度構造モデルを使用した.1つ目は,F-netメカニズム解の推定に用いられている内陸の構造を模した1次元速度構造モデル (Kubo et al., 2002) (内陸1Dモデル) である.この構造では,海水層や浅部の低速度層は考慮されていない.2つ目は,海域の構造を模した,海水層および浅部低速度層を含んだ1次元構造モデル (海域1Dモデル) である.最後は,合成波形の計算にも使用した3次元の速度構造モデル (JIVSM) (3Dモデル) である.1DモデルにおけるGreen関数の計算には波数積分法 (Herrmann, 2013) を用いた.
内陸1Dモデルによるグリーン関数を使用では,最適解の深さは ~17 kmと,入力震源の深さとほぼ同様となった.セントロイドの深さ5 – 30 kmの範囲で,テスト波形の再現性に大きな差異はなく,深さ方向の解像度はさほど高くないと言える.一方で,3Dモデルによるグリーン関数を使用した場合,入力と同じ深さに最適解が推定された.セントロイドの深さ15 – 25 km範囲でテスト波形の再現性が高く,内陸1Dモデルと比べて深さ解像度が改善した.海域1D構造モデルを用いたCMT解では,3Dモデルと同様の結果が得られた.
以上より,海域特有の構造を考慮したグリーン関数を用いることで,CMT解のセントロイド深さについて浅い解を棄却できるようになることがわかった.一方で,テスト波形の計算と同じ3次元速度構造モデルを用いた場合でも,セントロイドの深さを拘束することは難しいことも明らかとなった.本解析に使用した周波数帯域 (20 – 100 s) においては,深さ15 – 25 kmの範囲では3次元構造を用いて計算されるグリーン関数間の差が少ないことが原因と考えられる.