日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2018年5月20日(日) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、谷川 亘(国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所、共同)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:松澤 孝紀(防災科学技術研究所)、向吉 秀樹

15:45 〜 16:00

[SSS15-02] 関東直下フィリピン海プレート上面で発生するプレート境界地震の震源分布の詳細と、繰り返し地震の発生メカニズム

*吉田 圭佑1長谷川 昭1 (1.東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)

キーワード:アスペリティ、繰り返し地震、プレート境界地震

プレート境界面での固着状態・震源過程の多様性を統一的に説明するモデルとして、アスペリティ・モデルがある (Lay & Kanamori, 1981)。アスペリティと言う言葉は、もともと物体の表面の粗さやでこぼこした部分を意味し、岩石試料を用いた摩擦すべり実験の分野で2つの岩石を1つの面で接触させた際に、2つの岩石がかみ合って真に接触している突起部分を呼んでいた (Scholz, 1990)。最近の研究により,プレート間の固着状況には、場所による顕著な違いがあることがわかってきている (例えば、Hashimoto et al., 2009)。

沈み込み帯のプレート境界面上の固着に影響を与えると考えられる要因の一つに、沈み込んだ海山の存在が挙げられる(e.g. Cloos, 1992)。理論的考察により、沈み込んだ海山が、プレート境界面上の法線応力・摩擦強度を局所的に上昇させ、大きなアスペリティとして大地震を生じさせる可能性が指摘されている (e.g. Scholz & Small, 1997)。その一方、主に観測事実を根拠に、海山の細かい凹凸が大地震の発生をむしろ妨げ、小地震や非地震性すべりを生じさせやすくしている可能性も指摘されている (e.g. Kelleher and McCann, 1976; Mochizuki et al., 2008; Wang & Bikek, 2011)。

プレート境界地震の発生メカニズムを理解するためには、詳細なプレート境界形状の把握が重要である。本講演では、関東直下のフィリピン海プレート上面境界付近で発生する地震の震源分布を高精度に決め直し、それを基にプレート境界面形状を調べた結果について紹介する。

最初に、陸上の基盤観測網が分布する茨城県直下において、フィリピン海プレート上面境界付近で発生した 6,465個の地震の震源の再決定を行った。震央距離 5 km以内の地震間で、カタログに記載された、あるいは地震波速度構造を仮定して計算により求めたP波とS波到達時刻の0.1s前から始まるそれぞれ 1.5s, 2.5sの長さのwindowを用いて相互相関関数を計算し、その相関係数が 0.85以上であった場合に時間差を求め、相対震源決定のためのデータに用いることにした。得られた時間差データ 2,286,034個を、一元化震源カタログ記載のP, S波到達時刻データ 603,274個に加えて、Double-Difference法 (Waldhauser & Ellsworth, 2002)を適用することにより、震源の再決定を行った。イタレーションの過程で、波形相関により得られた走時差残差は 113msecから11 msecまで減少した。

再決定された震源の多くは、初期震源とした気象庁一元化震源の場合よりも、フィリピン海プレート上面境界に集中して分布するようになった。対象領域に繰り返し地震のクラスターが存在することが指摘されていたが (e.g. Kimura et al., 2006; Uchida et al., 2017)、震源再決定により、よりマグニチュードの小さな繰り返し地震が更に多数分布することがわかった。震源の大局的な分布は、震源分布・メカニズム解・3次元地震波速度構造を用いて推定された広域のプレートモデル (Hirose et al., 2008)と大局的には調和的である。しかし詳細に比較すると、最大傾斜の方向や傾斜角が、広域のプレートモデルとは有意に異なっていることが分かった。例えば、繰り返し地震がいくつも含まれる規模の大きい (~20 km)茨城県南部のクラスターは、その最大傾斜の方向が北北東-南南西であり、プレートモデルによる最大傾斜の方向、北西-南東方向と大きく異なり、傾斜角も10度程度大きい。この観測事実は、繰り返し地震を含むプレート境界面上の集中的な地震活動が、プレート境界形状が急激に変化するところに集中して生じていることを意味し、それらが局所的な凹凸に起因する法線応力の増加のために生じていることを示唆する。このクラスターに繰り返し地震が数多く発生することは、沈み込む海山の影響により非地震性すべりが生じ、それがアスペリティ部分を繰り返し loadingしていることに起因している可能性がある。