日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 強震動・地震災害

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、座長:内藤 昌平横田 崇

09:00 〜 09:15

[SSS14-01] 地震に起因する人間被害の把握と減災戦略 (2) 評価実験式の質的拡大に向けて

*太田 裕1志垣 智子2宮野 道雄3 (1.東濃地震科学研究所、2.高齢者住宅研究所、3.大阪市立大学)

キーワード:人間被害、明治以降、医中誌、急性期、慢性期

1.研究の展開方向

前報で明治初年に始まり1995年神戸の地震に至る国内主要地震を対象とした人間被害(死傷者評価式)について,地震(工)学関係誌に掲載の原著論文に注目した考察を開始した.その結果,地震に伴う死傷者の発生について伝統地震(工)学が注力する主領域が時間的には「地震のユレの最中および直後という急性期」にほぼ限定されていることが鮮明となった.しかし,地震に伴う人間被害が時間的に長期にわたることは周知の事実であり,この点に注目した研究展開が急務である.関連して,研究展開方途として2つの主題が浮上する.1つは対象とする地震について1995年神戸の地震を含め,さらに近年へと近付けることである.他の1つは地震毎の対応時間を拡大して被災事象の全体をみることである.前者については周知の地震(工)学関係誌を紐解くことで関連Database(DB)の充実を計るのに困難はない.しかし,地震発生に起因する急性期以降~慢性期に及ぶ人間疾患群は現今の地震(工)学では慣例的に考慮の外にあり,長期に亘る疾病事象の事例充足は殆ど期待出来ない.このため,探索範囲を医学方面に拡大することで上記の難点を乗り越えなければならない.第2報となる本論では,伝統地震(工)学を越えた学際領域問題としての扱いに注力する.「医中誌DB」の活用である.

2.医中誌DBの活用

 医中誌(医学中央雑誌刊行会DB)は米国PubMed(National Inst. Health)DBの邦文版として原著論文・総合報告・解説等を収録しており,地震関連の中~長期にわたる症例報告も相当数あり,集録領域は伝統地震(工)学系雑誌を大きく越えている.検索ルールは周知のPubMedを継承しており,我々には馴染みやすい.問題は,PubMedがDB名から想定される領域を越えた広範囲の文献を収録しているのに対して,医中誌はDB名に忠実というべきか,自然災害起因の人間被害関連DBの収録がやや限定的であることにある.本論では,このような問題を承知の上で医中誌DBの検索を主体とし,地震に起因する人間被害の全体(外科系・内科系疾患,さらに精神系疾患)に目配りすることで,伝統地震(工)学関係誌のみでは見落とし勝ちの疾患群の充足に努めた.対象時期は第1報と同様に当面神戸の地震の直前までとし,医中誌DB採択による効果を浮き彫りにすることに注力した.医中誌DBでの検索では-予測手法設定に至るまでの記述は少なく-語句・文章形式のKeywords群が主体であることから-近年発展のTextminingの手法活用によって整理を進めた.

3.両文献DBの対比

 両者の最も著しい違いは,地震に起因する疾病の発生種・発生時期,そして終結期に至る時間長さである.伝統の地震(工)学関係誌が殆んどユレの「最中・直後」に注力していることから―人間被害発生との因果関係が明瞭であり―,予測式が構築し易い資料を提供しているのに対して,医中誌より抽出のKeyword群は長期に亘る内科・精神系疾患群の発生有無・時期とそれらが被災域住民の生活支障へ及ぼす影響等々,被害の多種・多様性に力点をおいたものとなっている.以上を一言でいえば,地震(工)学関係誌からの人間被害関連のKeywords群が示す対象・処理領域が狭きに過ぎること,一方医中誌DBは関係時間領域に加えて地震に伴う疾病種がもつ多様性理解に優れる等,両者は相補関係にあることを教えてくれており,本シリーズ研究の意義を端的に示している.

4.今後に向けて

 本論では,当面の考察を1995年神戸の地震以前とし,かつ主に国内(近傍)発生の地震群に限定しているが,当然時間軸を今日に向けて拡大し,併せて日本の地震から世界のそれへと順次拡大すべきであり,今回の学習は必修であった.こういった扱いを通じて「地震に伴う人間被害の多様性」理解が実体化されると共に,それら多様な被害が個人の心身問題を越えて社会生活に及ぼす重篤な要因となることがさらに判然としてくるであろう.

文献等

1)太田・志垣・宮野,2017年秋季地震学会,地震に起因する人間被害の把握と減災戦略(1) 予測実験式と減災戦略の小史

2)医中誌DB,医学中央雑誌刊行会.

3)PubMed, Nat. Inst. Health, USA.