日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 強震動・地震災害

2018年5月22日(火) 09:00 〜 10:30 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、座長:植竹 富一中井 健太郎(名古屋大学大学院工学研究科)

10:00 〜 10:15

[SSS14-27] 表面波(Rayleigh波・Love波)と実体波の干渉が表層地盤被害に及ぼす数値解析的検討

*中井 健太郎1野田 利弘2浅岡 顕3鈴木 彩華1 (1.名古屋大学大学院工学研究科、2.名古屋大学減災連携研究センター、3.地震予知総合研究振興会)

キーワード:表面波、Rayleigh波、Love波、地層不整形性、有効応力解析

メキシコ地震(1985)やネパール地震(2015)のように,不整形地盤が起因して地震被害が甚大化・局所化したという報告がされている.兵庫県南部地震(1995)で観測された帯状の被害(震災の帯)も同様であるが,このような被害は地層の不整形性に起因して励起された表面波と堆積層を通過した実体波が地表の特定位置で干渉・増幅したため(「エッジ効果1)」)だと言われている.しかし,実際の地震観測記録から表面波のみを抽出することは難しく,表面波が表層地盤の揺れに与える影響は未だ十分には解明されていない.一方,地表震度や液状化などのハザードマップの多くは,等価線形解析または非線形解析(全応力解析)が一通り実施されているものの,経験的なN値とせん断波速度Vsの関係式に基づく鉛直一次元弾性計算から求めていることがほとんどである.このため,これらの検討では,地中の不整形な地層・基盤構造による表面波生成などの多次元的な効果が考慮されておらず,地震被害を過小評価している危険性がある.本稿では,地層の不整形性を考慮した二次元・三次元地震応答解析を実施し,表面波の生成や,表面波と実体波の複雑な干渉が,表層地盤被害へ及ぼす影響を検討した.用いた解析コードは,砂から中間土,粘土までを同じ理論的枠組で記述する弾塑性構成式(SYSカムクレイモデル2)を搭載した水~土連成有限変形解析コードGEOASIA3である.

最初に,地盤不整形性を考慮した弾性地盤の地震応答解析を実施し,不整形基盤から生成される表面波(Rayleigh波・Love波)を数値的に再現するとともに,弾性理論解の特徴を満たしているかを確認した.その結果,基盤傾斜に対して水平方向(x方向)に地震動を入力すると傾斜基端部から表層を伝播する波が生成し,(1)半無限一層地盤の場合は単一周期の規則波である,(2)表層で変位が大きく深部ほど小さくなる,(3)地表面で反時計回りの軌跡を描くが深部では時計回りとなる,(4)多層地盤の場合は波の分散が観察されるなど,Rayleigh波の弾性理論解の特徴を再現していることを確認した.一方,紙面奥行き方向(y方向)に地震動を入力すると地表面と平行(y方向)の成分のみを有する波が励起され,(1)伝播とともに分散性を示すこと,(2)一層系の半無限地盤では発生しないこと,など,理論的に得られるLove波の特徴を再現していることを確認した.

地盤の不整形性が起因となって,基端部から表面波(Rayleigh波とLove波)が励起されることを確認したので,硬質な基盤に軟弱な粘性土が堆積した盆地形状を呈する地盤を想定して,表面波が表層地盤被害に及ぼす影響について二相系弾塑性体の有限変形解析によって検討した.図1はせん断ひずみの経時変化を示すが,ひずみが左右の傾斜基端部から中央部へと進展しており,表面波が伝播する様子がわかる.また,不整形境界における実体波の屈折や,表面波と実体波の複雑な干渉が影響して,せん断ひずみ分布は非一様な様相を呈する.解析結果から,地盤不整形性を考慮すると,(1)せん断ひずみは非一様に発生し,局所的に大きくなること,(2)表面波は盆地内に滞留して長時間揺れ続けるため,平均有効応力低下率は一次元解析よりも大きく,地震後も増加し続けること,(3)地震後の沈下量も非一様に発生し,局所的に大きくなること,(4)本検討では,平均有効応力低下率への寄与度はLove波よりもRayleigh波の方が高いこと,などを示した.本稿の解析結果から,表面波の生成・伝播に代表される多次元効果は無視できる程度ではなく,より精緻かつ実情に合った被害予測のためには考慮すべき事項であることを示し,地層の不整形性を考慮した多次元有効応力解析の必要性と有用性を示唆した.


1) 川瀬博, 松島信一 (1998): エッジ効果に着目した単純な二次元盆地構造の三次元波動場解析, 地震, 50(4), 431-449.
2) Asaoka, A., Noda, T., Yamada, E., Kaneda, K. and Nakano, M. (2002): An elasto-plastic description of two distinct volume change mechanisms of soils, Soils and Foundations, 42(5), 47-57.
3) Noda, T., Asaoka, A. and Nakano, M. (2008): Soil-water coupled finite deformation analysis based on a rate-type equation of motion incorporating the SYS Cam-clay model, Soils and Foundations, 48(6), 771-790.