日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 強震動・地震災害

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)

[SSS14-P40] 応答解析を用いた即時個別建物被害評価の試み

*時実 良典1中村 洋光2小丸 安史1清水 智1水越 熏3近藤 一平3藤原 広行2 (1.応用アール・エム・エス株式会社、2.防災科学技術研究所、3.株式会社イー・アール・エス)

キーワード:建物被害

1. はじめに

防災科学技術研究所では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題「レジリエントな防災・減災機能の強化」において、災害発生直後の初動対応の意思決定支援等に資することを目的として、大地震のような広域にわたる災害が発生した場合でも被害全体をリアルタイムに推定、状況を把握することを可能とするリアルタイム被害推定・状況把握システムの研究開発を実施している。その一環で開発が進められている全国を対象とした地震被害推定システムでは、全国を250mメッシュ四方に分割し、地震動指標と建物被害率の統計的な関係を表す被害関数を用いた建物被害推定を行う。この方法は、建物種別や建物年代というような大まかな建物属性を反映した被害関数により、広域を俯瞰して被害の概要を推定するものとして有効である一方、更にきめ細かい被害推定を行うために必要な建物の詳細な個別性は十分には反映できない課題がある。そこで、本研究では更にきめ細かい災害対応に資することを目標に、個別建物モデルを用いた個別建物の応答解析による建物変位から被害を即時に推定する手法を検討する。



2. 本研究で用いる応答解析手法

地震発生直後に広域での時刻歴地震波形をリアルタイムに空間的に補完して推定することが現時点では困難であることから、ここでは、リアルタイムに空間補完の可能な応答スペクトルを入力として建物応答解析を行う限界耐力計算法を用いる。限界耐力計算法による層間変形角の精度を検証するために、複数の地震動を用いて非線形時刻歴応答解析と限界耐力計算法による層間変形角を比較した。その結果、実地震動に基づいて限界耐力計算法により応答解析を行った場合、応答スペクトルの凹凸により応答値が不安定になる場合がみられた。この影響を緩和するために、複数の耐力を与えて応答解析結果(層間変形角)を平均化することにより、非線形時刻歴応答解析による層間変形角との誤差を縮小する方法を検討した。その結果、RC造建物で±20%程度、木造・鉄骨造で±40%程度変化させた場合に非線形時刻歴応答解析との誤差を最小化できることを明らかにした。



3. 層間変形角と建物被害の関係

応答解析による層間変形角と建物被害の関係を調べるために、過去に発生した複数の地震の建物被害と建物属性(建物構造・建築年代)が明らかな35万棟を対象とした応答解析を実施し、被害と層間変形角の関係を調査した。入力地震動は観測記録を空間補完することにより作成した加速度応答スペクトルを使用した。

応答解析にあたっては、下記の2パターンの方法で建物耐力を設定し、それぞれによる層間変形角と被害の関係を調べた。

パターン1:建物属性毎に一つの建物耐力を与える方法

パターン2:同じ入力地震動に対し被害の大きい建物ほど耐力が弱いと仮定して、建物属性毎の建物耐力分布と市区町村別建物被害率(実被害)により、建物属性・被害別に耐力を与える方法。



パターン1の応答解析結果に基づいて、実被害が一部損壊と半壊以上の被害を受けた建物の層間変形角を比較すると、一部損壊建物が全半壊建物よりも層間変形角がやや小さいものの、被害程度と層間変形角の間には明瞭な違いは見られなかった。一方で、パターン2の応答解析結果では、被害程度の大きな建物ほど層間変形角が大きい傾向がみられた。

この原因としては、建物属性毎の建物耐力分布を比較した場合、建物属性間での耐力の相違よりも、同一の建物属性内での耐力のバラツキの方が大きいことが考えられる。構造や建築年代といった建物属性が同じであっても、建物形状や偏心の有無などによって建物耐力に違いが生ずることが考えられ、地震による被害はこれらにより耐力が弱い建物で発生する可能性がある。



4. 建物被害推定パラメータの検討

建物の個別性を反映した個別建物モデルを使用することを念頭に、前項においてパターン2の応答解析結果と建物の実被害データに基づいて、層間変形角から建物被害を推定する際に使用する被災度ランク別の損傷確率曲線のパラメータを検討した。損傷確率曲線は既往研究を参考に対数正規分布の累積分布関数とし、そのパラメータとして各被災度別の中央値を参考として設定すると共に、過去に発生した地震の被害の再現性について検討した。



謝辞:本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施された。