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[SSS14-21] 水~土連成解析を用いた2008年岩手・宮城内陸地震における荒砥沢ダムにおける基盤上昇波の推定
キーワード:ロックフィルダム、入射波、基盤、材料非線形性、多次元波動伝播、粘性境界
2008年岩手・宮城内陸地震において,荒砥沢ダムでは特徴的な強震記録が得られている1).ダム底部の監査廊では,最大加速度が1024Galを記録した.ダム基礎における国内の地震観測記録で1000Galを超える記録は現時点で他にない.ダム底部でこのような記録的な加速度が観測された一方で,監査廊の上部に位置する中段コア部とさらに上方の天端部において観測された最大加速度は,それぞれ535Galと525Galとなっている.このように,基盤に対する応答倍率が大きく1を下回るという特徴も他に例を見ない.波多野ら2)は,ロックフィルダムの非線形特性を評価した上で,等価線形解析と修正R-Oモデルを用いた逐次非線形解析によって,応答倍率が大きく低下する現象を再現している.
さて,当然のことながら,上記のダム基礎における1000Galを超える強震観測記録には,ダム表面等における反射波の影響が多分に含まれているものと考えられる.また,その反射波は,ダム堤体材料の非線形性やダム内で生じる複雑な反射・屈折現象の影響を直接的に受けていると考えられる.今後,重要構造物の耐震設計における適切な入力加速度を考えてゆく上で,これらの影響を加味して,上記の観測記録を元に,震源から伝播してきた地震波を推定することは,重要な意味を持つ.
そこで,本研究では,著者らの研究グループがこれまでに開発してきた水~土連成有限変形解析コードGEOASIA3)を用いて,同観測記録の特徴を再現するとともに,同地点の基盤上昇波を推定することを試みた.GEOASIAは,速度型の運動方程式を逐次時間積分する有限要素解析コードである.構成式には,著者らが提案する複合負荷弾塑性構成式4)を採用している.この構成式は,SYS Cam-clay modelと非関連Drucker-Prager modelが複合的な負荷状態を示し得るモデルであり,砂質土が液状化時に示すサイクリックモビリティをも再現可能である.また,著者らが提案する粘性境界条件を利用した基盤上昇波の推定手法5)を適用した.これは,基盤における観測記録を入力条件に,解析対象の応答と共に,解析領域への入射波を推定する手法である.適用する数値解析コードと解析対象の幾何的特徴に応じて,非線形性と多次元波動伝播の影響を考慮した推定を可能にする.
波多野らと同様に,中・小規模の地震では,基盤部の応答に比べてコア内部や天端部の応答が大きくなる一方で,2008年岩手・宮城内陸地震における観測記録を入力条件に用いた解析では,基盤部に対するコア内部や天端部での応答倍率が1を大きく下回る傾向が再現された.また,このような現象が,堤体材料の履歴減衰の影響によるものであることを示した.さらに,2008年岩手・宮城内陸地震に対し推定された基盤上昇波は観測記録のおよそ半分程度であった.なお,このように入射波に比べて,基盤での応答が倍近くまで大きくなるのは,繰返し負荷によって堤体材料の剛性が劣化し,観測点近傍で全反射的な現象が生じるためであると考えられる.
参考文献
1) 国総研資料, 第734号, 国土交通省所管ダムの地震加速度記録, http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0734DL.htm.
2) 波多野圭亮, 佐藤信光, 冨田尚樹 (2010): 岩手・宮城内陸地震の強震動に対する ロックフィルダムの地震応答挙動の再現解析, 平成22年度水資源機構技術研究発表会.
3) Noda, T., Asaoka, A. and Nakano, M. (2008): Soil-water coupled finite deformation analysis based on a rate-type equation of motion incorporating the SYS Cam-slay model, Soils and Foundations, 45(6), 771-790.
4) Yamada, S. and Noda, T. (2013): Proposal of a new double hardening elasto-plastic constitutive model of soil skeleton based on integration of associated and non-associated flow rules, Proc. of 15th ARC, JPN-128.
5) 山田正太郎, 野田利弘, 浅岡顕, 澤田義博, 永田優 (2017): 表層地盤の非線形性および多次元波動伝播の影響を考慮した基盤入射波の推定法の提案, 第52回地盤工学研究発表会講演概要集, pp. 1589-1590.
さて,当然のことながら,上記のダム基礎における1000Galを超える強震観測記録には,ダム表面等における反射波の影響が多分に含まれているものと考えられる.また,その反射波は,ダム堤体材料の非線形性やダム内で生じる複雑な反射・屈折現象の影響を直接的に受けていると考えられる.今後,重要構造物の耐震設計における適切な入力加速度を考えてゆく上で,これらの影響を加味して,上記の観測記録を元に,震源から伝播してきた地震波を推定することは,重要な意味を持つ.
そこで,本研究では,著者らの研究グループがこれまでに開発してきた水~土連成有限変形解析コードGEOASIA3)を用いて,同観測記録の特徴を再現するとともに,同地点の基盤上昇波を推定することを試みた.GEOASIAは,速度型の運動方程式を逐次時間積分する有限要素解析コードである.構成式には,著者らが提案する複合負荷弾塑性構成式4)を採用している.この構成式は,SYS Cam-clay modelと非関連Drucker-Prager modelが複合的な負荷状態を示し得るモデルであり,砂質土が液状化時に示すサイクリックモビリティをも再現可能である.また,著者らが提案する粘性境界条件を利用した基盤上昇波の推定手法5)を適用した.これは,基盤における観測記録を入力条件に,解析対象の応答と共に,解析領域への入射波を推定する手法である.適用する数値解析コードと解析対象の幾何的特徴に応じて,非線形性と多次元波動伝播の影響を考慮した推定を可能にする.
波多野らと同様に,中・小規模の地震では,基盤部の応答に比べてコア内部や天端部の応答が大きくなる一方で,2008年岩手・宮城内陸地震における観測記録を入力条件に用いた解析では,基盤部に対するコア内部や天端部での応答倍率が1を大きく下回る傾向が再現された.また,このような現象が,堤体材料の履歴減衰の影響によるものであることを示した.さらに,2008年岩手・宮城内陸地震に対し推定された基盤上昇波は観測記録のおよそ半分程度であった.なお,このように入射波に比べて,基盤での応答が倍近くまで大きくなるのは,繰返し負荷によって堤体材料の剛性が劣化し,観測点近傍で全反射的な現象が生じるためであると考えられる.
参考文献
1) 国総研資料, 第734号, 国土交通省所管ダムの地震加速度記録, http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0734DL.htm.
2) 波多野圭亮, 佐藤信光, 冨田尚樹 (2010): 岩手・宮城内陸地震の強震動に対する ロックフィルダムの地震応答挙動の再現解析, 平成22年度水資源機構技術研究発表会.
3) Noda, T., Asaoka, A. and Nakano, M. (2008): Soil-water coupled finite deformation analysis based on a rate-type equation of motion incorporating the SYS Cam-slay model, Soils and Foundations, 45(6), 771-790.
4) Yamada, S. and Noda, T. (2013): Proposal of a new double hardening elasto-plastic constitutive model of soil skeleton based on integration of associated and non-associated flow rules, Proc. of 15th ARC, JPN-128.
5) 山田正太郎, 野田利弘, 浅岡顕, 澤田義博, 永田優 (2017): 表層地盤の非線形性および多次元波動伝播の影響を考慮した基盤入射波の推定法の提案, 第52回地盤工学研究発表会講演概要集, pp. 1589-1590.