09:15 〜 09:30
[SSS14-02] 近世歴史地震のピンポイント震度データと新距離減衰式による地表計測震度との比較
キーワード:計測震度、地表計測震度の予測式、歴史地震、ピンポイント歴史地震震度
田中ほか(2017)による地表計測震度の距離減衰式は,地震のタイプ,M,震源距離,地点直下のプレート上面深度,地点のAVS30とからその地点の計測震度を,簡便ながら標準偏差0.5-0.7程度で予測できる.この式は,AVS30で地点直下の表層地盤の影響を,プレート上面深度でスラブを伝播することで生じる異常震域や,東日本の東西での地殻減衰構造の差を上手に表現できており,4タイプの地震に対してそれぞれ4-5個,全部で18個のパラメター値を用いる.AVS30の項に関わる項は地震タイプに依らず共通であるが,このパラメターの内1個を,2015年小笠原近海で発生したM7.9の深発地震のデータを地震規模に関するキャリブレーションとして決定し,残りの17個のパラメター値は,1996年~2014年に発生した中から選択した73個の地震で,のべ1745観測点で観測された計測震度データ計30,510個から同時に求めた.概ね震源距離10-1000km程度,M5以上に対して広い範囲で地表の震度予測に簡便で精度が良いことが,気象庁の震度データでも確認されている(石辺ほか,2017).
今回はMatsu'ura(2017)で示された,近世(1585年~1872年)に発生した被害地震のうち,系統的震度解析実施ずみの134個の歴史地震のピンポイント震度約8,700個と,松浦・中村(2016)などでこれらの震度分布等から推定された震源位置や地震規模に,この式を適用して,史料の記述から推定された震度と,K-NETやKiK-netによる現代の計測震度から導き出された式の値との関係を調べた.結果は,史料の記述から気象庁震度階級の数値が0.5刻みや1刻み程度の数値で推定可能な場合と,体感による強地震,大地震,中地震,地震,という記述をそれぞれ震度3.9, 3.5, 3.0, 2.5に機械的に置き換えた場合とに分けて検討した.我々の推定震度は場所がピンポイントで特定されているため,世界測地系の各震度位置に対するJ-SHISの250mメッシュのAVS30の値を,各点の値として用いた.その結果,数値として震度推定された地点の震度はその精度が高々0.5刻みであるにも関わらず,距離減衰式から予測される計測震度の値との差が標準偏差0.78と,0.1刻みで観測される現代の計測震度に対する標準偏差0.46-0.76と同程度となった.一方,体感記述を数値変換した場合では標準偏差は1.1と,やや大きくなった.
今回の比較から,以下の様なことが判った.1)系統的に実施してきた歴史地震解析による震源位置や地震規模は一貫しており,推定した震度との整合性も定量的に保証されることが改めて確認できた.2)史料中の様々な人による体感記述による震度を,機械的に数値化することを我々は避けてきたが,今回確認できた大きい誤差は,我々の慎重さが正しかったことの確認となった.歴史地震を現代の被害予測に利用する際,震度データから被害の大きい地域の近くにSMGAを配置して震源特性を解明できたとするのは,この手の推定震度自体の誤差を震源に押しつけているだけだろう.そもそも歴史地震の震度,特に大震度は,地震動の振幅だけでなく周期特性や振動継続時間という3要素の複合による被害から推定されるため,SMGAの位置推定に使うこと自体,物理的に無理がある.3)我々の距離減衰式は,回帰に用いていないデータに対しても十分摘要可能で,幅広い応用が期待される.
本研究は文部科学省の委託によって実施された.式の導出やAVS30には防災科学技術研究所の公開データを大量に利用させていただいた.記して感謝する.
石辺ほか,2017,日本地震学会秋季大会講演予稿集S15-13
Matsu’ura, R. S., 2017, https://doi.org/10.1186/s40562-017-0069-4
松浦・中村,2016,歴史地震,31, 9-16.
田中ほか,2017,日本地震工学会第13回年次大会梗概集,P4-5.
今回はMatsu'ura(2017)で示された,近世(1585年~1872年)に発生した被害地震のうち,系統的震度解析実施ずみの134個の歴史地震のピンポイント震度約8,700個と,松浦・中村(2016)などでこれらの震度分布等から推定された震源位置や地震規模に,この式を適用して,史料の記述から推定された震度と,K-NETやKiK-netによる現代の計測震度から導き出された式の値との関係を調べた.結果は,史料の記述から気象庁震度階級の数値が0.5刻みや1刻み程度の数値で推定可能な場合と,体感による強地震,大地震,中地震,地震,という記述をそれぞれ震度3.9, 3.5, 3.0, 2.5に機械的に置き換えた場合とに分けて検討した.我々の推定震度は場所がピンポイントで特定されているため,世界測地系の各震度位置に対するJ-SHISの250mメッシュのAVS30の値を,各点の値として用いた.その結果,数値として震度推定された地点の震度はその精度が高々0.5刻みであるにも関わらず,距離減衰式から予測される計測震度の値との差が標準偏差0.78と,0.1刻みで観測される現代の計測震度に対する標準偏差0.46-0.76と同程度となった.一方,体感記述を数値変換した場合では標準偏差は1.1と,やや大きくなった.
今回の比較から,以下の様なことが判った.1)系統的に実施してきた歴史地震解析による震源位置や地震規模は一貫しており,推定した震度との整合性も定量的に保証されることが改めて確認できた.2)史料中の様々な人による体感記述による震度を,機械的に数値化することを我々は避けてきたが,今回確認できた大きい誤差は,我々の慎重さが正しかったことの確認となった.歴史地震を現代の被害予測に利用する際,震度データから被害の大きい地域の近くにSMGAを配置して震源特性を解明できたとするのは,この手の推定震度自体の誤差を震源に押しつけているだけだろう.そもそも歴史地震の震度,特に大震度は,地震動の振幅だけでなく周期特性や振動継続時間という3要素の複合による被害から推定されるため,SMGAの位置推定に使うこと自体,物理的に無理がある.3)我々の距離減衰式は,回帰に用いていないデータに対しても十分摘要可能で,幅広い応用が期待される.
本研究は文部科学省の委託によって実施された.式の導出やAVS30には防災科学技術研究所の公開データを大量に利用させていただいた.記して感謝する.
石辺ほか,2017,日本地震学会秋季大会講演予稿集S15-13
Matsu’ura, R. S., 2017, https://doi.org/10.1186/s40562-017-0069-4
松浦・中村,2016,歴史地震,31, 9-16.
田中ほか,2017,日本地震工学会第13回年次大会梗概集,P4-5.