日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 地震活動

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、座長:吉川 澄夫(気象研究所)、川辺 孝幸(山形大学)

09:45 〜 10:00

[SSS12-04] 2016年熊本地震の時空間的解析とその西南日本の浅発地震の時空間分布における位置づけ

*川辺 孝幸1 (1.山形大学)

キーワード:地震活動、2016年熊本地震、地質構造、時空間解析、低周波地震

1.はじめに
 2016年4月14日22時26分頃,熊本県中央部の深さ11kmを震源とする気象庁マグニチュードMj6.5の地震が発生した.その約1時間半後の15日00時03分頃にMj6.4の地震が,さらにその25時間後の16日01時25分にMj7.3の地震が発生した.これらの一連の地震は平成28年(2016年)熊本地震(気象庁,2016;以下,熊本地震)とよばれ,震央に近い益城町をはじめ,人的被害を含む構造物等の大規模な被害被害が発生した.筆者は,熊本地震について,震源の詳細な時空間的解析の結果,およびその西南日本における時空間的位置づけを検討した結果について報告する.なお,本報告中で使用した震源データは,すべて,気象庁一元化処理データを使用した.
2.熊本地震の震源の詳細な時空間的解析結果
 熊本地震では,当初の本震および全部の余震域周辺では,4月14日21時26 分のMj6.5の前震(以下,前震)の以前に,その前震と考えられる地震は検出されていない.前震の初動発震機構解は横ずれ型の北西-南東走向でほぼ垂直の切面と北北東走向で北北西傾斜の切面があり.地表の既知の活断層である布田川断層帯の変位をもとに,後者の切面に対応する右横ずれ断層が活動したと考えられている(気象庁,2016).
 この前震とその発生から15分間の余震分布を三次元的に見ると,後のMj7.3の本震とその余震が示す面が北東-南西走向で北傾斜であるのに対して,前震は,本震とその余震がつくる面の下盤側の数km南に外れた場所で起こり,その直後の余震は,前震とともに,本震とその余震の示す北傾斜の面の,下盤側に限定して東北東-西南西走向で南傾斜の面をなして起こっている.
 一方,本震の余震は,北東-南西走向で北傾斜の面とともに,その面の下底付近の深さ10km前後の北西に隣接する地域で,北西に緩く傾く低角度の面をなして起こっている.
 これらのことは,本震とその余震が示す面の下盤側で起った前震によって,それがトリガーとなって北東-南西走向で北傾斜の断層の活動が励起された,そしてこの面の上盤側が深さ約10kmの場所で北西方向に滑るように動いたと推測できる.また,このような地震を起こす地下での断層群は,地表地質から連続する地質構造を反映していると考えられる.
3.西南日本の浅発地震の時空分布の中での熊本地震の位置づけ
 ところで,熊本地震の時空的震源分布を西南日本の浅発地震の時空分布からみると,直近の地震活動では,九州の南西に隣接する沖縄トラフ北西縁で2015年11月14日に発生したMj7.4の地震とその余震がある.この地震の余震活動は半年後の翌4月12日頃までは活発であったが,2日ほどの活動の停滞を挟んで,その直後,東北東の場所で熊本地震が起こった.この沖縄トラフ北西縁の地震の余震分布は,熊本地震のそれとほぼ同程度の範囲で,かつ熊本地震と同様の北西に張り出した弧状の分布形態をしている.熊本地震の発生以降は,全体の発生頻度は低いままであるが,弧状の形に対する弦の中央部辺りのほぼ同じ位置で起こっている一連の地震のみは,熊本地震の前から引き続いて活発である.
 これらのことからは,沖縄トラフ北西縁の地震とその半年後の熊本地震とは,密接な関係を持っている可能性が推測できる.沖縄トラフ北西縁の地震の同じ範囲で連続して起こっている地震は,低周波地震の検出はないが力学的な断層に伴う地震では無く,熱流体が関係した地震であると考えられる.
 さらに熊本地震後の2016年9月16日に朝鮮半島南東部でMj5.8の地震があり,それに続く2016年10月21日に鳥取県中部の地震(Mj6.6)が起こっている.この鳥取県中部地震は,低周波地震が頻発して,熱流体の活動が活発におこってもたらされたことがわかる.その後,さらには2017年5月27日に丹後半島沖でM5.1の地震が起こっている.このように,西南日本では,西から東に向かって約半年ごとにMj5以上の大きい地震が発生している.南海トラフ北西部の地震や丹後半島沖の地震は熱流体の関与がうかがわれ,これら約半年ごとに起こっている地震は,熱エネルギーの東への移送(Tsunoda et al., 2013)によってもたらされた可能性がある.
引用文献
気象庁, 2016, 平成28年(2016年)熊本地震.災害時自然現象報告書 2016年第1号,230p., 気象庁.
Tsunoda, F., Choi, D.R. and Kawabe, T., 2013. Thermal energy transmigration and fluctuation. NCGT Journal, v.1, p.65-80.